第六十三章 全てを託す、空白の決意
「……よく言ったよ、アレクシス」
重低音が厄災の迷宮を揺らした。
アレクシスが顔を上げる。
リーネが驚いて周囲を見回す。
そして膝をついていた分身の太一も、
その声にハッと顔を上げた。
「俺はお前の言う通り、
他者を恐れた臆病者だ。
自分の醜さを隠すために分身を作り、
安全な玉座に籠った卑怯者だ。
俺の存在は、お前が言う通り歪んでいる」
太一は認めた。
全てを。
だが、彼の声は震えていなかった。
むしろ、これまでにない力強さが宿っていた。
「だが、一つだけ訂正させろ……
俺の分身は空っぽなんかじゃない!」
太一の声が、迷宮の空気を震わせる。
「俺は分身の彼に一つだけ
与えていないものがある。
それは『理の眼』だ。
世界を数値化し、
最適化し、冷徹に切り捨てる力。
俺がそうだったように、孤独に至る力だ」
「俺は彼にその眼を与えなかった。
俺と同じ過ちを繰り返させないためだ。
だから彼は
俺より愚かで、
不器用で、
よく暴走する。
だが、
その愚かさのせいで、
彼は誰かと繋がることができた。
…… 俺だけでは決してできなかったことに!」
アバター太一が涙を浮かべて声を聞いていた。
「確かにお前は俺のアバターだ。
俺の分身だ。
だが、お前は俺がなれなかった『俺』だ!」
太一は自分の胸を押さえた。心臓がない場所が熱い。
「だから、頼む。お前が俺だ。
死にゆく俺の代わりに、俺の意志を継げ。
お前の中にある情を信じろ。
リーネを守れ。
俺の…俺たちの明日を繋げ!」
その言葉は、アバター太一の心に深く突き刺さった。
「俺が…俺の代わり…?」
彼は震える手で杖を握りしめた。
自分は偽物だと言われた。
しかし、
本体は「俺以上の俺」だと言ってくれた。
空っぽなんかじゃない。
彼の情は、彼自身のものだ。
「タイチ…!」
リーネが太一の手を握った。
その手は温かく、確かだった。
太一は顔を上げた。
もう迷いはなかった。
「ああ…わかった。俺が俺でいく。
あんたの分も生きてやる!」




