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まだ知らなかった距離  作者: 遠井エイト
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第11章 パート2 — 抑えが切れる

抑えが切れる — ユキ

 

 

カイトが低いテーブルのそばで体を動かすと、窓が変わった。

 

一瞬前まで、四人はガラスの中に一緒に集まっていた。部屋の明かりと外の暗い木々にぼやけながら。それから彼が湯呑みに手を伸ばし、その反射だけがほかの三人から離れた。

 

ユキは見続けてしまう前に、目を落とした。

 

部屋はまだ風呂の温かさを残していた。髪は完全には乾いていなくて、低いテーブルの上では急須から立つ湯気が薄くなっている。戸の向こうでは、廊下を通るスリッパの音が階段の方へ遠ざかっていった。

 

父は窓際のカウンターの近くに、土産の箱を二つ置いていた。どちらもまだ封がされたままだった。

 

「これは取っておこう」と父が言った。

 

母がそちらを見た。「両方?」

 

「両方」

 

「じゃあ、朝食のあとね」

 

「朝食のあとだな」と父は頷き、一つの箱を回してラベルを読んだ。

 

カイトが少し身を乗り出した。「栗あん」

 

父はうなずいた。「じゃあ、それはお茶がいるな」

 

「今、お茶あるよ」とカイトが言った。

 

「今は自制もある」と父が言った。「どっちも無駄にしないでおこう」

 

ユキは、ちょうどいいところで笑おうとした。

 

できたと思った。

 

それでも母は彼女をちらっと見た。ほかの誰にも気づかれないくらい短く。その視線は軽く触れて、そのまま通り過ぎた。

 

風呂の熱で、ユキの体は重くなっていた。けれど、その重さはうまく落ち着かなかった。腕に、肩に、首の後ろに残っている。その下で、考えだけがまだ起きていた。

 

風呂の前のように鋭くはなかった。

 

母の言葉で、何かは少しやわらいでいた。会話全体ではない。その大部分でさえなかった。

 

ただ、一つだけ、何度も戻ってくるところがあった。

 

正直になるって、時には、それが何か分かる前に、何かがあるって認めることだけだから。

 

自分に対しては、正直でいたかった。それが、自分の感じているものを整理するいちばんいい方法のように思えた。それを少しでもつかめれば、どう進めばいいかを考えられる気がした。

 

でも、そうしたいと分かっていることと、実際にそうできることは違った。

 

父は二つ目の箱を一つ目の隣へ動かし、それから畳まれた布団のそばにある布袋へ目を向けた。

 

「トランプ、持ってきてたか?」

 

母がその視線を追った。「持ってきてるわ」

 

「じゃあ、誰かが寝落ちする前に一回くらいできるな」

 

カイトが父を見た。「まだトランプする元気あるの?」

 

「トランプならある。もう一度立ち上がる元気は、少し怪しい」

 

母は袋から使い込まれたプラスチックケースを取り出したが、まだ開けなかった。目がユキへ動く。会話の一部だったと言えるくらい、軽い動きだった。

 

「できそう?」母が聞いた。「一、二回だけ」

 

ユキは山札を見た。

 

やりたい気分ではなかった。それでも、やることにした。普通の遊びをすれば、自分も少し普通に戻れるかもしれない。

 

「大丈夫」と言った。

 

母は半秒だけ待ってからうなずき、テーブルに山札を置いた。「じゃあ、大富豪ね」

 

「いつもの家ルール?」母からカット用に山札を渡されながら、カイトが聞いた。

 

「いつもの家ルール」と母が言った。「途中で新しいルールを足さないこと」

 

父が片手を上げた。「一回提案しただけだ」

 

「自分の番にね」とカイトが言った。

 

「タイミングが悪かっただけで、人柄の問題じゃない」

 

それでユキは笑った。

 

少しだけだったけれど、本物と言えるくらいではあったらしく、母の表情が少し緩んだ。

 

大富豪は、最初は簡単だった。ほかの人より先に手札をなくす。強いカードは弱いカードに勝つ。パスをしたら、場が流れるまで待つ。

 

面倒なのはそのあとだった。

 

勝った人は次の回で大富豪になる。負けた人は大貧民になって、いいカードを渡さなければならない。

 

「勝った人が、次も有利になるってことだよな」とカイトが山札を切りながら言った。

 

「一時的にな」と父が言った。「そのあとは全員で引きずり下ろす」

 

テーブルの上に場所を作った。カイトはお茶の跡が湿っているところから湯呑みを離し、母は配る前に浴衣の片袖を少し戻した。ユキは手札を持ち、順番に並べた。

 

一回目なら、いつもは入り込めるはずだった。

 

たとえ悪い手札でも、何かしら使い道はある。相手のミスを待ち、カイトが忘れたころに使えるカードを一枚残し、弱い立場を、彼が修正しなければならないくらい面倒な形に変えるのが、ユキはわりと好きだった。

 

今夜は、カードがただカードにしか見えなかった。

 

父は早い段階で強いカードを出し、必要以上に場を荒らした。カイトはそれをほとんどすぐに利用した。場の流れが早く変わりすぎて、誰も計画に落ち着けないことに、母は小さく笑った。

 

ユキは、カイトが残した隙を見逃した。

 

気づいたのは一手遅れてからで、そのころには母がもうその上に出していた。カイトは場を見て、それからユキの手札を見た。

 

何も言わなかった。

 

また、自分のことを意識しすぎている感じがしてきた。

 

その回は、カイトが一番、母が二番、ユキが三番、父が最後で終わった。いつもならユキは、場が早く崩れすぎたからカイトが勝っただけだと文句を言っていただろう。

 

代わりに、残ったカードを置いて言った。

 

「よかったね」

 

カイトの目が彼女へ動いた。

 

それだけだった。

 

「よかったね?」彼が繰り返した。

 

「勝ったから」

 

「知ってる」

 

「だから、よかったね」

 

彼はもう一秒だけ彼女を見て、それからカードを集めた。「ユキはいつも、そんな負け方しない」

 

ユキは答えるべきだった。

 

何かが自動的に浮かんできた。彼の勝ち方が尊重するには地味すぎるとか、興味がないふりをしているくせに全部のカードを覚えているとか。ほんの一瞬、そこまで届きかけた。

 

でも、それは薄れていった。

 

彼女はただ言った。

 

「もう一回配って」

 

二回目は、もっと早くぼやけた。

 

今度の手札は前よりよかった。そのせいで、余計によくなかった。取っておくべきペアを早く出しすぎた。最後まで意味を持たせられるはずだった連番は、意味がなくなるまで手元に残った。二回、自分の番だと教えられた。

 

考えは、夕食の方へ戻り続けていた。

 

帰ったらまた探し始めるかもしれない、と言ったカイト。

 

その声は落ち着いていた。前より軽かった。浮かれていたわけではない。ただ、もう動けるくらいになっていた。

 

旅行で、頭が少しすっきりしたのだ。

 

いいことだった。

 

いいことだと、分かっていた。

 

テーブルの向こうで、カイトがミスをした。

 

小さなミスだった。普段ならユキくらいしか気づかないようなもの。もっときれいに主導権を保てる出し方があったのに、少し早くカードを切った。あとで一息遅れて気づいたように、彼がわずかに止まったことで、ユキには分かった。

 

いつもなら、指摘していた。

 

兄さん、今のは悪かったよ。

 

彼女は何も言わなかった。

 

カイトの手が一瞬止まってから、引かれた。

 

母の目が二人のあいだを動き、それから自分のカードへ戻った。

 

そのあとは、形のないままゲームが終わった。母が勝ち、それから山札へ手を伸ばす代わりに、カードを置いた。

 

「今日はここまでね」

 

「まだ二回しかやってないぞ」と父が言った。

 

「今夜は十分」

 

父は残った山札を見た。「早い引退だな」

 

「戦略的な引退よ」と母は言い、カードをきれいに重ねた。「まだ立てるうちにやめたいの」

 

カイトは少し背をもたれた。「それは分かる」

 

父がうなずいた。「じゃあ、勝ち逃げじゃなくて責任ある判断ということにしておこう」

 

「両方でいいわ」と母は言い、カードをきれいな束にしながら笑った。「でも、もう一回やったら、そのあと立てないかもしれない」

 

母はカードをケースに戻し、廊下の方へちらっと目を向けた。

 

「下にマッサージがあるって書いてあったわ。肩と背中」

 

父の表情が変わった。「それはいいな」

 

「短いやつ。最終受付は十時」

 

「じゃあ、行く。肩が専門家を求めてる」

 

「背中も賛成票を入れてる」と父が言った。

 

カイトが父を見た。「山道のせい? テントのせい?」

 

「両方だ。連立を組んだ」

 

母はカードをケースに戻した。次に話すとき、ユキを直接は見なかった。

 

「二人も来る? 今聞けば、空きがあるかもしれないわ」

 

「俺はいい」とカイトが言った。

 

ユキは、そうするつもりより先に彼を見ていた。

 

彼はもう、湯呑みに手を伸ばしていた。「知らない人に肩を触られるの、あんまり好きじゃない」

 

父は小さくうなずいて受け止めた。「分かる」

 

母の目がユキへ戻った。「ユキは?」

 

ユキの最初の考えは、行く、だった。

 

マッサージは助けになるかもしれない。肩がそこまで痛いからではなく、しばらく別のものに注意を向けられるから。

 

でも、カイトは残る。

 

部屋は彼と二人で静かになる。

 

それは選びにくくするはずだった。それでも、彼女のどこかはその静けさを望んでいた。下に収まりきらないものがあると分かっていても。

 

たぶん、彼の隣にある普通の時間が、まだ戻ろうとしている場所のように感じられたから。たぶん最近、そういう時間がなくなっていくようにばかり感じていたから。

 

ユキは戸を見て、それからテーブルへ目を戻した。

 

「私は残る」と言った。

 

母がうなずいた。「まだお風呂の温かさが残ってる?」

 

「うん」

 

その答えは言いやすかった。一部は本当だったからだ。

 

母はそばの小さなポーチを確認した。「気が変わったら、まだ来てもいいからね」

 

「大丈夫」

 

母はその答えを受け取った。それ以上引き出そうとはしなかった。ただ部屋の鍵を持ち、慎重に立ち上がった。

 

戸のところで、一度止まった。

 

「無理に起きていなくていいからね」

 

それは、母がいつも言うような言葉だった。

 

父が足した。「それと、お茶は布団から離しておくこと。事件現場みたいな寝床は避けたい」

 

「布団、まだ敷いてないよ」とカイトが言った。

 

「予防措置だ」

 

母は小さく手を振り、戸を滑らせて閉めた。

 

部屋は少しずつ、もっと静かな空気に落ち着いていった。

 

廊下の声は、通り過ぎる断片になって薄れた。どこかで自販機がかすかに鳴っている。壁越しなのか、床越しなのかは分からない。窓の外では、木々がガラスの向こうで黒い形になり、部屋の中は、残った二人だけになったことで、前よりはっきり映っていた。

 

ジョーカーが一枚、茶盆の端の下に見落とされていた。表を向けたまま、静けさの中で明るく、使い道もなく置かれている。

 

カイトも同じときにそれに気づいた。彼は手を伸ばし、母が置いていったカードケースの中へ入れた。

 

「一枚忘れてる」

 

「うん」

 

彼はもう一度座った。テーブルの角に近い場所で、体を乗り出さなくても湯呑みに届く位置だった。風呂と夕食のあとで、動きは遅くなっていた。肩をきちんと保つのではなく、少し落としているところに、疲れが見えた。

 

数分、どちらも話そうとはしなかった。

 

カイトは急須を確認し、ほとんど空になっているのを見つけた。

 

「残り、飲む?」

 

「兄さんが飲んでいいよ」

 

「もう十分飲んだ」

 

「それ、冷めたお茶はいらないって意味でしょ」

 

「まだ温かい」

 

ユキは手を伸ばして、急須に触れた。

 

ほとんど温かくなかった。

 

カイトは彼女がそれに気づいたのを見て、先に目をそらした。「十分温かい」

 

「じゃあ、少しもらう」

 

彼は手を伸ばし、残りを彼女の湯呑みに注いだ。

 

ユキは両手でそれを包み、一口飲んだ。

 

カイトは窓の近くに置かれた朝食の案内札を取り、そこに印刷された時間を確認した。

 

「朝食は七時半から」

 

ユキはうなずいた。

 

「つまり、お父さんは八時に行きたがる」

 

「お母さんは七時四十五分って言う」

 

「で、七時五十分に行く」

 

数秒だけ、会話の形が保たれた。

 

カイトは案内札を置き、窓の方を見た。彼の反射は前よりはっきりしていて、テーブルの明かりが肩と横顔を切るように当たっている。角度のせいで、ユキの反射は彼のものから少し離れていた。

 

彼は特別なことをしているわけではなかった。

 

それが問題だった。

 

乾ききっていない髪は不揃いで、浴衣の片袖は少し折れたまま、湯呑みは膝の近くにある。疲れているせいで、それを直そうともしていない。彼はこの部屋に、夕方に、テーブルのそばの空間に、残った温かさに、半分終わった旅行の中に、ちゃんと収まって見えた。

 

カイトが窓から顔を戻した。「読む?」

 

本は彼の側のテーブル近くにあった。『終バスのあとの灯籠道』。車の中から、旅館に着いて、部屋に入り、風呂へ行き、夕食を終えるまで、彼はそれを無事に持っていた。その日全体より、ずっときれいなままに見えた。

 

いつもなら、うなずいていた。

 

今夜は、その表紙を見るだけでも、またちゃんと入っていけないものが増えるような気がした。

 

「いい」と言った。

 

カイトの手が、本へ伸びる前に止まった。

 

ユキはその答えが急に聞こえたことに気づき、付け足した。

 

「書こうと思う」

 

「分かった」

 

それだけだった。

 

ユキは気まずくなって、下を見た。

 

彼は、何を書くのか聞かなかった。ページを見ようとする動きもしなかった。ただ、彼女が日記を広げられるように、近くの湯呑みを少し遠ざけた。

 

ユキはそれにも気づいた。

 

それで書きやすくなるはずだった。

 

彼女は鞄から日記を取り出し、シャープペンを出した。ノートの表紙は、何度も持ち歩いたせいで角が少しやわらかくなっている。開くと、ページは少し浮き、それから手の下で落ち着いた。

 

昨夜の分は、ページの上の方にあった。

 

火のあと、星のあと、テントの中でカイトのそばに落ち着いてから書いたものだった。

 

字はきれいではない。膝の上で書いたせいで、行は少しずつ揺れていた。

 

ユキはそれを見た。

 

朝、まだ朝になりきっていないうちに家を出た。荷物はもう玄関に置いてあって、家族全員で出ていくから、家が変に見えた。お父さんが運転した。お母さんは、道と、最初に着かなければいけない場所のことをずっと確認していた。兄さんは、重いと言った分より多く持っていた。

 

長いドライブの前に本を買った。『終バスのあとの灯籠道』。変だけど、変すぎないから、車の中で読むのによさそうだと思った。後部座席で一緒に読んだ。道が時々揺れて、ページも動いた。兄さんは私が読み終えたと思って一度ページをめくった。そのあと、必要以上に長く待つようになった。

 

カヤックは見た目より難しかった。練習のとき、兄さんは前に進むはずなのに丸く回った。私は葦の方へ流されたから、あまり言えない。川はしばらくすると少し楽になった。簡単ではないけど、少し楽だった。パドルのせいで手首が痛くなって、思っていたより早く腕が疲れた。兄さんは浅い岩の近くでひっくり返りそうになった。落ちなかったけど、袖が濡れて、少しのあいだ本当に落ちると思って怖かった。

 

カヤックのあとの山道は、一キロ半くらいよりずっと長く感じた。そのころには荷物が本当に重かった。でも木が日差しを遮っていて、涼しかった。キャンプ地に着いたときは疲れていて、リュックを下ろすのが気持ちよかった。

 

テントを立てた。カレーを食べた。火の周りに座った。マシュマロ勝負に勝った。まだ何を頼むかは決めていない。

 

火が小さくなってから、星がよく見えた。兄さんがランプを暗くして、星がたくさんあって、きれいだった。

 

全部覚えていたい。

 

夕食前、テントの中で背中合わせに座っていたときのことを、何度も考えている。体が疲れていて、兄さんは私がもたれているのをそのままにしてくれて、自分の頭も私に預けた。

 

あのままでいるのは、楽だった。

 

もう少し、このままでいたい。

 

その最後の行を書いたことを、彼女は忘れていた。

 

正確には、忘れていたわけではない。ただ、朝の冷たさや、川や、旅館のサプライズの後ろにしまわれていた。昨夜、その言葉は難しいものではなかった。ぎこちなさはあったかもしれない。少し恥ずかしくもあった。誰にも読まれないとしても、正直なことを書くのはそういうものだった。

 

ユキは、次の空白にシャープペンを置いた。

 

ページは待っていた。

 

向かいで、カイトは湯呑みを持ち、窓のそばへ座り直した。

 

ユキはページへ戻った。

 

日付を書いた。

 

それから、深く考える前に書いた。

 

旅館で。

 

今夜の兄さんは、少しよく見えた。

 

それはいいことだ。

 

いいことだけのはずだ。

 

行はいつもより小さく、近く寄っていた。

 

そこでユキは止まった。

 

向かいでは、カイトが湯呑みを片手からもう片方へ移していた。彼は日記を見なかった。彼の目は、わざとそうしていると分かるくらい長く、窓の方へ向いたままだった。

 

ユキはまたページを見た。

 

次の文は、簡単には来なかった。

 

帰ったら、兄さんはまた仕事を探すかもしれないと言った。

 

ちゃんとした返事を書こうとした。

 

応援したい――

 

そこで線は止まった。

 

ユキは、その言葉を書き終える前に細い線で消した。

 

嘘ではなかった。

 

でも、今の自分が本当に感じているものではなかった。

 

考えるより先に、シャープペンがまた動いた。

 

まだ探してほしくない。

 

ユキはその文を見つめた。

 

一瞬、うまく息ができなかった。

 

書くと、もっと悪く見えた。

 

考えなら、通り過ぎて証拠を残さずに済む。

 

書かれた文は残った。

 

まだ探してほしくない。

 

その文をもう一度読むと、ずっと感じていた罪悪感がまた鋭く刺さった。

 

ユキはそれを消そうとしてシャープペンを動かし、途中で止まった。最初の何文字かに短い線が入っただけで止まり、かえって文はもっと悪く見えた。

 

カイトが少し動いた。

 

ユキは必要以上に早くページの下の方を手で覆い、彼を見た。

 

彼は見ていなかった。

 

カイトは彼女の視線に気づいた。

 

「芯、折れた?」彼が聞いた。

 

ユキはまばたきをした。

 

「何?」

 

「折れた音がした」

 

下を見ると、本当に折れていた。

 

でも、シャープペンにはまだ芯が残っている。

 

「ううん」と言った。

 

「ああ」

 

彼は自分のバッグへ手を伸ばしかけ、それから止まった。「部屋についてるペン、必要ならある」

 

「大丈夫」

 

「分かった」

 

彼は手を膝へ戻し、また窓の外を見た。

 

その提案は、そこに置いていけるくらい小さなものだったはずだった。

 

それなのに、ページの文の横に残った。

 

彼女の手は、また書き始めた。

 

間違っていることじゃないのは分かっている。

 

兄さんが探せるべきなのも分かっている。

 

今夜、兄さんがよく見えたことは、いいことだって分かっている。

 

分かっている。

 

行は早く出てきた。いつもより小さく、詰まっていて、場所を取らなければ受け入れやすくなるみたいだった。

 

でも、探してほしくない。

 

まだ。

 

放課後が変わってほしくない。

 

週末が変わってほしくない。

 

シフトのせいで夕食が遅くなるのが嫌だ。

 

シャープペンを持つ手に力が入った。

 

疲れて帰ってきて、大丈夫だと言う兄さんを見たくない。

 

時間があるか聞く前に、予定を知らないまま確認しなければいけなくなるのが嫌だ。

 

先に確認することに慣れたくない。

 

そこで止まるべきだった。

 

止まるべきだと、分かっていた。

 

でも、言葉は、彼女がノートを閉じる前に次の場所を見つけていた。

 

そのあとには卒業が来る。

 

手が止まった。

 

それでもまた動いた。

 

大学。

 

仕事。

 

違う予定。

 

違う場所。

 

言葉がむき出しすぎたので、説明すれば少しは怖くなくなるみたいに、もっと速く書いた。

 

兄さんは、工学にいいから、遠くへ行くかもしれない。

 

それは普通なのかもしれない。

 

私もどこかへ行くかもしれない。

 

みんな、それが普通だと言うのかもしれない。

 

シャープペンの先が紙に引っかかった。

 

それでも押した。

 

でも、朝、家のどこかで兄さんがもう起きているのがない生活を、どう想像すればいいのか分からない。

 

帰ってきて、兄さんがいるかどうか分からない家を、どう想像すればいいのか分からない。

 

兄さんの料理を、もう食べなくなるのは嫌だ。

 

毎日一緒にいなくなった双子が、どうふるまうものなのか分からない。

 

兄さんに行ってほしくない。

 

その文で、彼女は止まった。

 

一瞬、部屋がページから遠ざかったように感じた。

 

それから、手がまた動いた。

 

普通に受け止めたい。

 

普通の双子みたいにできていない。

 

最後の文は、あまりにそのままだった。

 

ユキはそれを見つめた。

 

顔が熱くなっていた。

 

何かを消そうとしてシャープペンを動かしたが、もう行が多すぎた。どこから始めればいいのか分からない。仕事。予定。卒業。朝。双子。普通。

 

向かいで、カイトが体を動かした。

 

ユキはページの下半分を手で覆った。

 

彼は見ていなかった。

 

それを隠さなければいけないことが、ばかみたいに思えた。

 

彼女は日記を閉じた。

 

早すぎた。

 

表紙がページに当たり、平たい音を立てた。

 

そのとき、カイトがこちらを見た。

 

ユキはノートの上に手のひらを置いたままだった。

 

「もう終わった」と彼が何か聞く前に言った。

 

カイトの目が彼女の手から顔へ動いた。

 

「もう?」

 

「ちゃんと書けなかった」

 

それは十分本当に近かったので、目をそらさずに済んだ。

 

ユキはシャープペンを日記の横に置き、それからまっすぐになっていなかったので直した。そこで、その動きが無意味だと気づいて止まった。

 

カイトはそれを見ていた。

 

ページではない。彼女の手を。

 

「さっき俺が言ったことのせい?」彼が聞いた。

 

ユキは彼を見た。

 

「また仕事を探すって話」

 

部屋はまだ温かいはずなのに、ユキは急に冷えを感じた。

 

口の中に、答えは用意されていなかった。

 

カイトはその沈黙だけで十分だと受け取った。

 

「急がないよ」と彼は言った。「前はタイミングが悪かったのも分かってる」

 

そこは、ユキがうなずくべきところだった。

 

彼は、問題を見つけたと思ったから続けた。「学校に近いところか、家に近いところで探す。一つの仕事に期待を全部乗せることもしない」

 

ユキは閉じた日記を見つめた。

 

学校に近い。家に近い。ひとつに全部を乗せない。急がない。タイミングをよくする。

 

彼は、自分にできる唯一の方法で、問題を小さくしようとしていた。

 

「心配しなくていい」と彼は言った。

 

ユキは日記の表紙に指を押しつけた。

 

「前みたいに無理はしない」

 

そこだった。

 

やさしくて、まっすぐで、間違っている。

 

それなら楽だった。

 

もしそれだけなら、うなずけた。彼が慎重に計画を立てるのをそのままにして、同じ失敗を繰り返さないようにしてくれていることに、ただ感謝できた。

 

でも、手の下にあるページは、もう仕事だけの話ではなかった。

 

止める前に、もっと遠くまで行っていた。

 

ユキは、自分の声が出るのを聞いた。

 

「それだけだったらよかったのに」

 

カイトの手が、湯呑みの近くで止まった。

 

彼はほかのどこも動かさず、彼女を見た。「何?」

 

その一言で、部屋がもう変わってしまった。

 

ユキには、彼が言った瞬間に分かった。そこで戻ることはできた。疲れていると言えばよかった。そういう意味じゃないと言えばよかった。風呂で少しのぼせたとか、カードがうまくいかなかったとか、いくらでも言えた。

 

全部、可能だった。

 

どれも出てこなかった。

 

「兄さんのことは、心配してる」と言った。

 

思っていたより、声は小さかった。

 

カイトは待った。

 

「してる」と彼女は繰り返した。彼は何も否定していないのに。「でも、それだけじゃない」

 

手のひらはまだ日記の上にあった。表紙が少し曲がっているのが、手の下で分かった。

 

「また探すって聞いたとき、考えたの」彼女はそこで止まった。

 

カイトは助けなかった。

 

予想も、解決も、しなかった。ただ待っていて、その待つことが、言葉に余計な場所を与えた。

 

「放課後のこと」と彼女は言った。「あと、週末」

 

ユキは彼の顔から目をそらし、テーブルを見た。カードケースは盆の近くに置かれていて、今は閉じられている。見落とされていたジョーカーは、その中に隠れていた。

 

「兄さんが疲れて帰ってくることとか」と彼女は言った。「夕食が遅くなることとか、何かできるか聞く前に、予定を確認しなきゃいけなくなることとか」

 

飲み込んだ。

 

次は言いたくなかった。でも言った。

 

「それから、一緒に帰らなくなることとか……」

 

一度止まった。それでも、声はさらに小さくなりながら続いた。

 

「卒業とか」

 

カイトは黙っていた。

 

廊下の外は静かになっていた。あるいは、ユキの耳にちゃんと入らなくなっていただけかもしれない。

 

「変に聞こえるのは分かってる」とユキは言った。

 

後悔は、彼が答える前に来た。

 

形を言ってしまった。

 

全部ではない。

 

でも十分だった。手の下の閉じた日記が、まだ開いているみたいに感じられるくらいには。

 

「兄さんがそうしちゃだめって意味じゃない」と彼女は早口で言った。「できていいのは分かってる。間違ってない」

 

カイトがやわらかく名前を呼んだ。「ユキ」

 

それで、もっと悪くなった。

 

彼が続ける前に、彼女は首を振った。「違う、分かってる」

 

自分が何に対して違うと言っているのかは分からなかった。

 

彼の心配に。彼の答えに。自分には楽にしてもらう権利がないのに、彼が楽にしようとしてくれる可能性に。

 

目がカードケースへ動いた。

 

カードではない。

 

夜の下にあって、今までほとんど忘れていたもの。

 

勝負。

 

火の上のマシュマロ。小さな、ばかみたいな賞品。カイトが一つと言い、母が無理なこと以外と足した。

 

あのときは、小さなことに使うと思っていた。

 

もう、ただの小さな約束ではなくなっていた。

 

「勝負」と彼女は言った。

 

カイトには分からなかった。「何?」

 

「マシュマロの」

 

彼の表情が変わった。警戒になるほどではない。でも、準備していた答えの代わりに驚きが来たのが分かるくらいには。

 

「今、それを出すのか?」

 

ユキは笑いそうになった。でも口元までは届かなかった。

 

今は、まさに間違ったタイミングだった。

 

だからこそ、今しかなかった。

 

「一つって言った」と彼女は言った。

 

カイトは長い一秒、彼女を見た。

 

それから慎重に言った。「無理なことじゃなければ」

 

その言葉は、彼が想像できない重さで落ちた。

 

無理ではない。

 

それが問題だった。

 

もし無理なら、止まれた。自分が望んでいるものがはっきりした線を越えているなら、そのルールに拒まれて終わりにできた。

 

でも、待ってと頼むことはできる。

 

不公平かもしれない。許されるくらい小さくて、意味を持つくらい大きい。先延ばし。少しの時間。永遠ではない。

 

ただ、今はまだ。

 

ユキの指が、日記の表紙に曲がった。

 

「じゃあ……」

 

そこで止まった。

 

カイトは動かなかった。

 

部屋が、すべての小さな音を持っているように感じた。床の間の近くにある時計の、かすかな音まで聞こえる。

 

ユキは閉じた日記を見た。彼を見たら、言葉がだめになる気がしたから。

 

「アルバイト、しないで」

 

言葉は、あまりにそのまま出た。

 

強すぎた。

 

カイトの手は、湯呑みの近くに残ったままだった。

 

言ったあと、一息遅れて自分の言葉が聞こえた。

 

「違う」とすぐに言った。「そうじゃなくて」

 

顔が熱くなった。風呂のせいではなかった。

 

「そういう意味じゃない」

 

カイトはまだ答えなかった。

 

ユキは下を見て、彼が意味を決めてしまう前に、残りを無理に出した。

 

「今だけ」と言った。「まだ探さないで」

 

指はノートの端に、さらに強く押しつけられていた。

 

「次のアルバイト」

 

沈黙が続いた。

 

空っぽの沈黙ではなかった。何も起きていないという意味のものでもなかった。

 

カイトはしばらく、答えずに彼女を見ていた。

 

彼の手は湯呑みから離れ、膝の上に落ちた。自分が何を持っていたのか、忘れたみたいに。

 

ユキの後悔は、今度はもっと鋭く戻ってきた。

 

そういう意味じゃないと言いたかった。

 

でも、そういう意味だった。

 

きれいではない。公平でもない。自分で守れるような言い方でもない。

 

それでも。

 

そういう意味だった。

 

カイトの声は、出てきたとき、静かだった。

 

「ユキ」

 

彼女の名前の響きが、終わらないまま、二人のあいだに残った。


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