第十二章 崩壊の予兆、観測者の介入
玉座の間で、太一はスクリーンの中の光景を見つめていた。
焚き火を囲む二人。
アバターの太一と、リーネという少女の会話。
太一の巨大な脳が、その情景を冷徹に解析していた。
(あの少女の剣技、単純だが的確。
魔獣の急所を狙う精度は誤差ゼロ。
だが、本人は直感で動いている。
理を知らぬ天才か)
太一の指先が、玉座の肘掛けをリズミカルに叩いていた。
(問題は、俺の分身だ。
あの制御不能な暴力衝動。
いつかあの少女を焼き殺すぞ)
アバターの太一には「理の眼」がない。
だから、自分の魔法の射線や範囲を視覚的に把握できず、
暴発させる。
もし、リーネが巻き込まれるような形で魔獣が襲来したら。パニックになった分身が、
無意識に範囲攻撃の魔術を放つ可能性は確率的に高かった。
(実験の終了条件は
「他者との接続」か
「分身の破滅」
だが、あの少女が死ねば、
接続は途絶える。
それは…不本意だ)
太一の胸の奥で、かつてない奇妙な感情が疼いた。
それは単なる実験データのロスに対する苛立ちではなかった。
彼は、自分の分身がリーネと話す姿に、
焦がれにも似た感情を抱いていることに気づき始めていた。
だが、玉座に座る彼自身は、既に手遅れだった。
彼の肉体は玉座と城壁の一部となり、
感情を表出するための器官を失いつつあった。
「…介入するか」
太一は独り言ちた。物理的な介入ではない。
彼は分身に与えたスキルのパラメータを、
遠隔で微調整することにした。
剣聖級の身体能力。
その反応速度を、通常時と暴走時は
意図的にリミッターで落とす。
明確に意識して行動する時のみ
リミッターが外れるような設定に。
そして、魔術。
詠唱破棄による即時発動を禁じ、
意識して詠唱しなければ発動できないように制約を設ける。
(これで、不意打ちの暴発は防げる。
だが、代償として、分身の戦闘力は著しく低下する。
魔獣との遭遇時に、即座に反撃できなくなる)
太一は自嘲気味に鼻を鳴らした。
(俺は、自分の分身を弱くしてまで、
他者を守ろうとしている。
なんという非合理的な行動だ。これも…バグか)
彼は命令を送信した。
数千里離れた森の中で、
眠っていた分身の太一の体内で、
魔力の循環が変容した。




