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まだ知らなかった距離  作者: 遠井エイト
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第7章 パート2 — 日記に書いた言葉

日記に書いた言葉 — ユキ

 


夕食が始まるころには、夜の気配はもう家の中に落ち着いていた。

 

台所の窓の外では、最後の昼の光がくすんだ青に薄まり、ガラスには外の通りよりも部屋の中の方がはっきり映っていた。食卓の上の明かりは、コンロの明かりの下にあったときより料理に温かい色をつけ、味噌汁から上がる湯気は、テーブルの真ん中あたりでかすかに巻いてから消えていった。

 

ユキはカイトの隣に座り、茶碗を包むようにゆるく手を重ねていた。

 

学校からの帰り道は、説明できるほど変だったわけではない。

 

最近のほとんどのことは、そこが問題だった。

 

大きなことは何も起きていない。はっきり何かが変わって、これが理由だと指差せるようなこともなかった。ただ一日が、普通の瞬間を一つずつ連れて進んでいく。そのあいだに、小さなことだけが、完全には無視できないどこかに少しずつ集まっていった。

 

カイトはいつものように隣を歩いていた。

 

話しかければ普通に答えた。

 

横断歩道の近くで歩道が狭くなるところでは、いつもと同じように少し歩く速度を落とした。

 

それなのに、前とは違って、ユキはそれを必要以上に気にしていた。

 

ユキは椀を持ち上げ、味噌汁を少し飲んでから、また置いた。

 

母は最後の副菜を食卓の真ん中近くに置き、静かに息をついて座った。父はいつもより少し遅く帰ってきていて、ネクタイはもう緩めてあったが、食事が始まると表情が少しやわらいだ。

 

しばらくのあいだ、夕食は普通の会話の中を進んでいった。

 

近所のごみ出しの予定についての小さな話。

 

母がスーパーで見つけた特売。

 

父が少しだけ触れて、詳しく説明するほど面白くはないと判断した仕事の荷物の話。

 

それから、カイトが一度、箸を置いた。

 

「面接の日、決まった」

 

思うより先に、ユキは顔を上げていた。

 

母の表情が少し明るくなった。「書店の?」

 

「明日の放課後」

 

「早いな」と父が言った。

 

「五時半が空いてた」

 

「ちょうどいい時間ね」母が言った。「急いで直行しなくても大丈夫そう」

 

「それでも授業が終わったらそのまま行く」

 

父はもう道順を思い浮かべているみたいにうなずいた。「その方がいいだろうな。踏切で少し止まっても余裕がある」

 

「俺もそう思ってた」

 

その後、会話は自然に、カイトの初めての面接の話へ移っていった。

 

ユキは、もっとすぐに引っかかると思っていた。けれど最初の数分は、ほとんど普通に聞いていられた。

 

父は、答えは分かりやすくすること、硬くなりすぎないこと、目を合わせること、店長から機会をもらえたら一つくらい質問をすることについて話した。

 

「報告書みたいに聞こえないようにな」父が言った。「話せてうれしい、くらいの感じでいいんだ」

 

カイトはかすかに眉を寄せた。「そんなふうにはならない」

 

「たまになるよ」ユキが言った。

 

カイトが彼女の方を見た。

 

ユキは食卓越しに目を合わせ、それから付け足した。「責任感があるように聞こえようとしてるときは特に」

 

母は漬物に手を伸ばしながら笑った。「ユキの言うこと、たぶん当たってるわね」

 

「ユキに毎日あれだけ返されて鍛えられてるんだから、普通の会話くらいはできると思う」

 

「今はそう言えるでしょ」ユキは言った。「答えてる途中で、一つ一つ考えすぎ始めたら分からないよ」

 

カイトは反論したそうに見えたが、少ししてから箸を取り直しただけだった。「覚えておく」

 

しばらくのあいだ、面接はただの家族の実用的な話題でいられた。

 

カイトは、計画が関わることなら何にでも向ける、あの丁寧な注意で一つずつ答えていた。分かりやすく楽しみにしているようには見えなかった。不安そうにも見えなかった。

 

カイトの落ち着きを、感情が遠いのだと間違える人もいるかもしれない。けれどユキは、口に出されないものについて、彼の様子の細かな違いを見ることをずっと前から覚えていた。今だって、表情の安定した下で、いつもより会話に意識を向けていることは分かった。

 

ユキはそれを数秒見てから、自分がまた同じことをしていると気づいた。

 

彼を追っている。

 

小さな変化を測っている。

 

その落ち着きに何か意味があるのか、彼の意識が自分から離れたのか、この面接はただ一つの出来事なのか、それとも昔の毎日の形の外へ少しずつ広がっていく何かの一部なのか、決めようとしている。

 

彼女はご飯へ視線を落とした。それが疲れるのだった。バイトそのものではない。正確には、そうではない。焦点を当てなくてもいいものに、前よりもっと注意を向けてしまっていること。

 

十分に細かいことを集めれば、この落ち着かなさが少しは分かりやすくなるみたいに、考えが小さな情報へ手を伸ばし続けること。

 

でも、そうはならなかった。

 

むしろ、見れば見るほど混み合っていく。

 

ユキはもう一口食べてから、父の方を見た。

 

「あとでお父さんのパソコン使ってもいい?」

 

父は湯飲みを口へ運びかけたところで止まった。「もちろん。何か印刷するのか?」

 

「ううん。カウンセリングの仕事について、もう少し調べたいと思って」

 

母が少し興味を引かれたように彼女を見た。「カウンセリング?」

 

「前に進路希望の用紙には書いたけど、実際にどういう道が必要なのか、あまり分かってないから。ちゃんと調べた方がいいと思って」

 

「いいと思うよ」と父が言った。「カウンセリングといっても、種類によって道はいくつかあるだろうしな」

 

「うん。だから確認したくて」

 

カイトが静かになっていた。

 

変な沈黙ではなかった。

 

ただ、ユキの言ったことが、他に考えていたものを置いてでも聞く価値があるときの、あのまっすぐな注意で彼女を見ていた。

 

「まだ興味あるんだ?」

 

「たぶん」

 

「向いてると思う」

 

前にその話をしたときも、同じことを言われた気がした。それから、そもそもカウンセリングの方をすすめたのがカイトだったことを思い出した。その言葉は、いつの間にか自然に根を下ろしていた。

 

ユキはその感覚を見つめすぎる前に、目を下げた。「そんなの分からないでしょ」

 

「ちゃんと聞くから」

 

「それだけが仕事じゃないよ」

 

「でも、いい入り口にはなりそう」

 

母もうなずいた。「私もそう思うわ」

 

その後、会話は別の方へ移っていった。けれどカイトの褒め言葉、あるいはただの観察は、夕食が続くあいだもユキの意識の後ろの方に残っていた。

 

ちゃんと聞くから。

 

どういうことをしたら、カイトはそんなふうに思ったのだろう。

 

だからこそ、置いておくのが難しかった。

 

夕食のあと、ユキは食卓を片づけるのを手伝った。カイトは流しで手を洗い、面接のことで何かを確認するために二階へ上がっていった。

 

母は明日、午後に用事で出ることになっていたので、明日の夕食のほとんどをもう先に準備していた。父はお茶と、長く見るつもりはなさそうな仕事のメモをいくつか持って、居間へ戻っていった。

 

ユキは一階の奥にある小さな書斎でパソコンを使った。

 

部屋にはまだ、紙の匂いがかすかに残っていた。ユキの好きな匂いだった。それにプリンターのインクと、父が家で仕事をするときによく持ち込む緑茶の匂いも混じっている。壁の一面にはファイルや技術書の並んだ棚があり、プリンターのそばには古い雑誌が何冊か積まれていて、何度も動かされたせいで端が少し反っていた。

 

ユキは、数日前にカイトが履歴書を作るときに座っていた椅子に腰を下ろし、検索ページを開いた。

 

最初は広く調べた。

 

カウンセリングの仕事。

 

スクールカウンセラーの資格。

 

心理学を学べる大学。

 

学生支援の仕事。

 

検索結果はあまりにも早くいくつもの方向へ広がって、ユキは一度、ブラウザを閉じそうになった。

 

臨床心理士、スクールカウンセラー、キャリアカウンセラー、ソーシャルワーカー、心理学研究者、進路指導に関わる仕事、若者の支援サービス、それに、存在すら知らなかった分類がいくつもあった。

 

大学院が必要な道もあった。資格によって左右されるものもあった。思っていたより学問として深く勉強するものもあった。学校や自治体の窓口、学生生活の支援制度につながる、もっと現場寄りに聞こえるものもあった。

 

ユキはいくつかの大学のページをゆっくり開いていった。

 

最初の数ページは、あまりにも形式的で、はっきり興味を保つのが難しかった。

 

入試条件。

 

カリキュラム。

 

どの大学も同じくらい真面目に見える言葉で書かれた学科紹介。

 

ユキはスクロールを止めた。

 

それから、心理学を学んだ人が進むカウンセリング関係の仕事についてまとめたページをいくつか見つけた。学校でのカウンセリングや学生支援制度を中心にしたものもあった。家族相談、キャリア支援、リハビリテーション、若者支援、メンタルヘルスのサポートに関わるものもあった。

 

病院、大学、福祉のプログラム、地域の支援団体につながる道もある。読み進めるほど、心理学は一つの仕事へ向かうというより、いろいろな困難の中にいる人を理解し、支え、導くことを中心にした幅広い役割へつながっているのだと分かってきた。

 

画面の言葉は一般的で、個人に向けたものではなかった。たぶん、どんな仕事があるのかを知りたい学生のために書かれたものだ。それでもユキは、入試情報よりもそちらを丁寧に読んでいた。

 

心理学に関係する仕事の種類をいくつか読み終えてから、ユキは椅子にもたれるように少し体を引いた。

 

ウェブサイトを見ただけで、急に自分のことが分かったわけではない。

 

そんなに簡単ならよかった。

 

けれどその夜初めて、自分の将来は、先生に聞かれたから空欄を埋めているだけのものではないように感じられた。

 

人の声の調子や返事の間が変わったときに気づくこと。普通の会話の下で何が変わったのかを考えずにいられないこと。そういう、すでに自分の中にある人への目の向け方と、どこかでつながるかもしれなかった。

 

ただの当て推量ではなく、学んだ上で考えることに変えられるのかもしれない。

 

最近、自分を疲れさせていた同じ癖も、きちんと形を与えれば、誰かを助けるものになるのかもしれない。

 

ユキは読み続けた。

 

カウンセリング関係の学科や課程の概要をいくつか見て、まだよく分からない言葉を書き写した。発達心理学。メンタルヘルス・リテラシー。倫理。ガイダンス制度。

 

一時間近く経つころには、書斎は彼女の周りで少し狭く感じられた。

 

嫌な感じではなかった。

 

ただ、意識がそこに集まっている感じだった。

 

そのあいだ、カイトの初めての面接のことを考えていなかった。

 

それに気づいた瞬間、その気づき自体が、また彼の方へ引き戻しそうになった。

 

ユキは鼻から静かに息を吐き、机の端に置かれていた予備のノートに手を伸ばした。

 

それは、たぶん何冊かまとめて買われたまま忘れられていた、無地の表紙の未使用のノートだった。ページはきれいで、開くと背がまだ硬かった。その感触で、少し考えが動いた。

 

しばらくのあいだ、彼女は最初の白いページだけを見ていた。

 

日記を書いたことはなかった。

 

自分だけの考えを書き出すのは、少し不自然な気がした。まるで、自分が実際よりずっと大げさな人間であるふりをしているみたいだった。けれど、代わりにこのまま半分できあがっただけの考えを抱え続ければ、必要以上に重いものへ折り重なっていくだけだった。

 

机にあったペンを取り、ページの右上に日付を書いた。

 

そこで止まった。

 

ペン先が紙の上で止まる。

 

少ししてから、彼女は書いた。

 

今日はカウンセリングの仕事について調べた。

 

あまりに普通に見えた。

 

ユキはそれを見て少し眉を寄せ、それから下に書き足した。

 

思っていたより種類が多かった。

 

それは十分本当だった。

 

そのあと、何行かがゆっくり続いた。学科名をいくつか書き、スクールカウンセリングについてのメモを書き、人の話を聞くことが、本当に将来につながるものなのかという問いを一つ書いた。

 

しばらくは、ただの調べもののメモだった。

 

それから、つもりもないまま、彼女は書いていた。

 

兄さんのことを考えすぎている気がする。

 

手が止まった。

 

紙の上で見ると、その文は頭の中にあったときよりずっと悪く見えた。

 

直接的すぎる。

 

説明しづらすぎる。

 

彼女は一度、線を引いて消した。完全に読めなくなるほど強くではなかった。それから、その下に書いた。

 

考えが同じところを回り続ける前に、置いておく場所が必要。

 

その方がよかった。

 

告白みたいではない。

 

もっと、実用的な理由に近い。

 

ユキはそのページを数秒見てから、ノートを丁寧に閉じた。

 

あとで二階へ上がるとき、彼女はそのノートを持っていった。

 

カイトの部屋の明かりはまだついていた。

 

ドアは完全には閉まっておらず、細い光が廊下の床を横切っていた。中から、紙がかすかにこすれる音が聞こえた。

 

たぶん面接のメモ。

 

ユキは足を緩めた。

 

それから、そのまま歩き続けた。

 

気にならなかったからではない。

 

何かに気づくたびに立ち止まっていたら、いつまでも気づき続けてしまうからだった。

 

 

次の朝は、ユキがちゃんと準備できたと思う前に進んでいった。

 

外の空気は冷えていて、家を出て最初に息を吸っただけで分かるほどだった。寒いわけではない。まだそこまではいかない。けれど、晩夏に残っていた重い温かさとは違っていた。日差しは屋根と屋根の間で前より低く、道路に伸びる影も学期の初めより長くなっていた。

 

カイトは、片手に通学鞄を持ち、その中に面接の書類をきちんとしまって、隣を歩いていた。

 

彼はそのことを口にしなかった。

 

ユキもしなかった。

 

学校では、一日が小さな動きに分かれて散っていった。

 

ホームルームの連絡。

 

模試の注意。

 

先生たちが回収する用紙。

 

気温に合わせて開けたり閉めたりされる教室の窓。

 

休み時間に、文化祭の委員や誰がどの準備班に入ったかについて話す生徒たち。

 

ユキが他のことを考えているあいだに、空気は変わっていた。進路のことは、もう一つの連絡や一枚の用紙だけのものではなくなっていた。学校生活のあちこちへ広がっていて、まるでみんな最初から、出願の日程や面談の予定があるのを当然みたいにしていた。

 

二時間目、桜井先生は、週の終わりまでに貼り出された面談予定を確認するよう全員に言った。

 

その後の授業の移動時間には、窓際の女子二人が模試の問題集について話し、後ろの席の男子が、文化祭委員の集まりで自由時間が減ると文句を言っていた。

 

昼休みになるころには、サトシはどうやら、クラスの文化祭案には勇気が足りないと決めたらしかった。

 

「お化けカフェは普通すぎる」彼は必要以上に真剣な顔で飲み物の紙パックを置いた。「毎年どこかがやるだろ。記憶に残るものにしないと」

 

机の集まり越しに、アイコが彼を見た。「前にそう言ったとき、ヤギを借りる案だったよね」

 

「あれは別のコンセプト」

 

「どんなコンセプトにヤギが必要なの?」

 

「本物感」

 

カイトは箸を持ち上げかけたところで止まった。「何を本物にしたかったんだ?」

 

「田舎ミステリー体験」

 

「田舎のミステリーに、だいたいヤギはいないと思う」ユキが言った。

 

サトシは、まるで味方を得たみたいに彼女を指さした。「そこだよ。予想外だろ」

 

「ミステリーってそういうものじゃないよ」とアイコが言った。

 

「そういうものにもなれる」

 

「ならない」

 

「分かった」サトシは背もたれに寄りかかり、もう作戦を変えていた。「じゃあ探偵脱出ゲーム。内側から閉ざされた教室。偽の手がかり。怪しい先生の特別出演。冒頭で誰かが劇的に倒れる」

 

「文化祭で倒れないで」とアイコが言った。

 

「品よく倒れるから」

 

「保護者と一年生の前で品よく倒れる方法なんてないよ」

 

「照明がよければあるかもしれない」

 

カイトが彼を見た。「照明は自由にできないだろ」

 

「だから照明班が必要なんだよ」

 

「飾りつけの人数も足りてない」

 

「それは諦める人の考え方だ」

 

ユキは思わず笑った。

 

小さな笑いだったが、自然に出た。そのせいで、アイコが小さく笑って彼女を見た。

 

数分間、ユキはその会話に引き込まれるままにした。サトシの案はどんどん大きくなり、いつの間にか脱出ゲームは、容疑者が入れ替わり、秘密のメニューが手がかりになり、三十分ごとに最後の告白シーンを上演するミステリーカフェになっていた。カイトは実際に困りそうな点をいくつか指摘した。アイコは安全面か予算を理由に、ほとんどの提案を却下した。ユキも、自分でも少し意外なくらい、ミステリーにするならもっと単純にしないと誰にも伝わらない、と言っていた。

 

サトシは裏切られたような顔をした。「ユキまで」

 

「現実的に言ってるだけ」

 

「革新を潰す人はみんなそう言う」

 

「クレープ屋の隣で偽の事件現場を作ろうとするときにも言うよ」

 

カイトが、笑ったのかもしれないくらいの小さな音を出した。

 

しばらくは、それでよかった。

 

完璧ではない。

 

ずっと続くわけでもない。

 

けれど、十分だった。

 

ユキは会話についていき、アイコが話しかければ返し、教室のざわめきが、放課後に待っている面接へ考えがきつく閉じていくのを防いでくれるままにした。

 

昼休みのあとも、空気は動き続けた。

 

五時間目の前の短い休み時間には、生徒たちが物置から使っていない段ボールを引っぱり出した。ドアの近くでは、ポスターカラーは委員会の費用に入るのかどうかで誰かが言い合っていた。隣の教室の先生が入ってきて、どうしてサトシが案のリストに「制御された霧の演出」と書いたのか聞いた。

 

他の人に見られる前に、アイコはユキにそれを消すのを手伝わせた。

 

教室の壁のそばで、マスキングテープを一時的にユキの指に貼りつけたまま立っていたころには、彼女は数分間、時計を見るのをやめていた。

 

アイコは予定表の下書きの片隅を壁に当てていた。「もっと上」

 

ユキは自分の側を上げた。

 

「上すぎ」

 

「今、上って言った」

 

「ちょっと上って意味」

 

「これもちょっと上」

 

「それは攻撃的な上げ方」

 

ユキは紙を見て、それからアイコを見た。「紙は攻撃的になれないよ」

 

「これはなれる」

 

ユキはさっきよりはっきり笑い、角を直した。

 

その瞬間は小さかった。

 

普通だった。

 

けれど何日も考えが重く集まりすぎていたあとでは、その軽さがほとんど意外に感じられた。

 

これも失いたくないのだと、ユキは気づいた。

 

カイトと過ごす時間だけではない。

 

家の形だけでもない。

 

これも。

 

昼休みのあとに教室で立って、曲がった紙について言い合いながら、何でも解決しなければならないものに変えずにいられること。

 

その考えはすぐに通り過ぎたが、違う種類の静けさを残していった。

 

一日の終わりには、廊下に生徒たちが不揃いな流れを作り、部室や委員会の集まり、下駄箱、駅へ向かう道へそれぞれ動いていた。

 

ユキはいつもよりゆっくり鞄をまとめていた。隣ではアイコが文化祭の案のリストについて話している。教室の向こう側では、カイトがノートをしまっていた。そのとき、窓側の列にいた女子が彼の机の横で立ち止まった。

 

「面接、今日だよね?」彼女が聞いた。

 

カイトは顔を上げた。「うん」

 

「書店の?」

 

彼はうなずいた。

 

「なんで書店にしたの? 近いから?」

 

「それもある」

 

「他には?」

 

「本が好きだから」

 

「すごく普通の答えだね」

 

「答えだから」

 

女子は笑った。「そっか。でも、受験もあるのにシフト大変じゃない?」

 

「予定は調整するしかない」

 

「そのあともユキと帰るの?」

 

「時間が合えば」

 

彼は迷わずそう言った。

 

何かを知らせるようでもなかった。

 

意味を持たせるようでもなかった。

 

ただ、シフトや学校、道の距離や面接の時間と同じ、実際の予定の一部として口にしただけだった。

 

女子はそれで納得したようにうなずいた。「それなら便利だね。じゃあ、頑張って」

 

「ありがとう」

 

ユキは鞄の中を見下ろし、何か忘れていないか確認するふりをした。

 

嫉妬しているわけではない。

 

嫉妬することなど何もなかった。

 

その女子の声は普通だったし、カイトの答えも、ほとんどの実用的な質問に答えるときの彼そのものだった。むしろ、流していい会話のはずだった。

 

けれど、それは別の形で残った。

 

誰か他の人が彼に話しかけたからではない。

 

他の人たちが今では、ユキとは関係のないことについて、こんなに自然にカイトへ聞けるのだと、その会話が見せたからだった。

 

彼の面接。

 

彼の予定。

 

これから入るかもしれないシフト。

 

彼の理由。

 

彼の未来。

 

それなのに、その同じ会話の中で、ユキと一緒に帰ることも、そこに含まれていて当然みたいに現れた。

 

ユキは鞄を閉じた。

 

その考えを、それ以上引っぱらないようにした。

 

放課後、ユキとカイトは一緒に書店へ向かった。

 

その時間の道は、いつもより動いているように感じられた。生徒たちは駅へ向かってまとまりごとに歩き、会社員は反対方向へ通り過ぎる。角のコンビニの近くでは、配送トラックがハザードを点けたまま停まっていて、早い夕方の空気の中で小さく明滅していた。

 

横断歩道で待つあいだ、カイトは一度時間を確認した。

 

「時間、足りるよ」ユキが言った。

 

「分かってる」

 

「もう二回確認してる」

 

「一回だ」

 

「学校出る前にも見てた」

 

「あれは別」

 

「どう別なの?」

 

「学校を出る前だったから」

 

ユキは彼を見た。

 

カイトはまた前を向いた。「分かった。二回」

 

歩行者用の信号が変わった。

 

他の生徒たちの集まりと一緒に横断歩道を渡る。低くなった太陽が、先に並ぶ店の窓に沿って光っていた。書店の看板が少しずつ見えてくる。前に一緒に来たときにも見慣れていたはずなのに、今はカイトがただ本を見るために入るわけではないせいで、違って見えた。

 

彼は、評価される側としてそこへ入る。

 

そのせいで、その建物は帰り道の一部というより、彼の生活のいくつかを組み替えるかもしれない扉のように感じられた。

 

カイトの歩調は変わらなかった。けれど近づくほど、彼の中に少し静かなものが増えていくのをユキは感じた。

 

怖がっているわけではない。

 

分かりやすく緊張しているわけでもない。

 

ただ、注意が狭く絞られていく感じ。

 

入口の近くで、彼は足を止めた。

 

「終わったら連絡する」

 

「うん」

 

「まっすぐ帰る?」

 

「たぶん」

 

「大通りを通って」

 

ユキは彼を見た。「まだ明るいよ」

 

「途中で暗くなる」

 

「家までの道は分かってる」

 

「分かってる」

 

彼は、恥ずかしがることもなく、ただそう言った。その注意は、彼女を疑っていることではなく、夕方の流れそのものに関わっているのだと言うみたいに。

 

ユキの指が一瞬、鞄の肩紐を強く握った。それから力を抜いた。

 

「頑張って」

 

カイトは一度うなずいた。「ありがとう」

 

そして書店の中へ入っていった。

 

ユキは外にもう少しだけ残ってから、駅前の道へ向き直った。

 

振り返らずに、家まで歩くようにした。

 

一人の帰り道は、嫌ではなかった。

 

それが、かえって妙だった。

 

夕方の空気はさらに冷えていて、カイトが隣にいないと、ユキは道の違うものに気づいた。横断歩道の近くで自転車のブレーキが鳴る音。夕方の分を焼き始めたパン屋からの匂い。コンビニに寄るかどうかで言い合っている中学生二人。誰かが店のシャッターを半分下ろす、かすかなこすれる音。

 

一人で歩いたことはあった。

 

もちろん、あった。

 

けれどそのほとんどは、理由や時間のずれがはっきりしていて、特に意識する必要のないものだった。

 

今夜は、理由が具体的だった。

 

カイトは面接に行っている。

 

今ごろ書店の中で座って、みんながあれだけ言ったのに、たぶん答えを硬くしすぎている。

 

ユキはその想像に少し笑いそうになり、唇を合わせた。

 

家に着くと、母はまだ用事から戻っていなかった。カウンターには、夕食のほとんどはもう準備してあり、あとで温めればいいだけだと書かれたメモがあった。父は、すぐに食べるには遅くなるらしい。

 

家は静かだったが、空っぽではなかった。

 

ユキは着替え、お茶を入れ、読みかけのSF恋愛小説を持って居間へ行った。

 

残りは少しだけだった。

 

物語の終わりでは、二人の登場人物が何年も惑星を隔てて離れ、数か月に一度しか届かない遅れたメッセージで、どうにか連絡を取り合う道を見つけていた。普段なら、自分のことのように受け取る種類の話ではなかった。規模が大きすぎるし、設定も遠すぎる。

 

それでも最後の章を読むあいだ、ユキは妙なところで読む速度が落ちるのを感じた。

 

恋愛に動かされた、というのとは少し違った。

 

その本が、距離を測れるものとして扱っていたからだった。年数、信号、移動経路、つながりを許す仕組みと、それを難しくする仕組み。

 

最後のページにたどり着くころには、一時間近く経っていた。

 

ユキは本を閉じ、膝の上に置いた。

 

結末はよかった。

 

少し感傷的だった。

 

でも、よかった。

 

そのまま座っていると、玄関のドアが開いた。

 

ユキはすぐに振り向いた。

 

カイトが片方の肩に鞄をかけ、面接用のファイルをまだ片手に持ったまま入ってきた。髪は学校を出たときより少しだけ乱れていて、たぶん手ぐしを通したせいだった。靴を脱ぐ動きはいつもより少し遅く、玄関に必要以上に半秒ほど長く立ってから、中へ入ってきた。

 

「どうだった?」ユキが聞いた。

 

カイトは彼女を見た。

 

「分からない」

 

それは、彼が普段あまりしない答えだった。

 

ユキはソファから立ち上がった。「分からない?」

 

「悪くはなかったと思う」

 

「それならいいんじゃない?」

 

「でも、ぎこちなかったかもしれない」

 

「それは普通だと思う」

 

「一つ、答えるのが早すぎた」

 

「何を?」

 

「どうしてここで働きたいか」

 

「何て答えたの?」

 

「近いからと、本が好きだから」

 

ユキは彼を見つめた。

 

彼も見返した。「何?」

 

「それ、学校で誰かに言ってたのとまったく同じ」

 

「本当だから」

 

「少し単純すぎるかも」

 

「あとでそう思った」

 

彼がそれを気にしているというだけで、ユキの中の何かが少しやわらいだ。

 

カイトは普段、見て分かる形で迷うことがあまりなかった。間違えることはある。失敗することもある。勘違いすることもある。けれど、そういうときでも次の行動へ移るのが早いので、迷いが表に残ることは少なかった。

 

今は、残っていた。

 

彼はほとんど自然に台所へ入り、冷蔵庫を開けた。

 

「何してるの?」ユキが聞いた。

 

「夕食を始める」

 

「お母さん、ほとんど準備してるよ」

 

カイトは冷蔵庫の中の容器を見た。

 

それから、カウンターのメモを見た。

 

「……そうだった」

 

それでも野菜を取り出した。

 

ユキは少しのあいだ彼を見ていた。

 

夕食を最初から作る必要はないと、もう一度指摘するのは簡単だった。けれど代わりに、彼女は流しへ行き、手を洗い、水切りかごからまな板を取った。

 

カイトが彼女の方を見た。

 

「手伝わなくていい」

 

「たぶんいらない野菜を切ろうとしてるから、誰かが見てないと」

 

「それは必要ない」

 

「切ることも必要ないよ」

 

彼は反論せずに受け入れた。

 

しばらくのあいだ、二人は台所で並んで作業した。普段なら、それだけでただ分かりやすく落ち着くはずの静けさだった。違ったのは、カイトの動きがいつもより少し定まっていないことだった。まだ火をつけていないのにコンロを一度確認した。容器を一つ動かし、それから元に戻した。包丁に手を伸ばしたときも、何を切るのか決めていなかったことを後から思い出したみたいに止まった。

 

ユキは先に包丁を取った。

 

「私がやる」

 

カイトはそれを渡した。

 

それも、珍しかった。

 

数分して、彼は何かを思い出したように、入口の近くに置いた鞄の方へ向いた。

 

「あ」

 

ユキは顔を上げた。

 

彼はサイドポケットに手を入れ、チョコレートバーを取り出した。

 

「これ、買ってきた」

 

ユキはすぐにそれが分かった。

 

キャラメル入りのチョコレート。好きだけれど、家の近くのコンビニにはたまにしか置いていないので、あまり買わないものだった。

 

「書店のレジ横にあった」カイトは言った。「待ってるときに見つけた」

 

ユキはゆっくり受け取った。

 

包み紙は指先に冷たかった。

 

「面接の前に買ったの?」

 

「うん」

 

「面接を待ってるときに、チョコのこと考えてたの?」

 

「見えたから」

 

「答えになってない」

 

「ユキが好きだったのを思い出した」

 

彼は、それで全部説明できるみたいに言った。

 

たぶん、カイトにとってはそうなのだろう。

 

ユキは手の中のチョコレートバーを見下ろした。

 

大きなことではなかった。

 

だからこそ、難しかった。

 

もし彼が何か劇的なことをしていたなら、もっと簡単にその感覚を退けられた。自分は行動の大きさに反応しているだけで、その下にある意味ではない、と言えたかもしれない。

 

けれど、これはただのチョコレートバーだった。

 

緊張しているときに、彼が気づいたもの。

 

学校を出る前に見せていたより、明らかに大事に思っていた面接を待つあいだに、買ったもの。

 

それなのに、彼の考えが書店や質問や仕事やこれからの予定へ向いていても、その一部は、そうしようと決めるまでもなく、まだユキの方へ向いていた。

 

「ありがとう」と彼女は言った。

 

声は思ったより小さく出た。

 

カイトはうなずいて、作業台へ戻った。「夕食のあとで食べればいい」

 

「分かってる」

 

「分からないかもしれない」

 

「子どもじゃない」

 

「そうは言ってない」

 

「言ったみたいなもの」

 

「ユキがチョコ好きだって言っただけ」

 

思わず、ユキの口元が少し上がった。

 

数分のあいだ、台所は落ち着きを取り戻した。

 

野菜はやはり必要なかった。夕食は温めるだけでよかった。母が帰ってきたら、どうして追加の材料まで用意したのかと聞くだろう。

 

それでも、目の前にすることがあると、カイトの手つきは少し落ち着いた。そしてユキは、彼の迷いを外側から読み取ろうとして立っているより、手伝う方が楽なのだと分かった。

 

それもあとで書けることかもしれない。

 

分かったからではない。

 

分からないからだった。

 

母はそれほど遅くならずに帰ってきて、余分な野菜に少し驚いたが、嫌そうではなかった。父はいつもより遅く帰ってきて、夕食はカイトの面接の報告を中心に、少し不揃いで、でも温かい形になった。

 

カイトは、どんな質問をされたかを説明した。

 

父は、その答えなら大丈夫そうだと言った。

 

母は、学生が少し緊張するのは店側も分かっているものだと言った。

 

ユキは静かに食べながら、実際的な安心材料を一つずつ受け取るたびに、カイトが少し落ち着いていくのを見ていた。

 

その後、チョコレートバーはユキの机の上にあった。

 

考える前に、そこへ持ってきていた。

 

夜が更け、家が静まり、一日の輪郭がようやくほどけてきたころ、ユキは新しいノートをもう一度開いた。

 

最初のページは、もう前ほど白く見えなかった。

 

それが少し助けになった。

 

彼女はまた日付を書き、それからペンを紙に置いたまま止まった。

 

最初は学校のことを書いた。

 

サトシの文化祭案。

 

アイコが紙を攻撃的だと言ったこと。

 

もっと調べたいカウンセリングの課程。

 

スクールカウンセリングは思っていたより複雑そうだけれど、それでも興味があること。

 

何行かのあいだ、文字は落ち着いていた。

 

それから、目が机の上のチョコレートバーへ流れた。

 

包み紙が、ランプの光を少し受けていた。

 

ユキはノートへ視線を戻した。

 

しばらくして、彼女は書いた。

 

兄さんが、面接の前にチョコを買ってきてくれた。

 

そこで止まった。

 

それはただの事実だった。

 

事実の方が書きやすい。

 

その下に、彼女は付け足した。

 

緊張していたのに、覚えていてくれた。

 

その文で、胸のあたりがかすかに詰まった。

 

どうすればいいのか分からなかった。

 

彼女はペンの先を紙に一度だけ軽く当て、それから無理に止めた。

 

そして書いた。

 

どうしてこんなに残っているのか分からない。

 

部屋の周りは静かなままだった。

 

廊下のどこかで、カイトの部屋のドアがそっと閉まる音がした。数秒後、家はまた、眠る前によくある静けさに戻った。

 

ユキは自分が書いた文を見つめた。

 

不完全だった。

 

いらだつくらいに。

 

けれど、どこにも置かずにいるよりは近かった。

 

彼女は指の間でペンを一度回し、その下に最後の一行を足した。

 

準備ができる前に全部分かろうとするから、疲れるのかもしれない。

 

ユキはそれを二度読んだ。

 

それから、何かを消してしまう前にノートを閉じた。

 

チョコレートバーはランプのそばに残っていた。小さくて、普通のものなのに、どう説明すればいいのか分からない重さをまだ持っていた。

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