資金調達
グレイが酒樽を持って行ってから3日後。
葵はセルゲイに呼ばれて話を聞いていた。
「アオイの持ち物を買い取ってくれる奴と話を付けた」
「本当ですか!」
聞くところによると、好事家たちのネットワークがあり、
その集団を取りまとめている人物と連絡を取ってくれたそうだ。
セルゲイが騎士団在団中に任務先で「偶然」入手した
異界の品々を買い取ってくれないかと持ちかけてある。
闇の組織というわけではないが、物好きの集団ということもあって
ここで売りさばいた品が表に出るとか、王家の目にとまるとか
そういった心配はないとのことで一安心だ。
葵は早速持ち物の中で残したいものと売るものを分けることにする。
セルゲイが葵の持ち物を見てみたいと言ったので、
リビングの大きな机の上にバッグから持ち物を全て出す。
見たことのない物がずらりと並んでいるようで、
セルゲイは興味深そうにひとつひとつを眺めている。
「見たことないものばかりだ。これは何だ…?」
「それはスマートフォン…携帯電話ですね。ええと、こちらの水鏡のように、遠くの人と話したり、手紙のようなもののやりとりを一瞬で行ったり、あとは写真……写真ってこの世界にあるんですかね……」
「シャシン?」
「何て言ったら良いんだろう……人物も景色も、目の前の映像をそのまま絵のように保存できるもの…ですかね。絵ではないんですけど」
この世界には肖像画があるという話だったので
恐らく写真は無いと思われる。
そうなってくると説明はかなり難しい。
完全に理解したわけではないだろうが、
セルゲイがなるほど、と呟いたので一旦説明はそこで切り上げた。
セルゲイがじっと見つめている中で、荷物を手早く仕分けていく。
まずバッグ。これは持ち物をまとめておくのに必要だ。
スマートフォンは既に充電が切れて使い物にならないが、
元の世界に帰った時に無いと困るので残す。
財布……は元の世界に帰って買い換えることもできるが、
現金やカードも入っているのでこれもまとめて残すことにする。
メイクポーチ。中には小さめのファンデーション、
グロス、マスカラ、アイブロウ、アイライナー、チーク。
メイク落としを持っていないのでメイクをする余裕も無い。
品質はともかくこちらの世界ではこちらの化粧があるだろうし、
資金作りの方が優先度は高い。
ポーチも中身もまとめて売りに回し、
二つ折りの鏡だけは手元に残すことにする。
用途が分からないもの、使えないものであっても
精霊の加護を受ける異界の住人の持ち物であれば
縁起物として歓迎されることも多いらしい。
イヤホン、文庫本、お守り、ストラップ等
元の世界に戻れば買い直せるものは全て売りに回す。
ブックマークやペンももちろん手放すが、
こちらは使えるものなので高値で売れるかもしれない。
「一旦このくらいでしょうか……」
「分かった。念のため、アオイの顔を見せるわけにはいかないからな。儂が預かってなるべく高値で売りさばいてこよう。それでいいか?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
売りに出す時に値段を左右するかもしれないので、
それぞれの用途を簡単に伝えていく。
セルゲイは一つずつ確認しながら、必要に応じてメモまで取ってくれた。
仕事の時も新人はメモを取れとかよく言われるが、
こうして書いてくれているのを見るとやはり安心するものだ。
「そういえば、この世界でも紙やペンは贅沢品ではないんですね?」
「どうかな。一般市民が使う機会はそうそうないかもしれん。商売をする者は比較的使うことが多いが」
「本…書籍は一般に流通しているんでしょうか?」
「本は王都で国が管理している図書館があるくらいだな」
「なるほど」
まだまだ知らないことは多そうだ。
ひとまず持ち物の売却はセルゲイに任せ、
葵は商品開発に着手することにしたのだった。




