第五十九章 共鳴する警告、北への指針
霊峰を下り、再び平野へと戻った二人だったが、
その足取りに安堵はなかった。
太一は夜営の焚き火を見つめながら、
無意識に自分の胸元を握りしめていた。
そこには確かな違和感があった。
「…リーネ」
「ん? どうした、タイチ」
大剣の手入れをしていたリーネが顔を上げる。
「北の方角から、何か聞こえないか? 嫌な音がするんだ」
太一の言う「音」は、耳に聞こえるものではなかった。
彼の魔力回路が、ある種の波動を受けて不快に共振していた。
それはシルヴィアに警告された「世界からの排斥」の予兆なのか、それとも自分と同じ異質な理が蠢く気配なのか。
「あたしには剣の肌感覚しかわかんねぇけど…北か。
確かに空気が重い気がする」
リーネは銀牙の刃筋を指でなぞった。
竜の骨髄が微かに明滅し、
主の警戒心に呼応しているように見えた。
「前に王都で、情報屋から渡された羊皮紙。
あれに描かれていた書き込みの一つに
『厄災の迷宮』と記述があったんだ」
太一は懐から折り畳んだ羊皮紙を取り出した。
「赤牙の狙う『理の遺産』の位置。
それは北の荒野にある『厄災の迷宮』だ。
さっきから感じるこの嫌な波動も…間違いなく、
そこから発せられている」
「赤牙もルシアも、まだ諦めてないはずだ。
あいつらが遺産を起動させれば、
俺の中の理が暴走して、
リーネやこの世界まで巻き込むかもしれない」
太一の声が震えた。それは恐怖だったが、
同時に覚悟の震えでもあった。
「行こう、リーネ。俺の正体も、この世界の謎も、全部そこで決着をつける」
リーネは羊皮紙を見つめ、それから太一の決意に満ちた目を見た。彼女はニヤリと笑い、銀牙を背に背負った。
「上等だ。迷宮だろうが何だろうが、
あたしのこの剣が道を開く。
お前が背中を守ってくれるなら、どこへでも行くぜ、相棒」
二人は翌朝、北の荒野へと向かった。




