5 お風呂の湯はりが終わったのでこれから入浴タイム
ソファに沈み込んでいると、家の奥からコール音が響いた。
『お風呂が沸きました』
自動湯沸かし器のアナウンスだ。機械的な声なのに、なんだかほっとする。こういう当たり前の便利さが、今日は特別ありがたく感じた。
着替えとバスタオルを手に取り、脱衣場へ向かう。
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脱衣場に入ってすぐ、ふと思った。
洗濯物を入れる籠があるといいな。
ぽんっ、ぽんっ。
二回、音がした。振り返ると、脱衣場の隅に籠が二つ並んでいた。
(ひとつが衣服用で、もうひとつがバスタオル用か)
自然とそう理解できた。この能力、俺の「こうあってほしい」という気持ちまで汲み取ってくれるらしい。
衣服を脱いで、籠に放り込む。さて、風呂場へ――と思ったところで、はたと気づいた。
(シャンプーとリンス、願ってなかったな。まあリンスインシャンプーで十分か。あと洗い用の腰掛けと、取っ手付きの湯かけも欲しい)
ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ。
風呂場の扉を開けると、さっき思い浮かべたものが全部、ちゃんと収まっていた。ただ、置き場所がなかった。
(スペースも欲しいな)
ぽんっ。
目の前で、棚のようなスペースがすっと現れた。
(お、おおー……)
もはや驚くのも慣れてきたはずなのに、それでも小さく感激してしまう。
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湯船に手を入れてみると、ちょうどいい温度だった。熱すぎず、ぬるすぎず。俺が一番好きな湯加減だ。
(そこまで合わせてくれるのか)
苦笑しながら、取っ手付きの湯かけで掛け湯をする。肩から背中へ、じんわりと熱が広がった。
さあ洗おうと思ったところで、ボディソープがないことに気づいた。
(ボディソープ)
ぽんっ。
すぐ横に現れた。もうツッコむ気も起きない。ありがたく使わせてもらう。
髪を洗い、身体を洗う。リンスインシャンプーをよく泡立てて、丁寧に流す。シャワーの水圧もちょうどよかった。
全部洗い終えてから、湯船に浸かった。
「……ふう」
思わず声が漏れた。
今日は色々ありすぎた。池にダイブして、魚を捌いて、家が建って、飯を食って、テレビを観た。振り返ると、たった半日でずいぶん遠くまで来たものだと思う。
お湯の中で目を閉じると、身体の奥からじんわりと力が抜けていく。
「気持ちいい……」
ぽつりと呟いた言葉が、タイル張りの浴室に小さく反響した。
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ある程度ゆっくりと浸かってから、湯船を出た。
そういえば、使い終わった後の掃除はどうしよう――と心の中で思った瞬間だった。
湯船も、床も、ぴかぴかになっていた。
(どういうこと)
水垢ひとつない。つい今まで人が入っていたとは思えない清潔さだ。
掃除まで能力に含まれているらしい。俺はしばらく呆然と浴室を眺めてから、そっと扉を閉めた。そういうことにしておこう。深く考えると負ける気がした。
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着替えを済ませ、洗濯物をそれぞれの籠に分けて入れる。そこで洗濯洗剤がないことに気づいた。
ぽんっ、ぽんっ。
液体洗剤と粉洗剤、両方が出てきた。
(どっちも出すのか)
用途で使い分けろということだろうか。まあ、両方あるなら困らない。棚の隅に並べておいた。
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寝室へ向かいながら、ベッドと掛け布団と枕を念じた。
ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ。
寝室のドアを開けると――息を飲んだ。
部屋の中央に、明らかに高級なベッドが鎮座していた。フレームの造りが違う。素材の質感が違う。恐る恐る近づいてロゴを確認すると、
(フランスベッド……!?)
しかも足元を見ると、ベッドの下にカーペットまで敷いてある。そのカーペットのタグにも、
(フランスベッド!?)
俺は部屋の入り口で、しばらく立ち尽くした。
願ったのは「ベッドと布団と枕」だ。高級品を指定した覚えは一切ない。なのに出てきたのは、ホテルのスイートルームで見るようなベッドだった。
(俺の能力、基準値が高すぎないか)
まあ、ありがたく使わせてもらうか。
掛け布団をめくって、そっと横になる。体が沈み込む感触が、柔らかくて、でもしっかりと支えてくれる。
今日はよく眠れそうだった。
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