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『肉塊の玉座と理の王国』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第十六章 分岐点、玉座の慟哭

玉座の間。

太一の肉体は、玉座と融合しつつも、

かろうじて人間の形を保っていた。

背もたれの冷たい石が背中の皮膚へと侵食し、

城壁の一部とならんとしている。


床下を巡る魔力回路の脈動は、

自身の血管と重なり始め、不吉な共鳴を刻み始めていた。

半透明のスクリーンに映し出される

「変身の狹間にある自分」を見つめながら、

彼の意識は深淵にて渦を巻いていた。



スクリーンに映し出される分身の姿。

木の枝で魔将を討ち取り、泥の中で少女と笑い合う自分。


「ありえない…」


彼は知っていた。分身に与えた剣聖のスキルは、

あくまで「データ」だ。

それを引き出すには、

肉体の限界を超える操作が必要なはずだった。


「理の眼」なしに、攻撃の軌道を読み、

関節の隙間を突くなど、

確率的にありえない。


だが、分身はそれをやってのけた。

恐怖と、

怒りと、

他者を想う「情」という、

数値化できない熱量だけで。


「俺は…間違っていたのか?」


彼は自問した。

彼は孤独を正解とし、

最適化を正義とした。

人と関わることはエラーの元だと、

壁の中に閉じこもった。

しかし、画面の中の彼は、

エラーだらけの不格好な恥多き生き方の中に、

彼が決して到達できなかった「答え」を

見つけてしまったようだった。


(俺も…あそこにいたかった)


だが既に、

オリジナル太一の身体には

死の影が迫ろうとしていた。


城壁が軋む。論理都市の完璧な幾何学模様に、ひびが入る。


「ぐぁぁ…ぁぁぁッ!」


太一の体が痙攣する。

城そのものも彼の身体と共鳴し、崩壊の兆しを見せていた。


「まだだ…まだ、終わらせるわけにはいかない」


太一は必死に思考を制御した。

彼が崩壊すれば、分身も消滅する。

リーネという少女との絆も、消えてしまう。

それは、彼にとって唯一の、

たった一つの「希望のバックアップ」だった。


「お前が…俺の代わりに……向こう側まで辿り着け……」


オリジナル太一は、

自分が死んでも王国と分身が消えない仕組みを

構築する作業を更に進めた。


スクリーンの向こう、

分身の太一はリーネに手を引かれて立ち上がった。

泥だらけのジャージと、

薄汚れた革鎧。二人の足跡が、

ぬかるみに刻まれていく。


それは、かつてないほど明確な「生」の軌跡だった。

玉座の怪物は、その光景を潰れかけた眼球で、

終焉への作業をしながら静かに見守り続けた。

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