第五十三章 異邦人の匂い
数時間後。
打ち終わった剣は、以前とは全く違う姿になっていた。
刀身は半透明な氷のように白く、
内部に銀色の筋が走っている。
それは竜の骨髄だった。
鍔は竜の鱗を模し、柄は滑らかな竜革で巻かれている。
「受け取れ」
シルヴィアが剣を差し出した。
彼女の左肩からは、すでに小さな肉の芽が出始めていた。
驚異的な再生力だ。
リーネが剣を受け取ると、その重さに驚いた。
「軽い…! まるで羽みたいだ」
以前から大剣なのに異常な軽さであったが
それよりさらに軽く感じる。
「素材が変わったからな。
それに骨髄が魔力を通しやすくしてる。
お前さんの魔力に合わせてある。振ってみろ」
リーネが剣を振るう。
シューン!
空気が裂ける音。鋭く、速い。
以前よりも数段、切れ味が増していた。
「すげぇ…これがあたしの剣…」
リーネは嬉しそうに剣を抱きしめた。
「名前も変えろ。氷牙じゃ今のお前には似合わん」
「じゃあ……『銀牙』。
爺ちゃんの髪の色と、
あんたの髪の色だ」
シルヴィアは笑った。
「感傷的な名だな。だが、悪くない」
彼女はリーネから離れ、今度は太一の方を向いた。
「で、お前さんは何者だ?」
太一はビクリとした。
「え? 俺はただの…」
「誤魔化すな。お前からは、この世界の理とは異なる匂いがする。それに」
彼女は太一をしばらくじっと見据えてから
言葉を継いだ。
「……古代王朝の遺産かと思ったが、
違うな。もっと…異質だ。まるで」
彼女は目を細めた。
「……違う世界から来たモノの匂いだ」
(…!?)
「お前さん、人間じゃないな?
いや、人間だが…乗っ取ってるのか? それとも……」
シルヴィアは太一の目の前に来た。
まるで夜に咲く月見草の様な、
ほのかに甘くどこか切なさを感じる神秘的な香りがした。
黄金の瞳が彼を見透かす。
「お前の中に、二つの魂が見える。一つはここに在るお前。もう一つは…遠くにいるお前」
モニターしているオリジナル太一は震えた。
彼女には見えているのだ。
目の前の者と、別の場所から見ているもう1人の同一人物の存在が。
「……安心しろ。追求はせん。
ただ、気をつけろよ。
異質なモノは、いずれ世界に排斥される。
お前さんがここにいる限り、
世界そのものがお前を敵と見なすかもしれん」
それは警告だった。
太一は頷くことしかできなかった。
「さて、仕事は終わりだ。帰れ」
シルヴィアは背を向け、再び金床に向かった。
「待ってくれ! 俺の杖も…」
「断る。今の私の腕じゃ無理だ。
また50年後にでも来い」
50年後。人間には過酷な時間だ。
だが、太一は思った。
また来よう。リーネと一緒に。
「ありがとう、シルヴィア」
リーネが頭を下げた。
「恩に着るぜ」
「借りは返せよ」
二人は洞窟を後にした。
外は吹雪いていたが、二人の心は熱い。
「行こうぜ、タイチ。下界に戻って、借金返すぞ」
「ああ。まずは焼肉だな」
二人は笑い合い、雪道を下り始めた。
そんな2人を見送りながら、シルヴィアは
独り囁いた。
「……良い孫を持てて良かったな、グレインよ……」
竜の時間は長い。
彼女は待つことに慣れていた。
そして、約束は必ず果たされることを知っていた。




