第十一章 不協和音の野営
焚き火の爆ける音が、静寂な夜に響いていた。
リーネは手入れをした大剣を膝に抱え、
乾いた肉を齧っている。
その反対側には、太一がいた。
彼は立ったまま、逃げ腰で周囲を警戒する様に
渡された干し肉をオドオドと
小さな歯で削いでいた。
「…美味いだろ? あたしの隠し持ってた一番いい肉だ」
「あ、あ…う、うまい…です」
「だからよ、そう突っ立ってねぇでもっと食えよ。
明日はもっと歩くんだぞ、デブ」
リーネの言葉は粗野だが、不思議と冷たさはなかった。
彼女は太一を「弱くて厄介な荷物」として見捨てるのではなく、「手のかかる珍獣」として扱っているようだった。
リーネに促され、
彼は巨体を小さく丸めるようにして座りつつ、
チラリとリーネの横顔を見た。
(なんだ、この感覚…)
彼の中には、
常に恐怖と自己嫌悪のノイズが渦巻いている。
自分の醜悪な肉体が、
彼女の視界を汚しているのではないか。
自分の不器用な言葉が、
彼女の機嫌を損ねているのではないか。
しかし、リーネは気にする様子もなく、
星空を見上げて鼻歌を歌っている。
「なあ、タイチ」
「は、はいっ」
「お前、本当に自分の力のことがわかんねぇのか?
魔法、使いたいときに使えねぇのか?」
太一は手を握ったり開いたりした。
「わか、らない…んです。
怖いときに、体が勝手に…暴走して…」
「ふぅん。剣も魔術も、
使い手の心の鏡みたいなもんだって、
じいちゃんが言ってたけど、
タイチの心は、嵐みたいに荒れてるってことか」
リーネは木の枝で焚き火を掻き回した。
「ま、焦るなよ。
お前がそのデブで、
口が回らねぇのは変えられねぇけどよ。
力が暴走しなくなるまでは、
あたしが盾になってやるよ」
「…盾…」
その言葉が、太一の胸の奥で反響した。
かつてゲームの中で、彼は「軍師」だった。
味方を守る配置を考える者だった。
しかし、
現実の肉体を持って、
誰かの為の盾になるなんて
思ったことも無かった。
なのに、
この少女は自分のような者の盾になると言った。
「あ、あ、ありがとう…ございます…」
絞り出した感謝の言葉。
やはり吃る。
顔が熱くなる。
リーネは「おぅ」と短く答え、
毛布に包まって横になった。
「明日は街に着くぞ。
お前、その変な服どうすんだ? 目立つぞ」
「…考え、ます」
太一は焚き火の温もりを感じながら、
自分の両手を見つめた。
この手は人を殺めた。
この手は制御不能な暴力を振りまく。
だが、
リーネはそれでも自分の仲間になれと言ってくれた。
(俺は…変われるのか?)
彼は自分の巨体が、ただの重力の塊ではなく、
何か別のものになれることを初めて願いながら、
浅い眠りについた。




