第五十六章 城の朝、沸く湯と笑む声
論理都市の朝は、以前は静寂だけだった。
冷たい幾何学模様の廊下に響くのは、
配下の魔物たちの一定の足音だけ。
そこに感情の機微はなく、
ただ機能的な動きだけがあった。
だが今、玉座の間の近くからは、
明らかに異質な音が聞こえてくるようになった。
コトコト、という食器の音。
チリンチリン、という小さな鈴の音。
そして、鼻歌だ。
「♪〜 ♪〜」
太一が玉座で目を覚ます
(正確には演算モードから覚醒する)と、
そこにはすでにティアがいた。
彼女は白いエプロンをきちんと着け、銀の盆を持っている。
「おはようございます、ご主人様!」
その声は、城の冷たい空気を粉砕するほど明るかった。
「……ああ、おはよう」
太一はまだ慣れない挨拶を返す。
以前なら、配下からの報告を待つだけだった朝だが、
今は違う。
「今日のお茶はですね、城の庭で見つけたハーブを少し混ぜてみました! 香りがいいですよ!」
ティアは誇らしげにカップを差し出す。
太一はそれを受け取る。
指先から伝わる温かさ。
一口飲む。
爽やかな香りが鼻を抜け、眠気が飛んでいく。
「…うまい」
「よかった!」
ティアは嬉しそうに飛び跳ねた。
「あ、そうだ! ゾルグ様が、
亜人たちの居住区の要望を聞いてきました。
子供たちが遊び場が欲しいって。作ってあげられますか?」
「…遊び場か」
太一は即座に城の構造データを検索した。
空きスペースはある。防壁の内側の区画なら安全だ。
「区画B-7を開放する。そこに土と水を供給し、
植生を展開する。あと、頑丈な遊具を配置させる」
「わぁ! ありがとうございます!」
ティアは目を輝かせた。
「ご主人様、すごいです! 頭の中で計算して、すぐに答えが出るんですね! 魔法みたい!」
「これは魔法じゃない。理だ」
「理? 難しい言葉ですね。でも、ご主人様の理は、
みんなを幸せにする理ですね!」
彼女の無邪気な言葉は、太一の心の奥底に沁みた。
彼が作り出した「論理都市」は、孤独な防壁だったはずだ。
だが今、この城は誰かの生活の場になりつつあった。
太一はカップのお茶を見つめた。
水面に映る自分の顔は、相変わらず異形だ。
だが、その横にはティアの笑顔が映ってい




