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【改稿版】異世界転移した俺は万能スキルでスローライフを謳歌する  作者: みなと劉


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35/49

35 ミルクバター作りと野菜類収穫

 食器を片付けながら、メセタが言った。

「バターというのも美味しいですが、また違うものも試してみたいですね」

「確かに……マーマレードとかジャムとか、パンに合うものは色々あるよな」

 牛乳と砂糖はある。となると、あれが作れるんじゃないか。

「ちょっと待って、いいこと思いついた」

「なんですか?」

「ミルクバターを作ってみよう」

「ミルクバター? それはなんですか?」

「牛乳と砂糖だけで作れる、甘くてバター風味のクリームみたいなやつだよ。パンにつけて食べると美味しいんだ」

「そんなものが牛乳と砂糖だけで!?」

 メセタの目が輝いた。尻尾がゆっくりと揺れ始める。

「作ってみせるよ」


---


 コンロに片手鍋を置いて、まず耐熱容器を念じた。

 ぽんっ。

 テーブルに蓋付きの耐熱容器が現れた。これは出来上がったものを保存するために使う。後で必要になるから、今は脇に置いておく。

 片手鍋に牛乳を300ml注いで、火にかける。グラニュー糖を大さじ4杯加えてから、木べらを念じると手の中に収まった。

 弱火でゆっくりとかき混ぜながら、煮立てていく。

 最初は牛乳がさらさらと鍋の中を動いているだけだが、時間が経つにつれて様子が変わってくる。泡が細かくなって、鍋肌に薄く膜がつき始める。木べらで底をなぞると、少し抵抗を感じるようになってきた。

「いい匂いがしてきましたね」

 メセタが鼻をひくひくさせながら近づいてきた。

「牛乳を煮詰めると、乳糖が変化して甘い香りが出てくるんだ。砂糖も加わってるから、なおさらいい匂いになる」

「キャラメルみたいな感じですか?」

「そう、それに近い。でもキャラメルよりやさしくて、バター風味が強い」

 木べらを持ち上げてみると、とろりとした液体がゆっくりと落ちていく。鍋の底に線を引くように木べらでなぞると、線がしばらく残るようになってきた。

「よし、頃合いだ」

 火を止めて、鍋をコンロから下ろす。粗熱が取れるまでそのまま待つ。この工程を焦ってやると、耐熱容器に入れたときに結露が出て、仕上がりに影響が出ることがある。

「まだ食べられないのですか?」

「冷蔵庫で3時間ほど冷やしてから完成なんだ。今仕込んでおけば、お昼過ぎには食べられるよ」

「3時間……」

 メセタが少し残念そうな顔をした。

「待てない?」

「待てます。待てますが……楽しみすぎて時間が長く感じそうです」

「それは仕方ない」

 粗熱が取れたのを確認してから、耐熱容器に移して蓋をして冷蔵庫へ。白くとろりとしたミルクバターが、容器の中でゆっくりと揺れた。


---


 台所の片付けを済ませて、布巾で汚れを拭き取った。

「外の畑を見に行こうか」

「行きます!」

 メセタがぱっと顔を上げた。

 玄関を出ると、朝の空気が清々しく漂っていた。昨日の雨のおかげで土が湿っていて、足元に踏み込むとふかっとした感触がある。

 裏手に回って畑に向かった。

 そして、足が止まった。

「……嘘だろ」

 昨日の朝に芽が出たばかりだったはずの畝に、野菜が実っていた。トマトは丸く赤く色づき、キュウリは細長く伸びていて、キャベツと白菜は葉がぎっしりと巻かれている。大根は土から頭を覗かせていた。

 一日も経っていない。それなのに、どれも収穫できる状態になっている。

「昨日の朝に芽が出たばかりでは?」

 メセタも目を丸くしている。

「そうなんだよ……やっぱり俺の能力が関係してるのかもな。願った作物だから、育つのも俺の意思に合わせて早くなるのかもしれない」

「それはつまり、必要な時に必要な分だけ育つということですか?」

「かもしれない。畑がアイテムボックスみたいな感じになってるのかも」

 メセタが感心したように頷いた。


---


 野菜収穫用の鋏とコンテナを念じると、すぐに手元に揃った。

 まずトマトから。赤く熟したものを一つひとつ確認しながら、鋏でへたの上から丁寧に切り取っていく。傷をつけないように、力を入れすぎないのがコツだ。

 キュウリはまっすぐ伸びた頃合いのものを選んで収穫する。曲がっていても味は変わらないが、揃えて収穫するとなんとなく気持ちがいい。

 キャベツと白菜は、野菜収穫ナイフを念じて取り出し、根元からざっくりと切り落とす。ずっしりとした重さが手に伝わってくる。大根は両手でしっかり掴んで、まっすぐ引き抜いた。土から抜ける音が気持ちよかった。

「大収穫ですね!」

 コンテナがいっぱいになるほどの野菜が、あっという間に揃った。メセタが嬉しそうに尻尾を揺らしながら、コンテナを覗き込んでいる。

「これで色々作れるな」

「トマトはあの赤いソースになるんですよね!」

「そうそう。キュウリはサラダに入れてもいいし、大根はおろしにしても、煮物にしても美味しいよ」

「全部食べたいであります!!」


---


 収穫を終えてから、鍬を手に取って畑を再び耕した。

 新しい畝にはじゃがいもを植えることにした。じゃがいもは隣の畝との間隔を少し広めに取る。根が横に広がるから、詰めすぎると育ちが悪くなることがあるのだ。

 次の畝には枝豆と大豆。枝豆は緑豆もやしを作るためにも使える。大豆は味噌や豆腐の材料にもなるから、いずれ仕込んでみたい。さらにレタスの畝も作った。昨日の成長の速さからすれば、明日には収穫できるかもしれない。

 畑の端に三か所、少し広めのスペースを作った。

(りんごの樹木、梨の樹木、みかんの樹木)

 三か所それぞれに念じると、小さな苗木が地面から現れた。まだひょろりとした細い幹だが、昨日の野菜の成長速度を考えると、すぐに立派に育つだろう。

「果物の木ですか!!」

 メセタが前のめりになった。

「りんご、梨、みかん。うまく育ったら収穫できるよ」

「りんごジュースのりんご!?実がなるのですか!?」

「なると思うよ」

「楽しみすぎますね!!」

 尻尾が最高速になった。


---


 収穫した野菜は今日使う分だけ手元に残して、残りは倉庫へ運んだ。倉庫の中に入れておくと、不思議と鮮度が保たれているようだった。まるでアイテムボックスのように、入れておくだけで状態が維持される。この世界の不思議のひとつだ。

 ひと通り片付けたところで、空を見上げた。

(よし、1時間ほど雨が降ってくれると助かるな)

 ぽつり。

 頬に冷たい雫が当たった。

 ぽつり、ぽつり。

 あっという間に雨が降り始めた。

「雨が来ましたね」

「ちょうどよかった。植えたばかりの苗に水が入る」

「我が君が降らせているのですよね?」

 俺は一瞬固まった。

「……どうしてわかった?」

「なんとなく……願うと空も動くのかなと思っていました」

 メセタが涼しい顔で言った。

(いつから気づいていたんだ、この狼は)

 俺は苦笑しながら、メセタと一緒に家の中へ駆け込んだ。


---


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