第二十八章(続き) 王都への道、過去の亡霊
王都への街道は、行商人や冒険者のキャラバンで賑わっていた。
その中に、統率の取れた一団がいた。
制服こそ着ていないが、装備が揃っており、
雰囲気が異なる。名の通った傭兵団だ。
その一団の先頭に立つ大男が、
リーネを見てニヤリと笑った。
「よぉ、嬢ちゃん。生きてたのか」
リーネの顔が強張った。
「…カルロ」
「お前がいたせいで、俺たちは王都のギルドから出入り禁止になったんだぜ。お返しはまだだろ?」
太一は戸惑った。
「リーネ、知り合いか?」
「……ああ…昔のな……」
リーネは大剣の柄に手をかけ、低く呻いた。
カルロと呼ばれた男は、
周囲の部下と下卑た笑い声を上げた。
「聞いたか? この『狂犬』の言い様。
おい嬢ちゃん、お前が俺たちのチームを半壊させた
魔獣の大群に突っ込んでいった時の顔、忘れねぇぜ。
仲間の巻き込みなんてこれっぽっちも気にしなかったもんな」
太一の胸が冷たくなった。
巻き込み。暴走。
それは太一自身が最も恐れていることだった。
「黙れ…!」
リーネが叫ぶ。
「あの時は…あいつらが村を襲ってて…ガキが中にいたんだ…!」
「言い訳だ。依頼は偵察だけ。
お前が勝手に暴走したせいで、
俺たちは危うく全滅するところだったんだ。
ギルドから『制御不能の狂犬』ってレッテル貼られて
追放されたお前の耳には届いてねぇか?」
リーネは唇を噛み締め、震えていた。
反論できない。彼らの言う通りだったからだ。
彼女は「守りたい」という感情が高ぶると、
我を忘れて剣を振るってしまう。
村や家族を守れなかったトラウマが彼女を暴走させる。
カルロが一歩近づいてくる。
「まあ、賠償金が払えねぇなら、体で払ってもらうか?
デブな相棒も一緒に遊んでやるぜ」
その言葉で、太一の中で何かが弾けた。
「やめろッ!」
太一が前に出た。震える声だったが、その目は燃えていた。
「彼女に…過去の過ちはあったかもしれない。
でも、今の彼女は違う! 俺が証明する!」
カルロが鼻で笑う。
「なんだこのデブ。嬢ちゃんの新しい飼い主か?
お前が制御できてるって言うのかよ、その狂犬を」
「できる!」
太一は叫んだ。
「彼女は飼い犬でも狂犬でもない!
彼女は…俺の背中を守ってくれる、最高の相棒だ!」
その時、カルロの背後から部下たちが剣を抜いた。
喧嘩を売るつもりだった。
「へぇ、やる気か。いいぜ、半殺しにして王都に引きずってってやるよ」
リーネが太一の腕を掴んだ。
「タイチ、逃げろ。あたしのために巻き込まれるな」
「嫌だ! お前を置いて逃げるなんてできない!」
太一は杖を構えた。
「リーネ、お前が暴走しそうになったら、俺が止める!
だから…お前も俺が暴走しそうになったら、止めてくれ! お互いを繋ぎ止める碇になろう!」
リーネは驚いたように太一を見た。
互いを繋ぎ止める碇。
彼女は今まで、
自分の暴走を止めてくれる存在がいなかった。
だから一人で暴走し、追放された。
でも、目の前にいるこの不器用なデブは、
自分を止める碇になると言ってくれている。
「…あぁ、わかった!」
リーネの瞳から迷いが消えた。
「あたしもお前を止める! 絶対に暴走させねぇ!」




