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まさか聖女だとは思ってなかったので雑貨屋を始めました  作者: しまりす
第一章 雑貨屋準備編
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騎士団の青年

「……よし!」


今日は騎士団の団員が酒を受け取りに来る日である。

既にミハエルとの商談前に

マリーに数着服を用意してもらっており、

その中から一番しっかりして見えそうな

落ち着いた紺色のワンピースを選んだ。


貴族のご令嬢はドレスを着ることが多いようだが、

一般の女性がそんなに裾の長い服を着ることはないらしい。

家事や仕事がしにくいからだろう。

ご令嬢たちは着飾り見初められることも仕事の一つなので

ある意味ドレスが戦闘服だと言っても良い。


この世界にミニスカートのようなものはなく、

裾が短いとはしたないという印象を与えてしまうらしい。

それどころか、そもそも膝より上の丈の服など

流通していないので、そんな服どこで買ったんだと思われる。


「でも、膝より長い丈ってちょっとバランスが……」


せめて膝あたりか、少し短いくらいだと

もうちょっと脚が長く見えるんじゃなかろうか。

鏡に映った自身を見ながらそう思う。

とはいえワンピース自体はシンプルなデザインで気に入っている。

肌触りも良い。


貴金属類はこちらの世界にもあるそうなので、

元の世界で愛用していた小ぶりのネックレスもつけた。

靴は自前のものを履いている。

こちらの世界のものと材質が異なるかもしれないが、

ぱっと見ただけでは分からないだろう。


葵の借りている一室は二階にある。

支度を済ませて階下へ降りていくと、

セルゲイとマリーが笑顔で出迎えてくれた。

何の所縁もない自分を温かく受け入れて

面倒を見てくれている。

まさかこの歳で恩人ができるなんて。

感謝してもしきれないと思いつつ、葵はポットを手に取る。

マリーに教えてもらった本場の

紅茶の淹れ方を練習中なのだ。

朝食の用意はマリーが、その横で葵は紅茶を淹れる。


昼過ぎには来るだろうとセルゲイが言っていたが、

朝食を終え、紅茶をのんびりと堪能して

少しくつろいでいた頃、扉がノックされる音がした。


マリーは昼食の仕込みに、

セルゲイは酒類をまとめるため奥の部屋にいる。

玄関に最も近い場所にいた葵は

反射的に立ち上がり、玄関の扉を開けた。


「はい」

「っ!?お、女の子……?」


扉を開けるとそこには明るい茶色の髪の青年がいた。

背が高く、細身だが筋肉のあるしっかりとした体つきをしている。

驚いた顔も柔らかい印象で、優しげな好青年の印象を受ける。

腰には帯刀をしており、動きやすそうな軽装だが

胸元にエンブレムのようなものが付いている。

国の紋章か何かだろうか。


いずれにしろ彼が騎士団の団員なのだろう。

セルゲイでもマリーでもなく自分が出てきたので驚いている。

女の子という歳でもないのだが。

むしろ目の前の青年の方が若いのでは?とまじまじと見てしまう。

それから唐突に我に帰り、慌てて名乗る。


「すみません、私はこちらでお世話になっております、アオイと申します」

「ここで…?」

「今セルゲイさんたちを呼んできますね。中でお待ちください」


長話をして何らかのボロが出ても危ない。

さっさと踵を返し、奥の部屋へ向かった。

セルゲイとマリーを伴って戻ると、青年は慣れたように

リビングの一角にあるウッドチェアに浅く腰掛けていた。


「セルゲイ様!」

「グレイ、儂はもう引退した身だ。そのセルゲイ様っていうのはやめろと何度言えば分かるんだ」

「騎士団にとってセルゲイ様はセルゲイ様です」


やっぱり偉い人だったのか、セルゲイさん。

葵はちらりとセルゲイを盗み見て、

それからグレイと呼ばれた青年を見る。

視線に気付いた青年が葵を見てにっこりと笑った。


「先程は名乗れずすみません。私はグレイ。騎士団の者です」

「グレイさんですね。よろしくお願いします」

「セルゲイ様、マリー様、こちらの女性は?」

「マリーと繋がりのある貴族の家の出でね。体が弱くて療養していたんだ。元気になったから今は本人の希望もあって仕事を手伝ってもらっている」

「貴族のお嬢様が、仕事の手伝いですか」


少し引っかかったようだったが、

遠征の途中であったためか

グレイは慌ててセルゲイから酒を受け取る。


「いつもありがとうございます」


騎士団にも経理や事務の担当がいるらしく、

代金はそちら経由で既に支払済みだ。

流石に酒樽の大きさは可愛らしいものである。

あくまで遠征で、遊びに行くわけではない。

酒盛りという感じではなく、野営時に一杯ずつ嗜む程度なのだろう。

このくらいの楽しみはあっても良いはずだ。


「こう見えてグレイは騎士団でもかなりの腕前の持ち主なんだ」

「そうなんですか!お若いのにすごいですね」

「ありがとうございます。ですが、私はまだまだです」


謙遜をしつつも、セルゲイに褒められたことが

嬉しかったらしい。少し頰が緩んでいる。

ますますセルゲイがどんな立ち位置だったのか気になるが、

本人が話したがる風もないので何となく聞けないままだ。


「今回の討伐は?」

「ここより南の村落付近に少し変わった魔物が現れたらしいです」

「突然変異か…?」

「ええ。気を抜けません」

「回復薬の在庫も少しある。何かあったら持って行ってくれ」

「お気遣いありがとうございます。それでは」


立ち話もそこそこにグレイは遠征へ戻って行く。


まさか、今回の討伐が大事になるとは

その時は誰も思ってもいなかったのだったー…。


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