第五十章 峠の村、試される匂い
峠の村は、雪に埋もれそうな小さな集落だった。
家々の煙突からは細い煙が上がり、
住人たちは厳しい寒さの中で静かに暮らしている。
村の唯一の酒場に入ると、暖炉の熱気が二人を包んだ。
「ご主人、北の霊峰に『竜鱗の鍛冶師』ってのがいるって聞いたんだが」
リーネがカウンターの老主人に尋ねた。
老主人はグラスを拭く手を止め、顔をしかめた。
「お前さんたち、あの人を探すのか?
やめとけ。あの方は気難しい。
ここ数十年、誰の依頼も受けてねぇはずだ」
「でも、昔打ってくれたんだ、この剣を」
リーネが大剣をカウンターに置いた。
老主人は大剣を見て、目を見開いた。
「その紋様…そしてこの歪み。
間違いない、
あの方が打った『氷牙』だ。
爺さんの代から聞いてた伝説の剣が、
こんなにもボロボロに……」
「お願いだ。場所だけでも教えてくれ」
老主人は迷った末に、ため息をついた。
「…霊峰の頂上にある氷の洞窟。
そこがあの方の工房だ。
だが警告しとく、あの方は人間嫌いでな。それに…」
「それに?」
「あの方の工房には、変わった匂いのする奴しか
近づけねぇんだ。お前さんたちは…匂うか?」
太一とリーネは顔を見合わせた。匂いとは何か?
酒場を出た後、太一は自分の匂いを嗅いだ。
「……俺、汗臭いか? 言ってくれれば風呂に入るぞ」
「バカ、そういう匂いじゃねぇだろ。
魔力とか、魂とか、そういうヤバい匂いだよ」
リーネが大剣を背負い直し、霊峰の頂を見上げた。
「ともかく行くしかねぇ。ダメなら押し切る」
彼女の決意は固かった。




