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『肉塊の玉座と理の王国』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第六十章 銀牙の閃き、道を拓く

厄災の迷宮は、その名に違わぬ不気味な場所だった。

かつて古代王朝の巨大な鉱山だった場所が、

魔獣の巣窟と化し、立ち込める瘴気は見る者の気力を削ぐ。


入り口付近には、

赤牙の残党と思われる野営の跡があったが、

すでに人はいなかった。

彼らはさらに深部へと進んでいるらしい。


「罠くさいな」


リーネが警戒しながら進む。

その時、迷宮の壁面から無数の影が飛び出してきた。


「岩喰いアリ」の大群だ。

成人男性ほどの大きさがある巨大な蟲で、

その顎は鋼鉄をも噛み砕く。

以前の二人なら、

この数に囲まれれば危機的状況だっただろう。


「来るぞ!」


先頭のアリが顎を振り上げ、リーネに襲いかかる。

だが、リーネの反応は以前とは別次元だった。


「遅ぇよ!」


彼女が銀牙を逆手に引き抜くと、

白銀の残像が走った。

ドォン! という重い音ではなく、

シュパッという空気が裂ける鋭い音。


襲いかかったアリは、

硬い外殻ごと真っ二つに両断されていた。

以前の「氷牙」なら、硬い外殻に弾かれ、

何度も斬りつけなければならなかった相手だ。

だが、生まれ変わった「銀牙」は、

魔獣の殻などを紙のように切り裂く。


「すごい…!」


太一が思わず声を漏らす。


「へへっ、シルヴィアの姉さん、

とんでもねぇ剣打ってくれたな!」


リーネの目にも驚きと喜びが浮かんでいる。

剣が軽い。

あまりにも軽すぎる。

まるで自分の腕が伸びたかのように、

意思に合わせて刃が舞う。


アリの群れが一斉に襲いかかる。


「タイチ! 足止め頼む!」

「任せろ!」


太一は杖を突き出した。


「散開せよ! 衝撃波!」


放たれた衝撃波がアリの隊列を崩す。

その隙を逃さず、リーネが踏み込んだ。

彼女の体から淡い銀色のオーラが噴き出す。それは太一の付与した魔法と、銀牙の魔力伝導率が共鳴した結果だった。


「はぁぁぁっ!!」

大剣が弧を描く。

その一振りごとに、三匹、四匹とアリが斬り裂かれていく。


以前の彼女なら力任せに叩き斬っていたが、

今の彼女は剣の切れ味と軽さを活かし、

最小限の動きで急所を正確に突き刺していく。


数十秒後。

大群は全て静物と化し、

リーネは血振るい一つで刃についた体液を払った。


「楽勝だったな」


彼女は息一つ乱さず、不敵に笑った。


「…すごいな、リーネ。本当に強くなった」


太一は素直に感嘆した。


「このシルヴィアの剣とお前の魔法のおかげだろ。

援護があるから迷わず振れるんだ」


リーネは太一に向かって親指を立てた。


「厄災の迷宮」の入り口に辿り着いた。

そこは巨大な地下への入り口だった。

かつて古代王朝の王墓だった場所が、

魔獣の巣窟と化した場所だ。

入り口の周囲には、

赤牙と思われる野営の跡があった。

だが、人はいない。荒らされた形跡があるだけだ。


「先に行ってるってことか」

リーネが警戒しながら中へと足を踏み入れた。


迷宮内部は暗く、湿っていた。

壁には古代の文字が刻まれている。

太一はその文字を見て、強い既視感に襲われた。

(これ…知ってる)

それはただの文字ではない。

魔力回路の設計図だ。

そしてその構造は、彼が無意識に構築する魔法陣と驚くほど似通っていた。


「どうした、タイチ?」

「いや…なんでもない。行こう」


二人は迷宮の深部へと進んでいった。

道中、魔獣はほとんどいなかった。赤牙が駆除したか、

あるいは「何か」に怯えて逃げ出したのか。

そして最深部。そこは広大な地下空間だった。

中央には、巨大な石板が浮かんでいた。

黒い光を放ち、周囲の空間を歪めている。

それが「理の遺産」だった。


そして、その石板の前に、二人の人影が立っていた。

銀髪の美女、ルシア。

そして、金色の髪を持つ整った顔立ちの男、アレクシス。


「待っていたよ、異邦人」


アレクシスが笑みを浮かべた。


「ようこそ、厄災の迷宮へ。

我が名はアレクシス。

お前と同じ、異界より来たりし者だ」

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