表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まだ知らなかった距離  作者: 遠井エイト
PR
4/24

第2章 パート2 — 賭けの支払い

賭けの支払い — カイト



昼休みは、いつもの騒がしさの中で終わった。


教室のあちこちで、プラスチックのふたがぱちんと閉まる。立ち上がる生徒たちの椅子が床をこすった。窓際の誰かが、次の授業が体育ではなく歴史だと文句を言っている。何人かはベルをまったく気にせず、サクライ先生が出席簿を持って入ってくるまで話し続けていた。


カイトは弁当箱のまわりに布を巻き終えた。


向かいで、サトシは残りのパンを口に押し込んでから立ち上がった。「五時間目、無理だわ」


「毎日言ってる」


「毎日それが正しいって証明されてるからな」


アイコは机の下からノートを引き出しながら、小さく笑った。「昨日、英語の半分寝てたよね」


「目を休めてただけ」


「いびきかいてた」


「名誉毀損だ」


ユキは自分の机を見下ろし、弁当包みのリボンを一度結び直してから、鞄にしまった。「本当にかいてたよ」


サトシはすぐに彼女を指さした。「ほら」


カイトは椅子を引いて立ち上がった。


教室はもう、列の形へ戻り始めていた。生徒たちは教師に完全に戻される前に、ゆるい集まりのまま、それぞれの席へ流れていく。


カイトは自然に手を伸ばし、ユキのノートと一緒に机から滑り落ちそうになったワークシートの端を押さえた。


「落ちかけてた」


ユキがこちらを見た。「あ」


彼女はそれを受け取り、教科書の下にきちんと重ねた。「ありがと」


「ん」


カイトはサクライ先生に言われる前に、自分の席へ戻った。


午後の授業は、特に何もないまま過ぎていった。


歴史の時間、窓の外では雨雲がゆっくり集まり、光はガラスにうっすら机が映るくらいの灰色になっていた。教室の電気はまだついていない。教師がわざわざ点けるほどには、天気はまだその線を越えていなかった。


カイトは黒板の年表をノートに写した。


数列後ろで、誰かが大きなあくびをして、何人かが笑った。


サクライ先生は話の途中で止まった。「眠いなら、放課後に寝なさい」


カイトは書き続けた。


ベルが鳴ると、教師が教材を集め終える前に、生徒たちはすぐにまた話し始めた。サトシは自分の机の横で、椅子がきしむほど大きく伸びをした。


「もう腹減った」


「お弁当二つ食べてたよ」アイコが言った。


「だからだよ。もうなくなった」


「食べるってそういうことだけど」


サトシはそれを無視して、代わりにカイトを見た。「放課後、店行く?」


「たぶん」


「何か買ってきて」


「嫌だ」


「何か聞いてもいないのに」


「聞いても嫌だ」


サトシは大げさに舌打ちした。「冷たいな」


カイトは筆箱のファスナーを閉めた。「お金あるだろ」


「そこじゃないんだよ」


「だいたいそこだろ」


ユキは自分の机の横に立ち、手首の近くで内側に折れていた制服の袖を直した。「自分で行けばいいのに」


「でもそれだと動かなきゃいけない」


「もう動いてるよ」


「それとは違う」


アイコがため息をついた。「サトシって、どの会話も疲れる」


サトシが答える前に、次の教師が入ってきた。


その日の最後の授業は、ほかの授業より長く感じた。


何か変わったことがあったわけではない。むしろ静かな方だった。雨はまだ降り始めていなかったが、空は夕立の直前のような重い色に落ち着いていた。


各自で問題を解いているあいだ、何人かの生徒が外を確認しているのにカイトは気づいた。


彼は残り十分でワークシートを終え、最後のページを見直した。


教室の端の方で動きがあり、少しだけ注意を引かれた。


ユキが何かを消していた。


答えを直しているのではない。動きが大きすぎた。ほとんど一行全部を消し、少し止まってから、その下にもっと丁寧に書き直していた。


数分後、教師が時間だと言った。


用紙が列ごとに前へ送られていく。椅子が動く。鞄が開く。


一日の終わりは、いつもすぐに形がほどけた。


カイトがノートをしまっていると、サトシが歩いてきた。「やっぱりコンビニ行く?」


「たぶん」


「お前、もう決めてるときにいつもたぶんって言うよな」


カイトは顔を上げた。「そうか?」


「うん」


「気づかなかった」


「自動でやってるからだろ」


サトシは何気なくそう言って、カイトが答える前に行ってしまった。


そのすぐあと、アイコがサトシを自分の机の方へ呼び戻した。


カイトは鞄に荷物を詰め終えた。


立ち上がるころには、ユキも教室の自分の側で支度を終えていた。


「行ける?」彼女が聞いた。


「ああ」


二人はサトシとアイコに別れを言い、クラスの流れと一緒に教室を出た。


廊下は、放課後らしい混み方をしていた。あちこちから会話が重なってくる。廊下の先の方で、誰かが友達に待ってと叫んでいた。部活の生徒たちはもう、用具袋を持って階段の方へ向かっている。


カイトは下駄箱の近くで、野球部の一団を先に通すために少し横へ避けた。


ユキも彼の隣で止まり、彼らが通り過ぎるのを待った。


そのうちの一人が、狭い場所を抜けながら軽く頭を下げて謝った。カイトは一度だけうなずき返した。


それから、廊下はまた動けるくらいに空いた。


外に出ると、舗道はまだ乾いているのに、空気は湿った匂いがした。


門を出ながら、ユキは雲の方を見上げた。「思ったより持ってるね」


「降るよ」


「負けたくないだけでしょ」


「それもある」


彼女は少しだけ彼を見た。「認めるんだ」


「否定してない」


それで満足したようだった。


駅の方へ向かう道は、いつもと同じだった。


横の道路では車がゆっくり進んでいる。反対側の歩道を自転車が通り過ぎ、でこぼこの舗道の上でタイヤが小さく鳴った。交差点近くの店の看板が、日が暗くなるにつれて一つずつ灯り始めた。


カイトは鞄の肩紐を、肩の上で少し上げ直した。


隣で、ユキはポケットからスマホを取り出し、少し画面を確認してからまたしまった。


「メッセージ?」カイトが聞いた。


「アイコから」


「何て?」


「サトシが電車で寝たって」


「早いな」


「二人が同じ電車なの忘れてた」


サトシがすぐに寝落ちするところは、カイトにも簡単に想像できた。


「乗り過ごすな」


「アイコもそう言ってた」


冷たいしずくが数滴、カイトの手の甲に当たった。


まだ気にするほどではない。


ユキも気づいて、また上を見た。「これは雨ってほどじゃない」


「数に入る」


「入らない」


「地面に触れた」


「条件はそこじゃない」


「条件なんて出してなかった」


「そういう意味で言ったの」


「勝手に決めただけだろ」


ユキは鼻から小さく息を抜いた。ほとんど笑いに近かった。「兄さんって、ほんと面倒」


カイトは持っていた傘を開いた。


傘を軽く振って広げるころには、雨はきちんと降り始めていた。強くはないが、周りの人たちも同じように傘を開き始めるくらいには、途切れずに降っている。


ユキは歩調を止めないまま、その下へ少し近づいた。


傘は、二人で入っても十分な大きさだった。交差点の近くで風の向きが変わると、カイトは持ち方を少し変えた。


カイトは彼女をちらっと見た。


「傘持ってきたのに、なんで俺のを使ってるんだ」


「兄さんのを使うつもりじゃなかった」


「でも使ってる」


「兄さんの方が大きいから」


「答えになってない」


ユキはしばらく雨の方を見てから答えた。「もっと遅くまで降らないと思ってた」


「折りたたみは保険か」


「うん」


「じゃあ、今使えばいいだろ」


彼女は上の傘をちらっと見た。「もう開いてるから」


カイトはまた前へ視線を戻した。車が、縁石の近くにでき始めた浅い水たまりを通っていき、二人は車道から少し離れて歩くことになった。


別の学校の生徒が、傘の代わりに鞄を頭の上にのせて急いで通り過ぎていく。中学生二人が、信号の点滅が終わる前に横断歩道を走って渡った。


雨は通りの音を柔らかくしたが、全部を覆い隠すほどではなかった。


雨の向こうにコンビニが見えてきた。交差点近くの濡れた舗道に、店の明かりがかすかに映っている。


隣でユキが少し歩く速度を落とした。「私が負けたから、何のおやつがいい?」


カイトは店の方を見た。「結果は認めるんだ」


「これ以上兄さんと言い合うのが疲れるって認めてる」


「関係ない気がする」


横断歩道に着く前に歩行者用信号が赤になり、二人は近くで待っている何人かと一緒に、傘の下で立ち止まることになった。


頭上で雨が柔らかく傘を叩いた。


カイトは傘の柄を持ち直した。「何でもいい」


「その答え、禁止にするべきだと思う」


「何がいいか聞いたのはユキだろ」


「役に立たない答えだった」


カイトは一秒ほど考えた。「しょっぱいもの」


「それだと店の大半が入る」


「買うのはユキだろ」


「だからって、心が読めないわけじゃないけど」


「たいてい読めてる」


ユキは少しだけ彼を見上げ、それからまたコンビニの窓の方へ目をそらした。「兄さん、面倒」


信号が変わった。


二人は人の流れに合わせて渡った。縁石の近くにたまった浅い水を、靴が軽くはねる。入口に着くころには、傘を差していたのに、ユキの前髪の端に少しだけしずくがついていた。


カイトは中に入る前に傘を閉じた。


温かい空気と揚げ物の匂いが、すぐに二人を包んだ。


ユキは入口の近くでかごを取り、何も言わずにカイトへ渡してから、菓子売り場の方へ歩いていった。


カイトは数歩遅れてついていった。


彼女はポテトチップスの前で止まり、棚を見た。「塩? コンソメ?」


「コンソメ」


「いつもコンソメ選ぶよね」


「それでも聞いただろ」


「確認」


「必要なさそうだけど」


「折りたたみがあるのに、大きい傘を持ち歩くのも必要なさそうだけど」


「その大きい傘に入ってきたのはユキだろ」


ユキは手を伸ばし、棚から一袋取った。「はい、勝利品」


カイトは彼女からポテトチップスを受け取り、かごに入れた。そのあいだに、彼女はさらに奥へ進んだ。


数秒後、ユキはチョコバーを二本取り、少し見比べてから、その両方をかごに入れた。


「増えてる」カイトが言った。


「負けたから、二人分、少しいいおやつにしたいの」


「じゃあ、もっと勝つようにする」


「心配しなくていいよ。次に兄さんが負けたら、倍買わせるから」


「それなら次はケーキ屋にするか」


「そんなに走ってるのに、チーズケーキで帳消しにするつもりなの?」ユキが聞いた。


「チーズケーキを気にせず食べるためだけに走ってもいい」


ユキは一秒ほど彼を見た。「ものすごく無駄な考え方だね」


「効率的だろ」


「どこが?」


「チーズケーキと運動が両方手に入る」


「それは効率とは言わない」


カイトはかごをレジに置いた。「今のところ続いてる」


ユキは軽く首を振ったが、答える声には小さな笑みが混じっていた。「次は兄さんのよくない判断にお金出さないから」


店員がレシートと小さなビニール袋を渡した。


カイトは自然にそれを受け取り、ユキはカウンターのそばに置いていた傘を持った。


外では、雨が少し強くなっていた。


二人が通りへ戻ると、カイトはまた傘を開いた。濡れた舗道にヘッドライトが映り、縁石の横には水が集まっていた。


少しして、ユキは袋に手を入れ、チョコバーの一本を彼に差し出した。


「分けるのか」


「二本買ったから」


カイトはそれを受け取った。「ありがと」


「どういたしまして」


それからは、頭上で傘を叩く雨の音を聞きながら、二人は気まずさのない沈黙の中で家までの残りを歩いた。


アパートが見えてくるころには、傘を差していたにもかかわらず、湿った髪が数本、ユキの肩のあたりにほつれていた。


「それでも濡れてる」カイトが言った。


「少しだけ」


「次は自分の傘を使うか、もう少しこっちに寄って」


「うん」


ユキがドアを開け、二人は中に入った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ