6 異空間の寝室で寝て翌朝狼?と仲良くなる
ベッドに腰掛けた瞬間、思った。
ここは異空間なのかもしれない、と。
沈み込む感触が、今まで経験したどのベッドとも違った。柔らかいのに、ちゃんと体を受け止めてくれる。弾力があるのに、跳ね返してくる感じがない。試しにそのまま横になると、体の輪郭に沿うようにマットレスがなじんでいく。
「すごい……これ、すごいな」
思わず声に出た。枕の高さも、掛け布団の重さも、全部俺にとってちょうどいい。この能力、本当に俺の「好み」を正確に把握しているらしい。
電気を消して目を閉じると、あっという間に意識が遠のいた。夢すら見なかった。ただ深く、静かに、眠った。
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翌朝、外から声のようなものが聴こえた。
鳴き声、とも呼べるし、そうでないとも言える。よく聴くと、何かがそこにいる気配がする。俺は着替えを済ませて、玄関のドアを開けた。
いた。
玄関先に、大きな動物が座っていた。犬、にしては体格がよすぎる。狼、と言われればそうかもしれない。毛並みは灰色がかった銀色で、目が澄んでいる。そしてその尻尾が、わっさわっさと左右に揺れていた。
「わうん!わうん!はっは!」
敵意はない。それだけははっきりわかった。むしろ好意が全身からあふれ出している。ただ、何を言っているのかがわからない。
(話が通じれば、な)
そう思った次の瞬間だった。
「ここは、貴方様のおうちでしょうか?」
はっきりとした声で、そう聴こえた。
(え。今、喋った?)
俺は目を丸くしながらも、とりあえず答えた。
「そうだけど」
すると相手の尻尾がさらに高速になった。もはや残像が見える。
「是非とも!お肉などを分けていただけないかと思いまして!」
涎が出ていた。真剣な目で、涎を垂らしながら、尻尾を全力で振っている。なんというか、憎めない。
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「ちょっと待ってね」
俺は心の中で念じた。
*この子が好きな肉。*
ぽんっ。
手の中に、肉の塊が現れた。
「こ、これは……ラビッタの肉!?」
相手の目が見開いた。
「どっから出たんですか!?いま、空中から突然出てきましたけど!?」
「あ、これ俺の能力らしい」
「す、すごい能力ですね……!」
しばらく絶句してから、また尻尾を振り始めた。立ち直りが早い。
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せっかくだから、一緒に食べようと思った。
簡易コンロに、外用のコンロ置き、腰掛け、アウトドア用のテーブルにまな板。頭の中でまとめて念じると、
ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ。
玄関先に一式が揃った。コンロは永久式のものが出てきた。燃料を気にしなくていいのは助かる。
「これで何をするんです?」
銀色の狼がテーブルを覗き込みながら尋ねてくる。
「俺も食べたいからね。焼こうかと思って。君は生でも大丈夫?」
「生も好きですが……焼いたものも大好きです!同じようにお願いできますか!」
尻尾の速度が、また上がった。
「わかった。同じように焼くよ」
俺はまな板の上に肉を置いて、包丁を手に取った。
異世界の朝、玄関先で、狼と並んで朝ごはん。
転移初日よりさらに状況がよくわからなくなってきたが、悪い気はしなかった。
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