第四十八章 そして、彼女の名は
北へ向かう街道を歩きながら、リーネは珍しく饒舌だった。
「なあ、タイチ。あたしの爺ちゃんの師匠の話、聞いたことあるか?」
「いや…初めて聞いた」
「あたしも爺ちゃんからちょっと聞いただけなんだけどな。なんでも、とんでもねぇ美人だったらしいぜ」
「美人?」
「ああ。銀色の髪を腰まで伸ばした、
すっげぇ色っぽい女だったって。
年齢不詳で、爺ちゃんが子供の頃にはもう大人だったらしいけど、爺ちゃんが大人になっても全然変わらなかったっていうから、多分人間じゃねぇ」
太一は想像した。銀髪の美女。年齢不詳。
それがリーネの剣の師匠の師匠。リーネの剣のルーツ。
「その人、まだ生きてると思うか?」
「さあな。でも、龍凛の鍛冶師がそいつなら、
結構長生きしてるだろ。会えるかもしれねぇ」
リーネは少しだけ嬉しそうだった。
「爺ちゃんが憧れた人に、あたしも会ってみたかったんだ。どんな剣を振るうのか、見てみたい」
「その人が打った剣を、お前は使ってるんだな」
「そうだ。あたしの大剣は、その人の魂も宿ってる。
だから、絶対に折れさせたくねぇ」
太一はリーネの横顔を見た。
彼女は過去に縛られながらも、
その過去を力に変えて生きている。
剣を背負い、
借金を背負い、
罪と感謝の両方を背負って、
それでも前を向いている。
(俺も…いつかそうなれるだろうか)
彼は自分の手を見た。
この手はまだ震えている。
自分の正体も、力の意味も、まだわからない。
でも、彼女と一緒なら、きっと見つけられる。
「なあリーネ、その鍛冶師に会ったら、俺の杖も見てもらおうかな」
「ははっ! いいなそれ! 最強の杖を作ってもらおうぜ!」
二人は笑い合いながら、北の霊峰を目指して歩き続けた。




