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ボルト頭の少女の中で!  作者: 大和ミズン
3章 命の香り
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012 命の香り②

 「ふーん。世論を味方に付けて、政府をひっくり返すねえ。分かりやすい方法だけれど、実際どうなの?」


 狭い隠れ家。書類の幾つかに目を通しながら、エリザベスは聞いた。


 「まあ、厳しいね。だから、ひっくり返す目標は現政府で。其処に癒着する貴族だよ」


 答えるのは、マックス。今や唯一のレジスタンス。エリザベスを除けば、の話だが。


 「詰まりどういうことなワケ?」


 どうも具体的でない物言いに、エリザベスは聞き返す。

 ごめんね、と先に付けて。マックスが話し始める。


 「先ずはプロパガンダだね。新聞、雑誌。宣伝媒体を手に入れて、世論を味方に付けるんだ」


 「単純ね」


 そう、単純だ。だからこそ効果的で、敵も同じ方法を取る。


 「うん、僕もそう思うよ。けれど、数年前はこの方法でも上手く行きかけたんだ」


 「そうなの? でも、其れじゃあ何でこんな事になっているワケよ」


 結局、失敗したから下水道なんかで隠れてるんじゃない。エリザベスの物言いも、もっともで。


 「情報規制を入れられた上で。味方の出版社がみんな潰されたたんだ。其れを防ぐ準備は、未だ出来て無かったから……」


 「じゃあ、その方法は却下ね」


 エリザベスが即答する。


 「いや、疑うのも理解るけれど、あの時は本当に――」


 「別に疑っているワケじゃ無いわ」


 ただね。エリザベスが続ける。


 「情報戦をやるにしてもよ。上流(うえ)か市民(した)に、自分達の居場所が無いと駄目だわ。体勢への反感を募らせることは出来るけれど。其れだけなら何れ霧散するもの」


 以前の翡翠の鐘(あなたたち)は、上流階級の集まりだったから、その方策も意味があったでしょうけど――


 「確かに、そうかもしれない……」


 正面から突っぱねられて、マックスは下を向いて。


 「ああもう!」


 その頭を、エリザベスは強引に引き上げる。顔を近づけて、額を突き合わす。

 お互いの呼吸が、肌に感じられる距離。照れくさくて、マックスは目を逸してしまうけれど。


 「目を逸らさない! そんな度胸で、レジスタンスなんかやらないのっ」


 エリザベスに叱られて。


 「いい? 別にプロパガンダをしないって言ってるワケじゃ無いわ。情報戦を行える立場まで、持っていこうと言っているの」


 「は、はいっ」


 マックスは、戸惑いながらも返事をして。


 「だから、先に味方を増やすの。勿論、上に味方は欲しいわ。当時に、翡翠の鐘に賛同していた連中は、未だ政界に生き残っているのよね?」


 「うん、そ、その筈だよ。野党側には、其れなりの数が居る。貴族も――」


 「なら、後々にはそいつらと接触する。でも、今は無理。向こうからしたら、今の翡翠の鐘(レジスタンス)に利用価値が無いもの」


 そうだ。野党側からしたら、そんな事をすれば、与党に付け入る隙を見せる様なものだ。だから、下手に接触を試みれば、売られる可能性すら在る。

 一度闘争に負けた者の立場など、其れくらいのものだ。


 「だから、今は下から攻める。市民でも、スラムの貧民でも、ヤクザ者でも良いけれど。自分たちの居場所を、もう一度作るのよ。何としても。分かった?」


 「そう――だね」


 エリザベスの問いに、マックスは肯定した。


 「君が来て、舞い上がってたけど……二人じゃあ、レジスタンスでも何でも無いしね」


 うん。マックスはそう言って。


 「取り敢えず、上で情報を手に入れる。僕ら二人は、最近の世情に疎いからね。それと並行して、味方を作ろう。飲み仲間でも何でもいいから」


 方策を、改め直した。


 「ちゃんと考えられるじゃない!」


 すると。エリザベスが、突然マックスの頭を抱えて。


 「うん。きちんと頑張れる男は、嫌いじゃないからね――」


 ――マックスの頭を、撫でる。

 指先で、髪を透きながら。胸元に顔を押し付けて。


 「え、うん! ありがとう、が、頑張るよっ!」


 こんなことをされたら、マックスみたいな男なら、すぐに其の気になって。狼狽えながらも、気合が入ってしまう。

 別に、エリザベスも打算でやったワケじゃないけれど。ただ、職業柄と言うか。そういうのが好きなだけ。


 「じゃあ――少し休憩したら、早速外に出ましょうか」


 「わ、分かったよ」


 少しの間。マックスを甘やかしたら。

 そう、エリザベスは決めて――




 『――下水道から、音が聞こえるな。足音だ、しかも複数人』


 「ほんとう!?」


 久しぶりに、ジョンの声が聞こえた。

 同じモノ筈の、自分の耳には聞こえないけれど。でも、ジョンがそういうのなら――


 「どうしたの!?」


 すっかり骨抜きにされていたマックスも、すぐに真剣な顔つきになる。


 「ジョンが足音が聞こえるって言ってる。敵かも知れない」


 「分かった。すぐに地上へ行こう」


 脱出口も、作って有る。マックスが言う。

 うん。いい年なのに気弱だし、ちょっと考えが足りないときも有るけれど。やっぱり――出来る子だ。


 「取り敢えず、この鞄だけ抱えておいて。今更見られて困るものはそうは無いから、残りは全部置いてく」


 そして、マックスが天井に手を掛けた。

 溝に指を這わして、くるりと回す。蓋が外れて、通路が顕になる。人がひとり、ギリギリで通れる幅。


 「エリザベスから先に行って!」


 「分かったっ。それと、リザで良いわ!」


 私は、急いで上がる。垂れた縄梯子、登り詰めて。一番上、板張りで塞がれてるのを――


 「どッせい!」


 頭突きで破壊して、出る!

 此処は、何だろう? 厨房だろうか。


 「そんな事、気にしてる場合じゃないっ!」


 出口、探して。見つけた、窓。カウンターの向こう側。頭から突っ込んで、抜け出す。伊達にスラムで過ごしてないもの、これくらい、軽いっ。


 「エリザベっ……リザ!」


 マックスが、追いついた。相変わらずの身の軽さだ。


 「どう逃げるっ!?」


 「逃走路は一応有るよ! 付いてきてっ」


 先ず、下からだけの襲撃ってことは無いはず。

 地上にも、必ず網は有る。其れを潜って行けるか――




 ――そのとき。どおん、と。爆音と、煙が上がって。

 後ろの、全部――吹き飛んだ。  

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