第二十六章 赤き故郷の残響
王都へ向かう街道を外れ、
二人は山間の寂れた村に辿り着いた。
かつては炭鉱で栄えていたらしいが、
今は廃墟と化している。
リーネの様子がおかしかった。
いつもの快活さが消え、顔は青白く、
常に力強く大剣の柄を握る手が震えている。
「リーネ…? どうしたんだ、ここは…」
太一が恐る恐る尋ねると、リーネは乾いた唇を開いた。
「…あたしの村だ」
廃屋の壁には、今も煤と血の跡がこびりついていた。
リーネは歩みを止めず、村の広場へと向かう。
そこには、今も崩れかけそうな
石組みの小さな慰霊碑が立っていた。
「十年前、ここを魔獣の大群が襲ったんだ」
リーネは慰霊碑の前で膝をつき、語り始めた。
「あたしはまだガキで、何もできなかった。
父さんも母さんも、村の人たちも、みんな食い殺された。
あたしは…爺ちゃんが守ってくれたから助かった」
太一は黙って聞いていた。
彼女の声が震えているのが痛いほどわかった。
「爺ちゃんは剣の達人だった。
でも、病身で多勢に無勢……。
それでも最後まで、あたしを守りきって死んだ。
その時爺ちゃんが言ったんだ。
『お前は生きろ。そして、誰も守れない弱さを恨むな。
守れる強さを手に入れろ』って」
リーネは立ち上がり、大剣を抜いて陽の光にかざした。
「あたしは強くなりたかった。誰も死なせないくらいに。
だからギルドの依頼や傭兵団で剣を振るい続けた。
でも…強くなっても、結局一人じゃ何も守れないんだ」
彼女は太一の方を向いた。その瞳には涙が浮かんでいた。
「タイチ。お前と出会って、あたしはわかったんだ。
守れるってのは、自分だけじゃねぇ。
背中を預けられる相手がいて、初めて守れるんだって」
太一の心臓が熱く脈打った。
彼女は強さを求めて孤独だった。
自分は孤独ゆえに弱さを背負っていた。
逆方向から歩んで来た二人が、今ここで交差した。
「リーネ…」
太一は言葉を探した。
だが、出てくるのは不器用な言葉だけだった。
「俺は…弱いよ。記憶もないし、怖いし、お前みたいに強くない」
「バカ。強さは筋肉と魔法だけじゃねぇよ」
リーネが涙を拭いて笑った。
「お前は優しい。あたしが暴走しても助けてくれる。迷った時、道を示してくれる。それがお前の強さだ」
太一は自分の手を見た。
この手は人を殺す力も持っている。
だが、リーネにとっては救いの手なのだ。
「俺は…お前の背中を守るよ。理屈じゃなくて、俺がそうしたいから」
「ああ…頼むよ、相棒」
二人は慰霊碑に手を合わせ、村を後にした。
夜風が冷たいが、二人の心は温かかった。




