第十章 観測者の動揺
玉座の間で、太一はスクリーンを見つめていた。
分身が少女と共に歩き出す姿。
言葉を交わし、手を取り合う姿。
彼の表情は変わらない。
だが、その胸の奥で、小さなノイズが走っていた。
(俺と…同じ顔の俺が、話している)
彼は自問する。
あれは俺ではない。
アバターだ。
だが、画面の中の太一がリーネに礼を言った時、
彼自身の心臓がドクリと跳ねた。
(…悔しいのか?)
彼は否定した。違う。
これは観測だ。
ただの実験だ。
彼は分身に最強の剣と魔術を与えたが、
「理の眼」を与えなかった。
だから分身は苦戦し、
無様さを晒し、
オリジナルの自分とは違い
他者に頼るしかなかった。
オリジナルである自分のやり方こそが
正解だったと彼は言い聞かせる。
恥を晒さず
好きに出来る孤独こそが
絶対的な解答であると。
しかし、スクリーンの中の太一の表情は、
玉座の彼が長らく忘れていた「情」を宿していた。
恐怖し、
恥じらい、
それでも他者に手を伸ばす。
彼は玉座から立ち上がろうとして、よろめいた。
自分の体が玉座と完全に融け合いつつある感覚。
思考回路が城そのものに拡張され、
自らの肉体がただの端末になりつつある感覚。
「俺は…ここにいる」
彼は自分に言い聞かせる。
だが、その視線は画面の中の
「自分」から離せずにいた。
彼は気づいていたのかもしれない。
自分が作り出した「理の王国」は
完璧な監獄であり、
画面の中の「愚かな自分」こそが、
本当の自由を手に入れつつあることに。
ともかく旅はまだ始まったばかりだ。
アバターの太一は、
己の力に翻弄されながらも、
リーネという接続相手を得て世界を歩み始める。




