第五十一章 氷の洞窟、銀色の幻影
霊峰の頂上。そこは万年雪に覆われた世界だった。
二人は膝まで雪に埋もりながら、
なんとか洞窟の入り口に辿り着いた。
洞窟の中は不思議なことに、寒くなかった。
むしろ、微かに暖かい空気が流れている。
奥へと進むと、カーン、カーンという金属を打つ音が響いてきた。
リチュアルのように規則正しい音。
それは剣を打つ音だった。
洞窟の最奥。
そこには広大な空間が広がっていた。
床には複雑な魔法陣が刻まれ、
中央には巨大な金床が置かれている。
そして、そこに一人の女性が立っていた。
彼女はハンマーを振り上げていた。
銀色の長い髪が、マグマのような炉の光を受けて輝いている。
背中まであるその髪は、まるで水銀の滝のようだ。
肌は雪のように白く、
豊満な体つきを煤けた革のエプロンで覆っている。
胸元は大きく開き、汗が光っている。
年齢は…判別がつかなかった。
少女のような肌艶と、
数百年の時を感じさせる深い瞳を併せ持っていた。
「誰だ」
彼女はハンマーを止めずに言った。
低いが鈴の様に響くような透き通った声。
「…あんたが、竜鱗の鍛冶師か?」
リーネが剣を下ろして尋ねた。
女性はハンマーを下ろし、振り返った。
その瞳は金色だった。爬虫類のような、縦に細長い瞳孔。
「人間がここに来るのは久しぶりだ。それに…その剣」
彼女の目がリーネの大剣に釘付けになった。
「…氷牙…。……あの小僧……こんなになるまで使ったか……」
「あの小僧…? あたしの爺ちゃんのことか?」
リーネが驚く。
「……ああ。あの小僧の剣の師匠は私だ。
そしてその剣を打ったのも私だ」
彼女は金床の上に座り、足を組んだ。
「私はシルヴィア。鍛冶師であり、お前の剣の生みの親だ」
太一は呆然とした。
銀髪、
巨乳、
年齢不詳。
そして剣の師匠。
リーネの話と一致する。だが、彼女は人間ではなかった。
「り、竜人…ですか?」
太一が恐る恐る尋ねると、シルヴィアはニヤリと笑った。
「鋭いな、私は古の竜の末裔だ。
人間よりずっと長く生きている。
……あの小僧が巣立ってから60年は経つか」
リーネが膝をついた。
「お願いだ、シルヴィア。この剣を直してくれ。爺ちゃんの形見なんだ。あたしにはこれしかない」
シルヴィアは冷ややかに見下ろした。
「直す? この剣はもう限界だ。
何度も打ち直し、継ぎ接ぎして、
とうとう素材の限界を超えた。
直すには…新しい芯が必要だ」
「芯…? どんなものだ?」
「竜の骨だ。
それも、私の血を引く竜の骨じゃなきゃダメだ。
だが、私の一族はもうほとんど滅んでいる。
手に入れるには…」
彼女は自分の左腕を撫でた。
「私の骨を使うしかないな」




