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『肉塊の玉座と理の王国』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第六十五章 逆流する理、開かれる門

太一の意識が、城の全領域に展開された。

論理都市(ロジック)。

それは彼の孤独が作った監獄だったが、

今はティアや亜人たちの 家 だ。

彼は都市そのものを崩壊させることは選ばなかった。

彼が燃料にするのは、彼自身の魂、

その根幹を成す演算リソースの全てだった。


(俺の全てを、この一撃に込める)

オリジナル太一の肉体が、

灼熱のマグマのように輝き始め

その身体に莫大な魔力の奔流が駆け巡る。

彼は自分自身を媒体とし、

厄災の迷宮にある「理の遺産」の構造式を

強制的に書き換えた。


「アレクシス!

自らの弱さを変えずに

この世界の理を変えようとした、

お前こそ、元の世界に帰り

その理に従って一から生き直すんだ!」


太一が咆哮した瞬間、

厄災の迷宮の石板が激しい光を放った。

空間が裂ける。

だが、それはアレクシスが望んだ

「新たな帝国」への門ではなかった。

その裂け目の向こうに見えたのは、

灰色のビル群と、無機質なコンクリートの道路。

車の騒音と、排気ガスの匂い。

間違いなく、彼らがかつていた世界だった。


「なっ…!? なんだその門は!?

俺の帝国への門ではないぞ!」


アレクシスが初めて狼狽し、後ずさりした。

彼の支配欲、神になりたいという渇望。

それらを満たすための「理の遺産」が、

なぜか彼を元の無力な世界へと繋ごうとしている。


「これが俺の『理』だ、アレクシス!」

太一の声が轟く。


「お前が自分を勇者だと思おうが何と思おうが、

お前はただの人間だ。

血も涙もあり、理不尽に泣き、理不尽に怒る、

ただの人間だ! その事実から逃げるな!」


アレクシスの顔が恐怖で歪む。


「やめろ! 私は戻らない! あんな惨めな世界に!

私は神になるんだ! この世界で全てを支配するんだぁぁぁッ!!」


彼は必死に石板を操作しようと魔力を放つ。

だが、太一の命を燃やした強制接続は、

圧倒的な帯域を持ってアレクシスの魔術を無効化していく。

空間の裂け目が巨大化し、強烈な引力を生み出す。

アレクシスのマントが、ローブが、

そして彼自身の体が、

その引力に抗えず引きずり込まれていく。


「嫌だ! 嫌だぁぁぁ!! 私は王者だ!

私を愛さない世界などいらぬぅぅぅッ!!」


アレクシスの絶叫が迷宮に響き渡った。

それは覇者の断末魔ではなく、

ただの孤独な少年の泣き言だった。

彼は必死に手を伸ばし、石板にしがみつこうとした。

しかし、太一の放った衝撃波がそれを弾き飛ばした。


「これがお前のクリア条件だ。『現実に帰還し、顧みて生き直せ』」


光芒がアレクシスを飲み込んだ。

彼の姿は、灰色の世界へと吸い込まれていき、

次の瞬間、裂け目は轟音と共に閉じた。

石板は力を失い、ただの砕けた石となって床に転がった。


ルシアはその場にへたり込んでいた。

彼女の「神」は、ただの男として元の世界に弾き返された。彼女の愛も野望も、砂上の楼閣のように崩れ去った。


「アレクシス様…アレクシス様ぁ…」

彼女は空虚な空間に手を伸ばし、涙を流した。

だが、もうその声は届かない。

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