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ボルト頭の少女の中で!  作者: 大和ミズン
3章 命の香り
15/15

015 命の香り⑤

 「――ほんとに、ありがとう。ジンジャー」


 「礼には、及びません!」


 エリザベスの、本心からの礼に。ジンジャーと呼ばれた若い女性は、当然のことをしたまでだ、という風だ。

 此処は、アパートの一室。その主は――


 「ただいま!」


 「クリストフ、おかえりなさい!」


 ――丁度帰ってきた。クリストフと呼ばれた、ガタイの良い青年。

 買い物袋を、腕から降ろし。エリザベス達の元へ、歩み寄ってきて。


 「エリザベスちゃん――マックスさんの様子はどうですか?」


 「大丈夫。此処のところ大変だったから、疲れて眠ってるだけみたい」


 マックスの頭を撫でながら、エリザベスは答える。


 (ここのところと言うには。四年はちょっと、長いかな)


 ずっと地下に潜って、マトモな食事も摂らなくて。

 そうした後の、久しぶりのベッドだ。暫くは、目覚めないだろう。


 「そうだ。雑誌、買ってきたんだけど。この間の爆発騒ぎ――レジスタンスによるテロルって事になってるんだ」


 「えっ、其れはおかしくない?」


 クリストフの言。なるほど、国のどっかしらからの、情報操作だ。エリザベスはそう理解るけれど、何故かジンジャーも、否定的だ。エリザベス達がいるから、というわけでも無さそうで。


 「活動中のレジスタンスなんて、居やしないのに……」


 なるほど、そういうことか。市民たちの間では、未だ根強く囁かれているらしいけれど。

 ジンジャーやクリストフの様な、耳聡い(・・・)連中の中じゃ――


 「まあ、最近の集会でも噂は無かったな」


 「そうでしょ! 其れに、この間の爆発の被害者。やっぱり義肢(ギア)持ちが多かったって」


 「報道も順番も変だな。被害者については一切流れないのに、もう犯人だ」


 「――そして。極めつけはエリザベスちゃんとマックスさん」


 ジンジャーが此方を向いた。何かを、確信したように。


 「やっぱり――この国はおかしい」


 「なら、正さないとな!」


 ジンジャーとクリストフが、頷き合って。二人の世界を作る。


 「俺達、トレノ学生会が――新しいレジスタンスだ」


 何やら、クリストフがカッコつけて。

 ジンジャーも、うんうんと頷いている。


 (ああこいつら、そういう連中だったのね……)


 都合が良いのか、悪いのか。




 ――ジンジャーとクリストフは、学生である。とは言っても、其れがステータスになることはない様な、下流の大学(アカデミー)の。

 そういった連中は、其れはもう不満が溜まっている。キャリアなど無いけれど、其れが自覚出来るくらいの頭があるから。


 (それで、学生集会とかを開いて。自分たちの不満を語り合う)


 まあ、そういう輩は数え切れない。いっぱいいる。でも、少しカリスマ性が在って。正義感にカブれたりしちゃって。そんな奴に引かれた人間が集まっちゃったりしたら――あら簡単。反政府組織の出来上がり。


 「っていう話なのよ。マックス、分かった?」


 「まあ、概ね……」


 ちょっと困っちゃったから、安らかに眠るマックスを頭突で起こして。家主と相方が出かけている間に、マックスと口裏を合わせる。


 「取り敢えず私たちは、国に傷を負わされた、可哀想な被害者を演じるのよ。其れで、機を見て協力をするか、逃げ出すかするの」


 「うーん。別に異論は無いや」


 あら。反対されるかと思ったのに。やり口が汚い、とか。


 「取り敢えずは、情報収集に徹したいし。あとは、精力も付けたい」


 こんなんじゃ、いざというときにも戦えないしね、と。枯れ枝のような腕をマックスが見せる。

 うん。優秀だ。自分の役割が、よく分かっている。


 「じゃあ、そういうことで。随時作戦立てるの、手伝ってね」


 「了解。なんかすっかり、参謀みたいだね」


 「……そういうの、ちょっと憧れてたのよ」


 肉体労働よりは、マトモにこなせそうだし。







 「結局、死体からジョンのギアは見つからなかったんだね」


 「はい。申し訳ありません」


 薄暗いバー。ネイザンに呼出されたパウダーは、頭を下げる。――任務に失敗したためだ。


 (此れは、もう駄目かな)


 目の前のキザ男は、恐い男だ。ニヤついたままの顔で、容赦なく俺の首をはねるだろう。


 (逃げるのも……無理)


 ズラリと並ぶ黒服達。

 もう、逃げ場なんて無かった。


 「そしたらさ。パウダーくんに一つ聞きたいんだけど――」


 遺言でも、聞いてくれるのだろうか。




 「――ステーキの香りは、どうだった?」


 


 ああ。コイツは――

 俺はごくりと、唾を飲み込んで。


 「――期待外れでしたね。味付けもスパイスも良かったのに。ありゃ、肉が悪かった」


 正直に、答える。

 するとネイザンは、口角を吊り上げて。


 「良いね。凄く良い――」


 そんな、賞賛をくれて。


 「――じゃあ、今度はどうするんだい?」


 再びの、問い。

 俺は。


 「決まってます。今度は最高の肉を焼きますよ――」


 ――最高の火薬(スパイス)を用意して。 

次の投稿は6月を予定しております。

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