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『肉塊の玉座と理の王国』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第二十章 血と泥の報酬、新しき殻

ラバトの夜明けは、血の匂いと共に訪れた。

西門広場の死体処理が終わり、

生存者たちが安堵の吐息を漏らす中、

太一とリーネは街の中央にある

冒険者ギルドの執務室に呼び出されていた。


「見事だ、君たち。まさかあの『赤牙』を、

ほぼ二人で食い止めるとはな」


ギルドマスターとおぼしき初老の男が、

感嘆の息を漏らしながら金袋を卓上に置いた。


「報酬だ。そして、街の有力商人たちからの心付けも含まれている。

君たちのおかげで、

街は守られ商品の略奪も防げたからな」


金袋の重み。

それは太一がかつて画面の向こうで得た、

無機質なドロップアイテムとは違った。

生身の命と引き換えた、熱を持った重さだった。


「へへっ、ありがてぇ。これでしばらく肉が食えるな!」


リーネが無邪気に笑う。

太一はただ、恐縮して頭を下げることしかできなかった。


街を出た後、二人は大通りにある仕立屋へ向かった。

太一のジャージは、魔獣の血と泥、

そして魔法の煤でボロボロになっていた。

限界だった。


「いらっしゃいませ……おや?」


店主であるドワーフの親父は、

太一の巨体を見て渋い顔を作った。


「また随分と、大漁な体躯のお客様だ。

仕立て上げるのに生地が3倍はかかるぞ」


「金ならある!

一番頑丈で、動きやすいやつを頼む」


リーネが金貨をカウンターに叩きつけた。


「待て待て、リーネ。

俺のはそんなに金かけなくていい。

お前の装備の方が…」


「あたしの大剣はまだ現役だ。

それにお前、そのボロ布じゃこの先の旅で凍え死ぬぞ。

餓死する前に風邪で死ぬなんて笑えねぇからな」


太一は押し切られた。

採寸が始まる。

メジャーが太一の膨らんだ腹や太い腕を回されるたび、

彼は顔を背けたかった。

自分の肉体の醜悪さを、こうして数値化され、

他人に晒されるのは苦痛でしかない。


「……いい体だねぇ」


不意に、ドワーフの親父が呟いた。


「は、はぁ…?」


「痩せ我慢してねぇで、しっかり食って育った証拠だ。

その体は、生きるための燃料タンクだよ。

恥じるこたぁねぇ」


太一は驚いて親父を見た。

リーネもニヤリと笑っている。


(燃料タンク……)


今まで「豚」「デブ」「醜い肉塊」

としか認識していなかった自分の体が、

少しだけ肯定された気がした。


完成したのは、

オークの革とミスリルの繊維を編み込んだ、

黒いローブとチュニック、革ズボンだった。

見た目はシンプルだが、

防御魔術が付与されており、

かつ驚くほど軽い。

そして何より、太一の巨体にフィットし、

その輪郭を無理なく包み込んでいた。


「うおぉ……」


着替えて鏡を見た太一は、自分の姿に見惚れた。

ジャージの頃の怠惰な印象は消え、

どこか威厳すら漂う「魔術師」の姿があった。

ただのデブではなく、修羅場を潛り抜けた

「旅人」の顔がそこにあった。


「似合ってるぜ、タイチ。随分とマシになったな」


リーネが肘で小突く。


「あ、ああ……ありがとう、リーネ」


太一は自分の革の手袋を握りしめた。これは偽装でもチートでもない、自分の行動で手に入れた、

本当の「装備」だった。

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