第五章 再構築、白紙の仮面
太一は理解していた。
自らが築き上げた『論理都市』は、
あまりにも完成されすぎた監獄だった。
彼は世界を解読し、支配し、そして飽和した。
だが、彼が真に欲していた「他者との接続」は、
どのパラメータを調整しても得られなかった。
彼が恐れたのは、
他者だ。
彼の醜悪な肉体と、
言葉を紡げない舌が、
拒絶されることを。
だから彼は壁の向こうに籠り、
数値という絶対的な防御壁に甘んじていたのだ。
「ならば、コンティニューするしかないな」
彼は玉座に融け込みかけた自らの巨体から、
莫大な魔力と魂の一片を削り取った。
彼が行ったのは、
かつてオンラインゲームで使用していた様な
自らの分身となるアバターの構築である。
白い光が玉座の間で収束していく。
太一の目の前で、
莫大な魔力と魂の一片が形を成していく。
そして生まれたのは、
彼がかつて熱中したゲームの様に、
自身の分身として、
外の世界を旅させる為の
アバターであった。
だが、その外見は、
ゲームで設定していたような
華奢なエルフの魔術師でも、鋼の戦士でもなかった。
現れたのは、百二十キロの脂肪に覆われた、
ジャージ姿の男。
鏡に映したような、
あるいはもっと醜悪に強調された
「厚地太一」そのものだった。
彼は他者に見せる仮面として、
あえて自分自身の姿を選んだ。
偽りの美麗な姿で他者と繋がっても、
それは虚構に過ぎない。
ならば、ありのままの醜悪な姿で、
ありのままのパケットを送受信するしかない。
それが彼の歪んだ結論だった。
「……行け」
太一が呟くと、分身の男はふらりと立ち上がった。
その瞳には、知性の光はあるが、
此処での記憶は一切ない。
彼は、ただの迷い人だ。
太一は分身であるアバターに、
二つの絶対的なチートを組み込んでいた。
一つは【剣聖級の剣技】
物理法則を無視した加速と、
あらゆる物質を断つ切れ味。
もう一つは
【大魔導士級の魔術】
森羅万象を捻じ曲げ、
天変地異を引き起こす莫大な魔力とその運用法。
だが、
この世界に来てからの3年間の記憶と、
太一自身が持つ
「世界の構造式を視る眼」は封印した。
このアバターには、理ではなく、
直感と感情で世界を歩ませる。
彼自身が決してできなかった生き方を、
彼にもう一度させるために。
「俺は…誰だ?」
分身である男が、自分の両手を見つめ、茫然と呟いた。
「俺は…厚地太一、だ。……なぜここにいる?」
自らの分身であるアバター太一が戸惑う様子を、
窓のない玉座の間でモニターしている
オリジナルの太一は、
玉座から誰に聞かせるともなく冷徹に宣告した。
「お前は旅人だ。この世界をお前の足で歩け、
俺の代わりに、な」




