第四十九章 氷雪の峠、砕けゆく刃
王都を後にしてから一週間。
二人の周囲の風景はすっかり変わっていた。
緑豊かな平野は姿を消し、針葉樹林と岩肌が支配する峻険な山道が続いている。
空気は薄く、吐く息は白く濁り、
肌を刺すような冷気が服の隙間から忍び込んできた。
「うう、寒いな……」
太一はマントの前を固く締めながら呟いた。
百二十キロの脂肪は寒さに対する装甲としては優秀だが、
それでもこの霊峰の冷気は骨身に染みるようだった。
「辛いか、タイチ? あと少しで峠だ。そこに小さな村があるはずだ」
リーネもまた、首に巻いた布に顔を半分埋めながら前を歩く。
だが、彼女の足取りには少しずつ異変が生じていた。
彼女が背負う大剣。
その重さが、以前よりも重く感じられるのだ。
数日前の魔獣との遭遇戦で、
リーネが大剣を振るった瞬間、
鈍い金属音が響いた。
それは武具がぶつかる爽快な音ではなく、
まるで腐った木が軋むような、悲鳴に近い音だった。
「リーネ、剣の方はどうだ?」
「……あと数回振ったら、ホントに折れるかもな」
リーネは立ち止まり、大剣を背から下ろした。
雪の上に置かれた大剣を見て、太一は息を呑んだ。
刀身の中央付近に、今までなかった
さらなる「白い曇り」が走っていた。
それは金属の疲労限界を示す亀裂の前兆だった。
「ガルドの爺さんの言った通りだ。もう限界が近い」
リーネの声には焦りが滲んでいた。
「村に着いたら、情報を集めよう。絶対に見つけるぞ、その鍛冶師を」
二人は雪道を踏みしめ、峠の集落へと急いだ。




