第七章 観測者と被験体
玉座の間で、
太一は半透明の巨大なスクリーンに映し出される
分身の姿を無表情に見つめていた。
分身が山賊を虐殺し、
その場にへたり込んで吐瀉している様を見ても、
彼の心は波打たない。
それどころか、冷徹な分析を続けていた。
(予想通りだ。身体能力と出力が高すぎる。
コントロールが甘い。
俺の眼がなければ、あの力はただの暴力装置に過ぎない)
彼は、あえて自分の「眼」を分身に与えなかった。
もし分身が「理」を視てしまえば、
彼はすぐに最適解を見出し、
再び孤独な玉座に座るだろう。
それでは意味がない。
彼が望んだのは、
理不尽な暴力と痛みの中で、
あの怯える「厚地太一」が、
他者とどうコミュニケーションをとるかという実験だった。
「さあ、どうする? 俺」
スクリーンの中で、通りがかった商隊が、
血の海に座り込む太一を見つけ、
悲鳴を上げて馬車を反転させる。
太一は必死に手を振る。
「待ってくれ、これは違うんだ!」
と叫ぶが、言葉は裏返り、
その巨体と返り血が、逆に彼らの恐怖を煽るだけだ。
(やはり、話せないか)
本体の太一は、玉座の肘掛けを握りしめた。
魔法の通信越しに命令を下すのとは違う。
生身の人間として、言葉を交わすことの難しさ。
分身の太一が直面しているのは、
剣や魔術では解決できない、
かつて彼が壁の向こうから逃げ出した
「対人関係」という名のレイドボスだった。
「……進め。お前には、帰る場所も、攻略サイトもない」
太一は独り言ち、分身に指示を送ることはしなかった。
ただ、飽きることなく、
自分という孤独な実験体が、
理の通用しない世界で足掻き、傷つき、
それでも誰かと繋がろうとする軌跡を
監視し続けるのだった。




