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『肉塊の玉座と理の王国』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第四十二章 見えざる救出、白紙の罪

太一はリーネを壁に寄りかからせると、

解放された亜人たちの元へと向かった。

彼らはまだ恐怖の中におり、逃げ出そうにも足が動かないようだった。


「大丈夫だ! もうアイツらはいない、 こっちだ!」


太一は手招きし、出口へと誘導しようとした。

だが、出口の方からは多くの衛兵や使用人の足音が近づいてきていた。

ルシアが逃げたとはいえ、この騒ぎを収拾し、

証拠を隠滅しようとする者たちだ。

捕まれば、彼らはただの「商品」として再び檻に入れられるだろう。


(どうする…ここから出るには戦わなきゃいけないのか?)


太一は焦った。

今のリーネは満足に戦えない。

自分一人で彼ら全員を守り切れるか?


その時、彼の脳裏にあの声が響いた。


『俺に任せろ』


自分の声。だが、もっと重く、深淵から響くような声。


『お前は前を向け。背中は俺が預かる』


太一の目が見開かれた。


(俺…?)


玉座の間で、オリジナル太一は行動を開始していた。

彼は城の最深部にある転送陣を起動した。

目標は王都の屋敷。

太一は城の魔力回路を再構築し、

王都の屋敷の座標を割り出した。


(転送先は…屋敷の中では危険だ。外だ。庭園の茂みの中)


彼は計算し尽くした座標に、転移門(ゲート)を開いた。

それは目には見えない。

だが、亜人たちだけには感じられる「引力」だった。


「こっちだ! 早く!」


太一は声を張り上げた。そして、何かに導かれる様に庭園の茂みを指差した。


「あっちに行けば助かる! 信じろ!」


亜人たちの一人、エルフの少女が太一の声に反応した。

彼女の目には見えない道筋が浮かび上がっていた。


「こっち…!」


彼女が走る。茂みの中へ。

その瞬間、彼女の姿が掻き消えた。


「消えた!?」


他の亜人たちが驚く。


「行け! 行け! 行け!」


太一が指差すたびに、亜人たちの姿が空間に溶け込むように消えていく。

それは論理都市(ロジック)への招待状だった。


(ようこそ、俺の城へ)


玉座の間で、太一は静かに呟いた。

城の転送室に次々と現れる亜人たち。

彼らは怯えながら周囲を見回す。そこは無機質な幾何学模様に覆われた冷たい部屋だった。


「ここは…どこだ?」

「助かったのか…?」


彼らが戸惑っていると、部屋の奥から声が響いた。


『恐れるな。ここはお前たちの保護区だ』


城そのものが震えるような重低音。それは太一の声だった。


『ここでは誰もお前たちを傷つけない。食事も休息も与える。だから…安心しろ』


亜人たちは顔を見合わせた。

状況が理解できない。

だが、少なくともあの地獄のような檻や水槽の中ではないことだけは確かだった。


エルフの少女が恐る恐る口を開いた。


「あなたは…誰なのですか?」


『俺は…お前たちを拾った者だ』


太一はそれだけ言うと、

転送室の管理を配下の魔物に任せた。


一方、王都の屋敷では。

太一が最後の一人を転送させた直後、

衛兵たちが会場に雪れ込んで来た。


だが、その動きはどこか鈍く、

統率が取れていないように見えた。


「おい! 何があった!?」

「商品はどこだ!?」

「女剣士とデブの魔法使いは!?」


彼らは狼狽していた。

主であるルシアが姿を消し、

「商品」である亜人たちも消えた。

彼らの関心は、侵入者を捕らえることよりも、

まずこの場の証拠隠滅と事後処理に向いていた。

オークションが発覚すれば、

彼ら自身もただでは済まないからだ。


その隙を見逃さなかった。


「リーネ、行くぞ!」


太一はリーネを背負い上げると、

混乱する衛兵たちの隙間を縫って屋敷を脱出した。

彼らは王都の夜の闇に溶け込み、宿屋へと逃げ帰った。


翌日。

二人は恐る恐る冒険者ギルドへと向かった。

昨夜の一件は、すでに王都中の噂になっていた。


「聞いたか? 公爵家の宴で亜人が逃げ出したそうだ」

「ルシア様が襲われたって? 相手は誰だ?」

「デブな魔法使いと女剣士だってよ。狂犬が戻ってきたのか?」


冒険者たちの視線が、二人に集中する。


リーネは堂々と歩いた。彼女は誰の目も恐れない。


「タイチ、顔上げろ。俺たちは悪いことしてねぇ。胸張れ」

「あ、ああ…」


太一は背筋を伸ばした。


カウンターで報告書を提出すると、

受付嬢は困ったような顔をした。


「リーネ様、太一様。昨夜の依頼についてですが…依頼主である公爵家より、

『依頼は白紙、報酬の支払いもなし』との連絡がありました」


「はぁ? 白紙だぁ? あたしたちは仕事したぞ!」


リーネが食って掛かる。


「それが…公爵家側は『警護対象だった品物が紛失した』として、むしろこちらに損害賠償を請求する構えらしいのです」


「なっ…!」


太一は青ざめた。罠だったのかもしれない。

依頼を受けること自体がリーネと太一を陥れるために

仕組まれていた可能性もある。


受付嬢は声を潜めて続けた。


「…ですが、ギルド側としては今回の一件を『依頼遂行中の不可抗力による事故』として処理することにしました。

損害賠償の請求も却下します」


「え? どういうことだ?」


「昨夜の宴で何が行われていたか、ギルドも把握しております。違法なオークション。

その被害者を解放したのは、

ギルドの規約に照らし合わせれば『正義』です。

公爵家も表立って騒ぎ立てば自分たちの首が絞まるので、闇に葬りたいはずです」


つまり、お互いに「なかったこと」にしようという暗黙の了解だ。


「それに…」


受付嬢は少し笑った。


「リーネ様方のおかげで、王都から悪しき慣習の一つが排除されました。多くの冒険者が感謝していますよ」


「ふん…まあいいさ。報酬なしってのは腹立つが、

借金増えなかっただけマシだ」


リーネは肩をすくめた。


宿屋に戻ると、リーネはベッドに倒れ込んだ。


「はぁ…疲れた。金にならねぇ仕事だったな」

「でも、悪いことじゃなかったよ」


太一は窓から空を見上げた。

彼らは救えたのだ。あの絶望的な檻と水槽から。


そして遠く、論理都市では。

新たな住人たちが温かいスープを飲みながら笑い合っていた。

それは彼らにとって初めての「安らぎ」だった。

そしてその安らぎを作り出したのは、二人の太一だった。

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