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まだ知らなかった距離  作者: 遠井エイト
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第5章 パート2 — 静かな夜

静かな夜 — ユキ


カイトが部屋を出たあとも、ユキはしばらく机に向かったまま、あと数問だけ解こうとしていた。けれど集中は、また少しずつずれていき始めた。


さっき自分がどこで間違えていたのか分かった今では、式そのものはもう特に難しくなかった。桜井先生の復習プリントはたいてい、ひらめきよりも根気が必要なものだったし、いつもなら残りの問題ももう終わっていたはずだった。


けれど今夜は、気づく前に注意が横へ流れていった。


部屋の外では、家がゆっくり夜へ向かって落ち着いていった。父の足音が一度階下を横切り、リビングの方へ遠ざかっていく。そのあと少しして、台所で水の流れる鈍い音がした。どこか壁の中で、階下のシャワーが終わったあと、配管が小さく鳴った。


ユキは式の一部を消し、もう一度きれいに書き直した。


数分後、ページの最後までたどり着いたものの、すぐには次のページへ進まず、開いたワークを見つめた。


勉強しているあいだに、部屋はさらに静かになっていた。


空っぽな静けさではない。ただ、夜ごとにみんなが二階でそれぞれのいつもの流れに分かれていったあと、少しずつやってくる普通の静けさだった。


廊下の向こうでは、カイトの部屋はもう静かになっていた。


たぶん、もう寝ている。


その考えは最初、何気なく頭を通っただけだった。けれどそのあと消えずに、ユキが紙をまとめるあいだ、背景にかすかに残り続けた。


視線が、机の隅に置いてある文庫本へ流れた。今日、本屋で買った新しいSF恋愛ものだった。


しばらく、ただそれを見ていた。


それから、はっきり決めたわけでもないまま手に取り、ベッドへ移った。


壁に背を預けて第一章を開くと、マットレスが彼女の重みでやわらかく沈んだ。窓の外から入る街灯の薄い光が、カーテンの隙間を通って床に淡い線を落としている。部屋のほかの場所は、ベッド脇の小さなランプを除いて薄暗かった。


普段なら、寝る前に本を読むと考えが落ち着きやすかった。夜に読むのが好きな理由の一つでもあった。別の物語にしばらくしっかり入り込んでいると、その日のことは少しずつ力をなくし、背景へ下がっていく。


けれど今夜は、ページの下まで目で追っていたのに、中身が何も入っていないことに何度も気づいた。


目だけが文字の上を自動的に動き、注意は別の場所へ流れていた。


特定の一瞬に向かっているわけではなかった。


ただ、午後全体へ向かっていた。


本屋。


奥の棚の近くにあった、静かな通路。


二人とも何も言わないまま、夕方の流れがゆっくりになっていったこと。


あるとき、もう一枚ページをめくってから、前の二ページの内容をまったく覚えていないことに急に気づいた。


ユキは本を少し下ろした。


問題は、その時間自体が特別だったことではなかった。


むしろ、それがあとになっても残る感覚をうまくまとめにくくしていた。


今日のことが、何時間も経ってからまだこんなふうに頭に残っている必要はなかった。


二人で本屋に寄ったことは前にもある。一緒に帰ったこともある。一緒に勉強したこともある。どれも少しも新しいことではなかった。


それなのに、放課後からの時間全体が、週のほかの出来事の中へ自然に収まっていかなかった。


教室から本屋へ、公園へ、家へ。その移動が、いくつかの別々の普通の出来事ではなく、一つの途切れない空気として記憶の中でつながってしまっているようだった。


ユキは指を挟んだまま本を閉じ、天井の方を見た。


ただ学校帰りに少し寄るだけのはずだったのに、いつの間にか、その時間は思っていたより長くなっていた。


大げさに長いわけではない。


ただ、あとになって気づくくらいには。


長すぎた。


その考えは、止める前に静かに浮かんだ。


悪い意味ではなかった。


それも問題ではなかった。


落ち着かなかったのは、自分がまだそのことを考えていると気づいてしまうことだった。


さらに数分して、ユキはようやく本を脇に置き、ランプを消した。


部屋にはゆっくり暗さが降りた。カーテンの下から入る細い光と、机の近くに置いた時計のかすかなデジタル表示だけが残っていた。


ユキは布団の中で体勢を変え、目を閉じた。


しばらくは、家の中にある聞き慣れた夜の音を聞いていた。階下で冷蔵庫がかすかにうなる音。外壁を風がやわらかくなでる音。階段の近くで、床板がどこか少し落ち着く音。


普段なら、眠ろうとするとそういう音はすぐ背景へ下がっていく。


今夜は、それぞれがいつもよりはっきり聞こえた。


ばらばらに。


数分して、彼女はまた目を開けた。


廊下の向こう、カイトの部屋からは何の音もしなかった。


その意識は、本屋の記憶の横に妙な形で収まった。


不在ではない。


寂しさでもない。


ただ、夜の大半が妙につながって感じられたあとで、夕方がようやく別々の部屋へ分かれて戻ったのだと、静かに分かるだけだった。


十五分ほどして、ユキは横向きになり、布団を少し高く引き上げた。


そんなことを繰り返しているうちに、やがていつもより遅く眠りに落ちた。


翌朝は、ここ数日より少し涼しく、灰色だった。


雲に覆われた空が台所の窓の外の日差しを鈍らせ、階下からは味噌汁の匂いがかすかに漂ってきていた。ユキが台所へ入る頃には、カイトはもう朝のランニングから戻り、制服に着替えていた。


「起きたか」と、彼は椀をテーブルに並べながら言った。


「朝はだいたいそういうものだよ」


「疲れて見える」


「本読んでたから」ユキは答えた。完全に本当というわけではなかった。


「ほら、言っただろ」


「平気」


その会話は十分いつも通りに過ぎていったので、しばらくのあいだ、ユキは前の夜から残っていた妙な感覚も、朝がちゃんと始まれば薄れていくのかもしれないと思った。


けれどそれは、無視しきれないほど小さな形で、朝のあいだ静かについてきた。


カイトと並んで学校へ向かう途中、ユキはいつもより二人の歩調のタイミングが気になった。ある交差点で、自転車が前を横切ると、彼は縁石の近くで自然に足を緩めた。ユキも隣で合わせ、そうしたことに、少し遅れてから気づいた。


そのあと授業中、桜井先生の説明を聞いている途中で、前列のカイトがページをめくるのが見えた。ほとんど同じ瞬間に自分もシャープペンへ手を伸ばしていて、そのことに気づいたところで、注意が半分ほどそちらへ流れた。


どれも、実際には何の意味もなかった。


そこがまだ、もどかしかった。


一つひとつなら、どれも見過ごせるくらい小さなことだった。けれど重なると、二人のあいだの流れが、以前ほど簡単には背景へ戻らなくなっているような、かすかな感覚を作っていった。


昼休み、アイコが弟について大げさに文句を言い、サトシが進路の話は法的に心理戦として扱うべきだと主張して、周りに呆れた目を向けられているあいだも、ユキは特に理由もなくカイトの方を見てしまい、それでも目が合うのは避けている自分に気づいた。


彼が、自分の様子がいつもと違うことに気づき始めているのも分かった。それで、自分のことまで気になり始めた。


彼は問いたださなかった。


ただ、気づいていた。


その表情に苛立ちはなかった。それがかえって、落ち着かなさを収めにくくした。何よりもユキは、以前からずっと二人のあいだに自然にあった普通へ戻りたかった。けれど最近は、その慣れた流れへ力を抜いて戻ろうとするたびに、前ならすぐ見つけられたはずの形を、もう同じようには探せないことを意識してしまう。


ユキは目をそらし、代わりに水筒を開けた。


前の夜から残っていた違和感が、またかすかに動いた。


新しい一日がもう始まっているのに、その感覚がまだ消えていないことが、だんだん無視しにくくなっていた。


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