第2章 パート1 — 卒業後の予定
卒業後の予定 — カイト
ベルが鳴り終わり、教室は、完全には静かにならない種類の静けさに落ち着いた。
椅子が小さくこすれる音がした。窓際の何人かは、話すのをやめる代わりに声を落とした。後ろの方で誰かが、筆箱を鈍い音で閉じた。外では、灰色の光がガラスに均一に押しつけるように広がり、教室に影を残さなかった。
カイトは一番右の前列に座り、ノートをすでに開いていた。
日付はベルが鳴る前に書いてある。シャープペンは一行目の上に、右手の方へ斜めに置かれていた。机の上の用紙はその下にあり、来たときに少し斜めに置いたせいで、上の角がノートに触れそうになっていた。
カイトは考えずにそれを直した。
教室の前では、サクライ先生が教卓の上でプリントの束を整えていた。大きな声で静かにしろと言うタイプの教師ではない。ただ、話す時間が終わったとクラスが理解するまで待つだけだった。
カイトは前を向いた。
彼の席からは、振り返らないかぎりユキは見えなかった。彼女の席は彼の後ろで、中央寄りに数列下がったところにある。確かめなくても場所は分かっていた。初日に座席表が貼り出されたときから、ずっと分かっている。
「始める前に」サクライ先生が言った。「机の上の用紙の上に、名前が書いてあるか確認してください」
何人かの生徒が紙に身をかがめた。鉛筆の動く小さな音が、教室に広がった。
カイトはまだ自分の名前を書いていなかった。
カゲツ・カイト、と整った字で書き、それからシャープペンを置いた。
名前の下の題名には、進路希望調査とあった。
門のところでアイコが言っていたことから、カイトはこういうものを予想していた。三年生のホームルームでは、四月からずっとその話題の周りを回っている。大学、入試、就職、面談の予定。大人が何度も将来と言うので、その言葉は方向というより、プリントの上に印刷されるものに近く聞こえるようになっていた。
最初の欄は、希望する仕事の種類だった。
カイトはその行を一度読み、その下の小さな説明も読んだ。
現時点での考えを書きなさい。最終決定ではありません。
周りでは、教室が小さく落ち着かない音を立てていた。通路側の女子が、名前を書く欄を間違えたらしく消しゴムで消している。後ろの誰かが「もう?」と小声で言い、別の生徒が「らしいよ」と答えた。
サクライ先生が、用紙の一枚を教卓に軽く当ててそろえた。「すでに目標がはっきりしている人もいるでしょう。まだそうでない人もいるでしょう。今はどちらでも構いません。これは、真剣に考え始めるためのものです」
後ろの方から、低いうめき声のようなため息が聞こえた。
「ため息は答えになりません」サクライ先生が付け加えた。
カイトはもう一度、用紙へ目を落とした。
希望する仕事の種類。
少し止まってから、技術職、と書いた。
次の欄は、興味のある分野だった。
工学はすぐに出てきた。
そのあと、シャープペンは紙の上で止まった。
機械工学かもしれない。あるいはシステム。設計。部品がきちんとかみ合い、うまくいかないときには試すことができるもの。そういうことは前から考えたことがあった。ただ、先生たちが求める正確な言葉で、いつも考えていたわけではない。
カイトは工学と書き、そこで止めた。
教室の前で、サクライ先生は続けていた。「一枚の用紙で人生の全部を決めるわけではありません。ただ、実際の考えを書けるくらいには、きちんと向き合ってください」
「実際って何ですかね」後ろでサトシがつぶやいた。
カイトは振り返らなかった。
次の欄は、伸ばしたい力についてだった。
カイトは専門知識と書き、少し遅れてコミュニケーションと付け足した。こういう用紙には、たいていそれが求められているように見えたからだ。何かに長けていても、自分が何を言おうとしているのか相手に伝わらなければ意味がない、と父が前に言っていた。カイトはそれに反対ではなかった。ただ、その言葉が紙の上で曖昧に見えるのが好きではなかった。
最後の欄は長かった。
卒業後の大まかな目標。
その行は、数秒のあいだ空白のままだった。
卒業後というのは、たぶん大学のことだった。入試。通学するのか、しないのか。お金。検討できる距離にある学部と、遠くてもそちらの方がいい学部。
考えるべきこととしては、普通だった。
それでも、答えは工学ほどきれいには出てこなかった。
カイトは窓の方を見た。
ガラスの向こうで、雲が低く垂れていた。朝、走りに出たあとで家を出たとき、空気が湿っていたから長い傘を持ってきた。ユキは、一日の終わりまでにはたぶん降らないと言った。それを賭けにするくらいの自信を持って言っていた。
それでもカイトは、自分が勝つと思っていた。
傘は下駄箱のそばの傘立てにある。持ってきたのは正しかった。
カイトは用紙へ視線を戻し、書いた。
安定した生活を支えられる仕事を選びたい。
大人が受け入れそうな文だった。
間違ってはいなかった。
サクライ先生は進路面談の予定へ話を進めた。最初の面談は短いらしい。一人十分。自習の時間に、出席番号順で呼ばれる。必要があれば、あとでもっと詳しい面談をする。
カイトは聞いていた。
彼はたいてい、説明は一度目で聞くようにしている。あとで面倒が少なくなる。
「では」サクライ先生が言った。「その用紙は、今はいったんホームルーム用のファイルに入れておいてください。もう少し時間が必要な人もいるでしょうから、昼休みのあとに集めます」
教室が一気に緩んだ。
声がばらばらに戻ってきた。椅子が動く。カイトの後ろでは、将来の目標なんて何を書けばいいのか分からない、と誰かが小声で言っていた。別の生徒が、兄が書いたのと同じことを書いた、無難そうだから、と答えていた。
カイトは用紙をきちんと閉じ、机の下のフォルダーへ滑り込ませた。
まだ振り返らなかった。
次の時間は現代文で、数学ではない。ユキが言っていた小テストは二時間目だった。
鞄の中を確認した。ワーク。筆箱。ノート。教科書。
全部あった。
「カゲツ」
カイトは顔を上げた。
サトシが通路を挟んだ空いている席に移ってきていた。ただし、椅子をきちんと机に入れてはいない。授業が始まってまだほとんど経っていないのに、制服はもう少し乱れていた。襟はずれ、袖は手首の上まで押し上げられている。座っていても、何か別の考えが浮かべば自分の話の途中で立ち上がりそうな印象があった。
「真面目なこと書いたろ」
「用紙のこと?」
「いや、俺の自伝」サトシは片肘を机に乗せた。「そう、用紙」
「普通のこと」
「それは真面目なことって意味だな」
「進路の予定を書く欄だった」
「俺のもそうだったよ、残念ながら」
「何を書いた?」
「安定した何か」
カイトは待った。
サトシが先に目をそらした。
「それが答え全部だったかもしれない」
「残りは空欄?」
「空欄じゃない。余白」
「それは空欄だ」
「可能性がある」
カイトは黒板の方を見た。サクライ先生が隅に、昼休み後に回収、と書いていた。「昼休みの前に埋めないといけない」
サトシもその視線を追った。「それはあとだろ」
「五時間目の前だ」
「それでもあと」
サトシは、役に立たない意味で正しかったので、カイトには返す言葉がなかった。
後ろで、ユキとアイコが低い声で話していた。
カイトに聞こえたのは断片だけだった。
「決めた?」
「正確には、まだ」
「同じ。書きすぎて、消した」
「空欄のままより大変そう」
「大変だよ」
ユキの声はいつも通りだった。そこに、普段と違うものは何も聞こえなかった。
カイトは現代文の教科書を取り出した。
朝は、いくつかに分かれて進んでいった。
現代文の時間は、黒板を叩くチョークの音と、教師が前を向き直すたびにめくられるページの音と一緒に過ぎていった。外では、灰色の光は変わらなかった。生徒たちはノートを写し、ばれないと思ったときだけ小声で話し、教師の沈黙が長く続くと姿勢を正した。
二時間目になると、数学の小テストの用紙が、それぞれの机に裏返しで置かれた。
カイトは紙の上にシャープペンを置き、待った。
教師が前で説明を終えた。「始めたら私語はなし。裏返してください」
教室中で紙が動いた。
カイトは小テストを裏返した。
一問目は十分簡単だった。二問目は文章が多い。
一度読んだ。
それからもう一度。
始める前に仮定を確認して。
廊下で聞いたユキの声が、はっきり戻ってきた。その言葉の前にあった小さな間まで思い出せるくらいだった。ユキはそれ以上説明しなかった。ただ注意だけを渡し、そこにたどり着けばカイトが分かると思っていた。
カイトは一行ずつ、文章を追った。
そこにあった。
条件は文の真ん中にあり、ワークの練習問題と同じものとして扱えば見落としやすい位置にあった。数字は見覚えがあったが、場合が違う。
カイトは書きすぎる前に、最初の立て方を消した。
正しい式は少し時間がかかったが、それほどではなかった。
その問題を解き終えると、もう一度条件を確認し、それから次へ進んだ。
残りの小テストは、滞りなく進んだ。
終わると、用紙は列ごとに前へ送られた。カイトは自分の用紙を束の上に置き、前の席の生徒に渡した。後ろで誰かが、二十分間息を止めていたみたいに息を吐いた。
休み時間になると、サトシがもう半分に折った小テストを持ってやってきた。
「折ったのか」カイトが言った。
「回収されたし」
「それで折り目がなくなるわけじゃない」
サトシは折り目を見下ろし、それから肩をすくめた。「手遅れだな」
「何問か落とした?」
「なんで分かった?」
「嫌そうな顔してる」
「数学のあとって、いつもこういう顔だろ」
「いつもより」
サトシはカイトの隣の席に腰を落とした。「引っかけがあった」
「二問目に」
「そう」
カイトはシャープペンにキャップをした。「ユキが先に言ってた」
サトシは真ん中あたりの列を見た。「忠告されたのか?」
「仮定を確認しろって」
「それ、俺たちにも役に立つ情報だったんだけど」
「その場にいただろ」
「双子語だと思ってた」
「普通に話してた」
「二人が言うと普通じゃないんだよ」
カイトは、意識しないままサトシの視線を追った。
ユキは自分の席に座り、アイコがその横に立っていた。小テストはもう回収されている。ユキはノートを開いていたが、何かを書いているわけではなかった。アイコが何か言い、ユキは少ししてから答えた。二問目を説明するように、片手を軽く上げている。
大丈夫そうだった。
カイトは長く見すぎる前に、視線を戻した。
「次はユキに聞けばいい」彼は言った。
サトシは椅子にもたれた。「お前の妹に数学の忠告を頼むのはなあ。戦う前から負けを認めてるみたいだろ」
「今回もう負けてる」
「ほらな。だからお前には慰めを求めないんだ」
次のベルで、全員が席に戻った。
昼になっても、雨はまだ降っていなかった。
教室の形は、ほとんどすぐに変わった。机が互いの方へ向けられる。弁当包みが開かれる。プラスチックのふたが外れる音がする。後ろの方では、誰かがおかずを交換しようとして、教室の半分に聞こえるくらいの声で断られていた。
カイトは弁当を出す前に、本をしまった。
教科書が先。次にノート。筆箱は鞄の横のポケットへ。
彼の弁当は濃い緑の布で包まれ、結び目は上できつく結ばれていた。ユキのは淡い青のはずだった。食べるときに布を箱の下へ折り込むから、結び目はもっと平たくなる。母はもう、聞かなくても二人の包み方を変えていた。
サトシはもう椅子を真ん中の列へ運んでいた。
「遅いぞ」彼が呼んだ。
「片づけてる」
「食べたあとで片づければいいだろ」
「それじゃ意味がない」
「昼を優先できる」
カイトは弁当を持って、そちらへ向かった。
ユキの机は、もう半分ほどアイコの机の方へ向けられていた。アイコは片手に弁当を持ってその横に立ち、別の生徒が通り過ぎるのを待ってから椅子を近づけようとしていた。サトシは早く座りすぎて、通路をふさいだことに気づき、また立つことになった。
「毎日やってるよね」アイコが言った。
「そして毎日、机に裏切られる」
「机は悪くない」
「そう思わせたいんだよ」
カイトが近づくと、ユキが顔を上げた。
彼女の机の横には場所があった。広くはないが、椅子を持ってくるには足りる。カイトはユキの後ろから椅子を引くのではなく、端の空いている机から一つ取った。脚はそれでも床を小さくこすったが、周りの音よりは静かだった。
「遅かったね」ユキが言った。
「サトシに急かされた」
「励ましてたんだよ」サトシが言った。
カイトは座り、弁当を開いた。
しばらくのあいだ、会話は彼らのあいだというより、教室全体を回っていた。近くの誰かが、親に安定してそうだと言われたから公務員と書いたと言った。別の生徒が、安定しているのは退屈そうだと言った。アイコは、退屈の方が無職よりたぶんましだと言った。サトシは、昼食付きの職業なら考えると言った。
「給食の人」ユキが言った。
サトシは箸を彼女に向けた。「それ、さっき俺が書いたものより計画に近い」
「安心できないね」アイコが言った。
カイトは弁当から卵焼きを一切れ取った。「まだ用紙、書かないといけないだろ」
「書くって」
「昼休みが終わる前に」
「時間は分かってる」
「昼休みのあとを、あとって言ってた」
「今この瞬間よりは、まだあとだろ」
ユキが二人のあいだをちらっと見た。「厳密には合ってる」
「助けるな」カイトが言った。
「助けてない。観察してるだけ」
「そっちの方が悪い」
アイコが麦茶に口をつけながら笑った。「二人って、言い合ってるときの方が似てるね」
ユキは弁当の上で箸を止めた。「それはありえないと思う」
「全然ありえるよ」サトシが言った。
カイトは答えなかった。飲み物に手を伸ばし、それからユキが片手で弁当を押さえながら、もう片方の手で机の横を探っているのに気づいた。
「サイドポケット」
ユキは止まり、鞄を確認して、半分開いたファスナーの中に差し込まれていたお茶のパックを見つけた。
「分かってた」
「ん」
アイコが弁当越しに二人を見た。「早かったね」
「兄さんは、気になるものにはすぐ気づくから」ユキはパックを弁当の横に置きながら言った。
「気になってない」カイトが言った。
サトシが少し身を乗り出した。「じゃあなんで気づいたんだよ」
カイトは自分のお茶を開けた。「違うところを探してたから」
ユキは小さく諦めたような動きでそれを受け入れた。「分かった」
アイコは小さく笑い、箸を米へ伸ばした。
その場がそれ以上のものになる前に、会話は移っていった。サトシはまた数学の問題に文句を言った。アイコもいくつか落としかけたと認めた。ユキは二問目の言い方は不親切だけれど、解けないほどではなかったと言い、それでサトシに教師みたいだと言われた。カイトは、先生の方がたいていユキより採点が甘いと言った。
「私、厳しく採点しないよ」ユキが言った。
「先週、俺のワークを直した」
「見てって言ったのは兄さんでしょ」
「三問の横に『ケアレス』って書いた」
「ケアレスだったから」
「それは励ましにならない」
「本当だった」
サトシは真面目な顔でうなずいた。「正確さのふりをした残酷さだな」
ユキの表情は落ち着いたままだったが、昼食へ視線を落とす前に、口元が少しだけ動いた。
外では、空が一段暗くなっていた。教室の電気が必要なほどではなかったが、カイトが窓を見ると、机がかすかに映るくらいにはなっていた。
「まだ降ってない」ユキが言った。
カイトは彼女の視線を追った。「降る」
「ずっとそれ言ってる」
「まだ降ってないから」
「意味分からない」
「降ったら分かる」
アイコが窓の方をちらっと見た。「二人とも、おやつより勝ちたいだけな気がしてきた」
「おやつはたぶん、勝った方が見せつけるためのものだろ」サトシが言った。
「誰が勝つかによるね」ユキが言った。
カイトは彼女を見た。「ユキは見せつけるだろ」
「兄さんがそうされても仕方ないときだけ」
サトシが箸をカイトに向けた。「勝ったら何にするんだ?」
「まだ決めてない」
「勝つ前に決めとけよ。戦略だろ」
カイトは彼を見た。「コンビニのおやつで?」
「コンビニのおやつだからこそだよ」
彼らの周りで、教室は騒がしいままだった。変な角度に向けられた椅子、開いた弁当箱越しに話す生徒たち、ドアの近くでスマホのメッセージを見て笑う誰か。進路の用紙は机の上で半分忘れられるか、ファイルにしまわれるかして、昼休みのあとにまた全員の問題になるのを待っていた。
カイトは一定の速さで食べながら、耳を傾けていた。
雨はまだ降っていない。用紙は昼休みのあとに回収される。数学の小テストは終わった。ユキは折りたたみ傘を持っていて、彼の長い傘は下駄箱のそばの傘立てにある。帰る前に雨が降れば賭けはそこで決まるし、そのあとで降れば、ユキは言い方について何か言うだろう。
どちらにしても、二人は歩いて帰る。
今はまだ、教室は声と食べ物の匂いと、椅子の脚が床をこする音で暖かかった。
外では、灰色の空がもう少しだけそのまま残っていた。崩れるその時を待っているみたいに。




