第六十一章 異界の同胞、歪める理
「異界の…同胞?」
太一は杖を構えたまま、困惑した。
目の前の男、アレクシス。
その纏う空気は、この世界の誰とも違っていた。
それは太一自身が時折感じる「異質さ」と同じだった。
「そうだ。我らは同じ匂いを持つ。
この世界の理とは異なる、別の法則の住人だ」
アレクシスは一歩近づいた。
その歩みには隙がなく、自信に満ちていた。
「同胞? 何を言ってるんだ、お前は!」
太一は杖を構え、声を荒げた。
彼の心臓は早鐘を打っていた。
目の前の男が放つ圧迫感と、
彼の口にする言葉の不可解さに、
本能的な恐怖を覚えていたからだ。
アレクシスは太一の反応を見て、
小さく鼻を鳴らした。
まるで子供の嘘を見抜いた大人のような、
憐れみを含んだ笑みだった。
「必死に否定するな。
だが、その反応もまた予想通りだ」
彼はゆっくりと太一の周りを歩き出した。
「お前からは確かに異界の理の匂いがする。
だが、同時に決定的に欠けているものがある。
それは『核』だ」
「核…?」
「記憶だ。お前は自分が誰であるかを知らない。
ただ漠然と『厚地太一』という名を名乗っているが、
それに意味はあるのか?
お前の振る舞いはあまりにも未熟で、感情過多だ。
俺が知る異界の住人は、
もっと冷徹で理知的なはずだ」
アレクシスの言葉は鋭いナイフのように太一の胸を刺した。
(未熟? 感情過多?)
それは彼がリーネと旅をする中で身につけた「情」を否定されているようだった。
「そして何より…」
アレクシスは立ち止まり、太一の顔を覗き込んだ。
その瞳は金色に光り、太一の奥底を見透かすようだった。
「お前の視線が時折、
虚空を彷徨っていることに気づいているぞ。
まるで自分ではない誰かに指示を仰いでいるかのように。
あるいは…誰かに見られていることを気にしているかのように」
太一はビクリと肩を震わせた。
(見られている? 誰かに?)
まさにその通りだった。
彼は時折、誰かの視線を感じていた。
温かく、そして少し寂しい視線を。
「やはりな。お前は『本体』ではない」
アレクシスは断言した。
「お前はただの端末だ。
何者かが作り出した、
この世界と干渉するためのアバターだ。
記憶を削られ、
感情のリミッターを外され、
ただこの場に放り出された実験体」
「う、嘘だ…! 俺は…俺は…!」
太一は首を横に振った。
認めたくない。
自分が誰かの作った偽物だなんて。
「認めろ。そして聞け、そこの観測者よ!」
アレクシスは突然、
太一の背後にある虚空に向かって声を張り上げた。
「聞こえているだろう?
厄災の迷宮の最深部で、
お前の分身が震えている様を
モニターしているのだろう?
厚地太一! もう一人のお前よ!」




