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まだ知らなかった距離  作者: 遠井エイト
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第7章 パート1 — 乱れた考え

乱れた考え — ユキ

 


それから数日間の朝は、表面だけなら十分いつも通りに見える流れに落ち着いていった。学校のほとんどの人は、もう進路面談の時期そのものを気にしなくなっていたかもしれない。

 

職員室の窓の外には、透明なカバーの下に予定表がまだ貼られていた。けれど、月の初めのころのように、休み時間ごとに生徒がそこへ集まることはなくなっていた。大学の名前は、今では会話の中を普通に流れていき、それだけで空気が大きく変わることもない。

 

模試の日程は、文化祭のお知らせや宿題の連絡と並んで教室の黒板に書かれるようになった。先生たちでさえ、進路の話を前ほど強く言わなくなっていた。誰もが、準備ができているかどうかに関係なく、この一年がもうそちらへ進んでいるのだと受け入れたみたいだった。

 

外では、初秋が街の端に静かに入り込み始めていた。

 

朝は前より涼しくなっていたが、午後はまだ、直射日光の下に夏の熱を残していた。数週間前より風がよく校庭を抜けるようになり、自転車置き場のそばの舗道に落ちた葉を動かしてから、不揃いに通りの方へ散らしていった。

 

ユキは、そういう変化にはたいてい通りすがりに気づくだけだった。

 

最近、もっと意識に残るのは、いつもの流れの中にある小さな変化の方だった。

 

去年とは違う話題になっていく会話。

 

職員室の外に増えた予定表。

 

進路のことが、毎日の生活に静かに結びつき始めているような感覚。

 

昼休みになるころには、教室の大部分はいつもの昼のざわめきにほどけていた。窓の近くでは会話が重なり、サトシの机の周りには何人かの生徒が集まって、アルバイトと模試の順位について、どちらの話もきちんと聞かないまま同時に言い合っていた。

 

ユキは弁当包みをゆっくりほどきながら、教室の右前の方へ一度目を向けた。

 

カイトは食べずに、スマホで何かを確認していた。

 

メッセージではない。

 

ただ読んでいる。

 

シャープペンの横、ノートの下に、折った紙が半分ほど差し込まれていた。たぶん面接の案内だ。

 

昨日の夜、カイトは書店までの所要時間をもう一度確認していた。場所ならもう知っているはずなのに。見ていれば、それが今日も彼の頭の中にあることは分かった。

 

向かいで、アイコが小さなフォークを卵焼きに刺し、少し首を傾けた。

 

「三十秒くらい、お弁当見つめてたよ」

 

「見てない」

 

「絶対見てた」

 

ユキは一度、下を見た。「文学の課題のこと考えてただけ」

 

「今の、嘘っぽい」

 

「嘘じゃない」

 

アイコは分かりやすく疑わしそうに目を細めてから、自分も教室の前の方へ視線を向けた。

 

「ああ」と軽く言った。「面接のこと?」

 

ユキは、答えるまでにほんの少し長く止まった。

 

「たぶん」

 

「カイトくん、相変わらず妙に落ち着いてるよね」

 

「だいたいいつもそうだし」

 

「それはそう」

 

アイコは片手に軽く顎を乗せ、もう一度カイトの方を見た。

 

「あの調子だと、ここで自然災害が起きても普通にしてそう」

 

ユキは思わず少し笑いそうになった。

 

そこだけは、たしかに簡単に想像できた。

 

教室の前の方では、サトシがカイトの机に横から身を乗り出し、近くの生徒の半分くらいには聞こえそうな声で話していた。

 

「真面目そうすぎるって理由で落とされたら、訴えた方がいいぞ」

 

「それは理由にならない」

 

「なるべきだろ」

 

カイトは折った紙の端を一度整え、それからノートの下にきちんと滑り込ませた。

 

「ただの面接だし、騒ぐほどのことじゃない」

 

「面接用の服を三日前からアイロンかけてるやつが言うと、逆に説得力ないんだけど」

 

「アイロンはかけてない」

 

「絶対かけてた」

 

近くの生徒たちが、サトシがいつものように何でもない会話までちょっとした騒ぎにするのを見て、小さく笑った。

 

カイトは鼻から静かに息を吐き、それからノートに手を伸ばした。会話はそのまま自然に別の方へ流れていった。そのやりとりの中に、あとまで残るようなことは何もなかった。

 

それでもユキは、もう少しだけ彼を見続けていた。

 

最近、カイトの意識の中に、二人がずっと共有してきた小さな流れの外側にあるものが増えていくように感じられた。

 

面接の予定。

 

仕事のシフト。

 

進路のこと。

 

大学の費用や通学経路について、クラスメイトと交わす会話。

 

カイトがすぐ近くにいても、そういうものが彼の周りにずっとあるように見えた。少し前までは、そんなふうではなかった。

 

アイコがまたユキの視線の先を追ってから口を開いた。

 

「なんかさ」と、彼女は何気なく言った。「最近、ちゃんとバイトに応募する人っぽくなってきたよね」

 

ユキは彼女を見た。「どういう意味?」

 

「うまく言えないけど」アイコは考えながら、弁当箱に箸を軽く当てた。「前より、行き先がある感じっていうか」

 

「カイトはいつもきちんとしてるよ」

 

「そうなんだけど、今はそのきちんとした感じがどこかに向かってる気がする」

 

ユキはもう一度、教室の前の方へ短く目を向けた。

 

「履歴書だって、最初はそんなにきちんとしてなかったよ」彼女は小さく言った。「私が直すの手伝ったし」

 

アイコが一度まばたきをした。「そうなの?」

 

「うん。まあ、履歴書なんて作ったことなかったからだと思うけど」

 

それはまだ、妙に近い記憶として残っていた。隣に座って、カイトが一行ずつ言葉を直していくのを見ていたこと。硬すぎるとか不自然だとかユキが言うたびに、彼がその部分を丸ごと書き直していたこと。

 

その記憶は、たぶん必要以上に長くユキの中に残った。

 

どこかに向かっている。

 

それ以上考える前に、チャイムが鳴った。

 

教室のあちこちで、生徒たちがすぐに弁当を片づけ始め、椅子が不揃いに床をこすった。

 

前列の近くで、カイトが最初に立ち上がった。

 

いつものように。

 

ユキはしばらく、彼がノートを鞄に入れ、それからもう一度短くスマホを確認するのを見ていた。

 

たぶん経路の時間。

 

面接の場所。

 

何か、具体的なこと。

 

その動きは見慣れているはずだった。

 

それでも、ユキは自分がそれを気にしていることに気づいた。そして、進路面談の話が出てからずっと残っているその感覚に、少し苛立ち始めていた。

 

この一週間を振り返ると、知らないうちにカイトから少し距離を取るようになっていた理由の一つは、それだったのかもしれないとユキは思い始めていた。

 

他の誰かが気づくほどではない。

 

今まで通り、一緒に帰っていた。夕食も一緒に食べていた。話しかけられれば普通に答えていた。

 

けれど、進路面談や卒業後の話が学校のあちこちで前より頻繁に出るようになってから、前なら何も考えなかったような小さなやりとりの前で、少し迷うようになっていた。

 

授業のあとにカイトを待つこと。

 

自分から話しかけること。

 

理由もなく彼の机の近くに残ること。

 

そのときは、少し距離を置けば、この落ち着かない感じも自然に収まるのだと思っていた。

 

卒業後にはたぶん離れることになるのだと、受け入れる助けになるのだと。

 

けれど実際には、その距離のせいで、見ないようにしていた隙間が余計にはっきり見えるようになっただけのようだった。

 

今年の初めごろまでは、カイトが確認したり整えたりするもののほとんどは、何となく二人のいつもの形の中にあった。

 

宿題の時間。

 

夕食。

 

通学路。

 

雨。

 

一緒にどこかへ行くときの電車の時間。

 

今は、カイトだけに結びつくものが少しずつ増えていた。

 

完全に別々というわけではない。

 

ただ……外へ伸びている。

 

少し変わるくらいのことも受け止められないほど、自分は弱いのだろうか。

 

その考えは、桜井先生が出席簿を片腕に抱えて教室へ入ってきたところで薄れていった。

 

授業はすぐに再開した。

 

午後の残りは、特に変わったこともなく過ぎていった。

 

そのことが、かえって感覚を妙にしていた。

 

その日の最後の授業の移動時間、ユキが廊下に出ると、何人かの生徒がまた貼り出された面談予定表の近くに集まっていた。

 

ほとんどは通りがかりだった。

 

数人だけが、大学の締め切りや模試の会場を比べてから、また歩き出していった。

 

廊下の先、窓の近くで、カイトが別のクラスの男子二人と話していた。

 

ユキは思わず少し足を緩めた。

 

「……商店街を抜けた方が、書店は近いよ」男子の一人が言っていた。

 

カイトは一度うなずいた。「俺もそう思ってた。そっちに行くなら、いつもの帰り道を変えればいいだけだし」

 

「面接、土曜だっけ?」

 

「ああ」

 

「何時?」

 

「午前の遅め」

 

会話そのものは、具体的で、特に重要なものではなかった。

 

それでも、いつもの流れを変えるような細かな話が、そんなに普通に口にされているのを聞くと、うまく整えられない違和感がかすかに生まれた。

 

カイトが何かを隠しているからではない。

 

むしろ、思っていたより面接のことを普通に話している。

 

それが、かえって妙だった。

 

一年生の集団が大きな声で話しながら二人の間を通り、ユキの視界を一瞬ふさいだ。

 

その隙間が戻ったころには、カイトはもう、相手の男子たちに自分たちのアルバイトと勉強の両立がどんな感じなのかを聞く話へ移っていた。

 

ユキは先に目をそらした。

 

少しして、アイコがプリントの束を胸にゆるく抱えて隣に現れた。

 

「放課後、すぐ帰る?」

 

「たぶん」

 

「たぶん?」

 

ユキは鞄の持ち方を少し直した。「カイトがあとで、書店に確認しに寄るから」

 

「ああ、そっか」

 

アイコは廊下の先へちらっと目を向けてから、少し声を落とした。

 

「本当にちゃんとやるつもりなんだね」

 

ユキはすぐには答えなかった。

 

反対だったからではない。

 

ただ、そうやってはっきり言われると、周りにあるものが少し形を持ってしまうような気がした。

 

授業が終わると、玄関の周りの人の流れは、外のやわらかい秋の光の下、ゆっくり下駄箱や駅へ向かう道へ移っていった。

 

午後のどこかで、ユキはもう、今日はカイトが一人で書店に寄るのだと思い始めていた。

 

面接のことは、最近少しずつ彼の時間を占めるようになっていて、そのうちに、無意識のうちに、それはカイトの意識を全部使うものとして扱い始めていた。

 

だから階段の近くでカイトが隣に追いついてきたとき、その小さな驚きは、たぶん必要以上に長く残った。

 

「帰れる?」

 

「うん」

 

「帰りに、少しだけ書店に寄るかもしれない」

 

ユキは彼を見た。

 

「今日?」

 

「面接の内容を確認するだけ」

 

彼女は少し迷ってから聞いた。「一緒に行くつもりだったの?」

 

カイトは少し不思議そうにした。「なんで?」

 

「ああ」

 

「だめ?」

 

質問そのものは簡単だった。

 

それでも、その言葉は、一日中ユキの中で静かに積み上がっていた比較のどこかに、少し不揃いに引っかかった。

 

彼が確認してきたからではない。

 

何かが二人に関わるとき、カイトは昔から自然に予定を合わせてきた。

 

けれど最近は、その調整がもう、前と同じ二人の形に完全につながっているようには感じられなかった。

 

カイトの周りには、独立したものが増え始めていた。

 

彼だけの予定。

 

ユキのものとは自動的には重ならない責任。

 

卒業後へ向かう流れが、少しずつ普通の日々に結びついていく。

 

「ユキ?」

 

一秒遅れて、彼がまだ返事を待っていることに気づいた。

 

「ごめん」彼女は小さく言った。「大丈夫」

 

カイトは少しだけ彼女を見た。

 

疑っているわけではない。

 

ただ、いつものように静かに気づいている目だった。

 

「疲れてる?」

 

「少し」

 

「今日は急がなくていい。時間が決まってるわけじゃないし」

 

その返事はあまりにも自然に収まって、かえってその感覚を悪くした。

 

気遣い。

 

何でもないみたいに。

 

カイトが昔から、あまり考えずにしてきたのと同じ調整。

 

それなのに、いつもなら普通に受け取っていたはずの言葉を、ユキは知らないうちに、今日見てきた他のものの横へ置いていた。

 

クラスメイト。

 

面接の話。

 

予定。

 

進路。

 

カイトの意識を少しずつ分けていくものが、増えていること。

 

どれも、気にするようなことではないはずだった。

 

一度頭に残ったことを考えすぎるところが自分にあるのは、ユキにも分かっていた。けれど最近は、小さな変化でさえ、彼女の中を忙しくさせすぎていた。

 

そこが、うまく説明できなかった。

 

それから駅の方へ向かう道は、涼しくなった夕方の空気の下、静かに続いた。

 

歩道には生徒たちがばらばらの集まりでいて、先の交差点では信号が変わっていく。商店街の近くでは、誰かがカフェの割引ドリンクを大きな声で宣伝していて、その声が通りの半分ほど先まで届いていた。

 

外に出られたことはありがたかった。一日中、自分の考えの中にいたせいで、学校は少し息苦しくなっていた。ただ外を歩いているだけで、たまっていた考えを少し逃がせるような気がした。

 

隣で、カイトが鞄の肩紐を一度直し、それからまたスマホで短く時間を確認した。

 

ユキは前方に見える書店の看板へ目を向けた。

 

まだ自分の中できちんと整理できない理由で、彼女にはもう分からなくなっていた。

 

この数週間で少しずつ変わってきたのは、カイト自身なのか。

 

それとも、彼の将来を取り巻く小さな変化が、以前なら何も考えずに受け取っていた同じ気遣いの見え方を変え始めただけなのか。

 

ユキは、自分の意識がまた流れ始めていたことに気づいた。最近は、小さな考えを長く置いておくと、何度も同じ場所へ引き戻されるようだった。

 

彼女は静かに鞄を持ち直した。

 

この一週間が必要以上に重く感じられた理由も、たぶんそこにあるのかもしれない。

 

カイトの周りにある小さな変化ばかりに目を向ければ向けるほど、その考えは自然に薄れるどころか、あとから大きくなっていくようだった。

 

いつの間にか、まだ変わっていないものよりも、いつか変わるかもしれないものの方を見ていた。

 

涼しい夕方の空気が通りを軽く抜け、生徒たちはまばらな会話をしながら周りを通り過ぎていった。

 

ユキは小さく息を吐いてから、もう一度、道の先の駅の明かりを見た。

 

今は、考えが浮かぶたびに一つ一つ確かめようとするのはやめよう、と決めた。

 

少なくとも、カイトがそうしているように、自分のことも考え始めたかった。


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