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ボルト頭の少女の中で!  作者: 大和ミズン
3章 命の香り
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014 命の香り④

 都合、何度めかの襲撃。

 その度に、エリザベスは探知し、マックスは逃げ切って。もう、一時間ぐらい。ずっと、生き延びては居る。けれど――


 「くっ――ごめん、リザ。そろそろ、限界っ……」


 「ありがとう、マックス。頑張ったね……」


 遂に、マックスの体力が尽きる。

 マズイ、とても。今まで逃げおおせたのは、マックスの足が敵に勝るからだ。でも、その優位が無くなれば――


 (――(じき)に、追いつかれるでしょうね)


 マックスのお陰で、前から敵が来ることは無くなった。包囲網は、抜けている。其れでも、変わらず敵は追ってくるし、身を隠しても、見つからない保証は無い。

 ああ、困った。どうしよう。手段、全然思いつかない。


 「マックス、取り敢えず隠れるわよ。何処か、適当な建物に」


 「分かった……」


 一番近くにあった、アパートメント。住人が来ない事を祈りつつ、その二階に潜り込んで――マックスが倒れる。


 「もうちょっと早く、弱音吐いても良かったのに……」


 「ごめん……でも、久しぶりに頼られて、嬉しくて……」


 「謝らなくて良いから。ちょっと、休んでなさい――」


 マックスの頭を、膝の上に乗せてやる。いつもなら、すぐに照れそうなものなのに。今は、黙って目を瞑って――息を整えるだけ。


 (ほんとに、限界だったのね……)


 頑張りすぎだ。だけど、こういう(ひと)は、嫌いじゃないし。もう少し報われたって良いと思うから。

 だから――


 (――ジョン。いい方法、無い?)


 頼る。困ったら、すぐに。大丈夫、ジョンは偉そうな男だけれど、意地悪じゃない。


 『ある。と言いたいが、思いつかない。俺は別に、頭脳派じゃなかったからな』


 其れは、知っている。どう考えても、ゴリゴリの肉体派だ。いたいけな少女の身体を使っても、そうなんだから。


 (質問を変えるわ。貴方はこういうとき、いつもどうしてた?)


 別に頭脳はじゃなくても。戦士としての彼は、経験豊富だ。退避戦の経験だって、きっとある。


 『決まってる。戦ったよ。――まあ、やり方は工夫したがな』


 空気を読まない冗談を混ぜながらも、頼もしい答えが来る。

 やっぱり、こういうときには頼りになるヤツ。


 「どうやるの――?」


 『此方のアドバンテージを使う。待ち伏せだ』


 此方には、ほぼ確実に勝るモノがあるからな――

 ジョンが、そう言って。




 追撃する刺客達。彼らが其処にいる理由は、各々(おのおの)有るけれど。等しく共通する事項がある。


 (別に、命は掛けちゃいねえ)


 ただ、金とか。減刑とか。他に行く所も無かったからとか。そういう理由でかき集められた、輩たち。だから。


 (給料分は、働く気概も有るけれど)


 それ以上の、モチベーションが有るわけでも無くて。

 だと言うのに――


 『なるほど、拳銃に手投げ弾。近代兵器を装備した兵がこれだけ揃えば、それだけでアドバンテージだ』


 おかしい。狂ってる。目の前に居るのは、ただの少女。レジスタンスとは言うけれど。頭のボルトを輝かせても、まだ子供で――女の筈なのに。

 少女を装う悪魔は、呆れたように吐き捨てる。


 『だが、弱い。弱すぎる。徒党を組んでも、個々が働くことも知らぬ蟻ならば――踏み潰される意外の道理は無い』


 意味が理解らない。理解らないまま、蹂躙される。

 辺りに散らかる躯の山が、また一つと積み重ねられる。


 (何故こうなった――)


 少し前。敵の居場所を告げる、信号が上がって。

 ならばと、勇み足で駆けつけて。いざ、あの曲がり角の先という所で。


 (地獄が、来た)


 突然、隊列の中に奴が来た。友軍誤射をするワケにはいかないから、拳銃は使えない。手投げ弾はもっとダメだ。

 だから、機械刃(メカニカルナイフ)とか、そういうもので戦おうとするけれど。


 「ひぃっ!?」


 『――遅い』


 また一人。素っ首、ナイフで掻き切られて。

 此方と同じ機械刃。どうやら、鹵獲されたらしい。


 ――パアン。

 銃声が鳴る。堪らなくなって、遂に撃ち始めた者が出てきた。どうせ撃つなら、当ててくれりゃあ良いのに――


 「ガッ、あ――」


 『――出来るなら、この記憶は忘れて生まれ変われよ』


 そう言うなら、止めてくれ。そう言って、聞いてくれる相手では無いし。逃げ出そうものなら、そいつから先に仕留められていく。


 (――ああ)


 ――今出来ることは、順番を待つことだけだった。




 (ひどい――有様ね)


 ジョンの作戦は単純だ。敵の察知は、此方が確実に早い。だから先手を取って、敵の隊列の中に飛び込んで――崩す。


 (その結果が、この死体の山)


 酷くスローモーな世界で、エリザベスは凄惨な光景を見せられ続ける。

 血で塗れていく腕は、間違いなく自分のものなのに。頭に焼き付けられて行く光景は、まるで他人の事よう。


 (これ、なんとかして利用出来ないかしら――)


 エリザベスは傍観しながら、頭のネジが緩んでいくのを感じた。




 「ああ、コイツはヤバイ」


 拡張したとは言え、通し番(シリーズ)じゃ出来損ないの鼻。その鼻腔にも届く血臭が、風に乗ってやって来る。


 「此れじゃあ、虎の子を出すしか無いじゃないか」


 嬉しそうな口調で、変わらぬ表情で。パウダーは独り言つ。

 そうして自ら構える、鉄製の大筒(ロケットランチャー)。仔細な場所は理解らずとも、アレだけ騒げばアタリは付く。そうなれば――


 「――さあ、行って来い」


 銃爪(ひきがね)が引かれて。

 バックブラストが唸り。

 そして。


 榴弾が、飛翔する――!




 ――飛ぶ、飛ぶ。鉄と火薬の塊は、200メートル毎秒の速さスピードで、目的を果たそうとする。

 誰も知らない。ボルト頭の少女以上に圧倒的な、破壊の権化の襲来も。その後に待ち受ける、凄惨な光景も。

 ただ、一人を除いて――


 『――マアアアアアアッッックスッッ!!!!』


 少女は、否――ジョンは吼える。

 見慣れた緑の視界に映る異物。其れに対して、拡張した脳は最大の警報を鳴らして。


 「オオケイッッ、ジョン!!」


 そして、マックスが応える。

 其れが当然とばかりに。


 「――ッ!」


 既に万全、とは言えなくても。八分ぐらいには回復した。其れだけ有れば、本気で跳ぶには十分だ。

 ただの、一歩で距離を詰めて。エリザベスの身体を抱えて。二歩目で、退避。迫りくる死から、全速で退避して。




 ガ――――――




 ――閃光と、爆炎。辺りに満ちる、強烈な匂い。

 辺りは途端に瓦礫に埋め尽くされたけれど、その事実はきちんと認識出来ていて。


 「なんでっ。このタイミングで戻るのよっ……!」


 『仕方無いだろう――動きすぎた。もう、限界だった』


 悪態をつきながら、エリザベスは這い上がる。

 身体、あちこち痛くても。取り分け大事は無さそうだ。


 「良かった……リザも……無事だ、ね」


 腰掛けたままだが、マックスも生きちゃ居るらしい。ただ、頭から血が――


 (切っただけみたいだけど、放っておくのはマズイ)


 でも、処置をするためのものは無い。

 それに、此処に何時までも居られない。居たら、良くて病院行きで。そしたら、補足されてゲームオーバーだ。


 「取り敢えず、布だけでも巻いて――」


 「きゃっ。だ、大丈夫ですか――!?」


 声が、聞こえた。女の声。

 振り返れば、駆け寄ってくる若い男女。騒ぎに、駆けつけてきたのか。


 「血が出てるな!? 取り敢えず、早く病院に――」


 「待って、其れは駄目!」


 慌てた様子で男が言うのを、制止する。

 シメた。此れは――チャンスだ。この状況なら、汚らしい身なりも、気にはされない。


 「私達、デモをやるための集まりだったの……けど、警察に逮捕されそうになって、素性も調べられて……其れでも集まったら――ああなったの」


 何のための、とかは言わないまま。目を伏せて、死体と瓦礫の山を指す。

 焼け焦げて、もう顔もなにも判らなくなった屍たち。


 「だから、病院は駄目……警察が来て、掴まっちゃう……!」


 「分かった。でも、彼を放っては置けない。――僕の家に連れて行こう」


 「そ、そうですよ!」


 男が勇ましく言って。戸惑いながらも、女が同意して。


 「ありがとう、お願いします……!」


 エリザベスがそう言うと、男はマックスを抱えて。

 一目散に駆け出す。全く、頼もしい限りだ。


 (ねえ――ジョン)


 『――なんだ』


 其れを追いかけつつ。エリザベスはジョンに問いかける。


 (この国って、機械義肢(ギア)の研究所とか無い? 非公開で、人体実験とかしてるヤツ)


 『まあ、あるな。マックスなんかは、その出身だ』


 そう、なのか。マックスの出自に思うところは有るけれど――




 ――取り敢えず。私たちは、義肢試験の被害者ってことにでもしよう。 

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