35 ミルクバター作りと野菜類収穫
食器を片付けながら、メセタが言った。
「バターというのも美味しいですが、また違うものも試してみたいですね」
「確かに……マーマレードとかジャムとか、パンに合うものは色々あるよな」
牛乳と砂糖はある。となると、あれが作れるんじゃないか。
「ちょっと待って、いいこと思いついた」
「なんですか?」
「ミルクバターを作ってみよう」
「ミルクバター? それはなんですか?」
「牛乳と砂糖だけで作れる、甘くてバター風味のクリームみたいなやつだよ。パンにつけて食べると美味しいんだ」
「そんなものが牛乳と砂糖だけで!?」
メセタの目が輝いた。尻尾がゆっくりと揺れ始める。
「作ってみせるよ」
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コンロに片手鍋を置いて、まず耐熱容器を念じた。
ぽんっ。
テーブルに蓋付きの耐熱容器が現れた。これは出来上がったものを保存するために使う。後で必要になるから、今は脇に置いておく。
片手鍋に牛乳を300ml注いで、火にかける。グラニュー糖を大さじ4杯加えてから、木べらを念じると手の中に収まった。
弱火でゆっくりとかき混ぜながら、煮立てていく。
最初は牛乳がさらさらと鍋の中を動いているだけだが、時間が経つにつれて様子が変わってくる。泡が細かくなって、鍋肌に薄く膜がつき始める。木べらで底をなぞると、少し抵抗を感じるようになってきた。
「いい匂いがしてきましたね」
メセタが鼻をひくひくさせながら近づいてきた。
「牛乳を煮詰めると、乳糖が変化して甘い香りが出てくるんだ。砂糖も加わってるから、なおさらいい匂いになる」
「キャラメルみたいな感じですか?」
「そう、それに近い。でもキャラメルよりやさしくて、バター風味が強い」
木べらを持ち上げてみると、とろりとした液体がゆっくりと落ちていく。鍋の底に線を引くように木べらでなぞると、線がしばらく残るようになってきた。
「よし、頃合いだ」
火を止めて、鍋をコンロから下ろす。粗熱が取れるまでそのまま待つ。この工程を焦ってやると、耐熱容器に入れたときに結露が出て、仕上がりに影響が出ることがある。
「まだ食べられないのですか?」
「冷蔵庫で3時間ほど冷やしてから完成なんだ。今仕込んでおけば、お昼過ぎには食べられるよ」
「3時間……」
メセタが少し残念そうな顔をした。
「待てない?」
「待てます。待てますが……楽しみすぎて時間が長く感じそうです」
「それは仕方ない」
粗熱が取れたのを確認してから、耐熱容器に移して蓋をして冷蔵庫へ。白くとろりとしたミルクバターが、容器の中でゆっくりと揺れた。
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台所の片付けを済ませて、布巾で汚れを拭き取った。
「外の畑を見に行こうか」
「行きます!」
メセタがぱっと顔を上げた。
玄関を出ると、朝の空気が清々しく漂っていた。昨日の雨のおかげで土が湿っていて、足元に踏み込むとふかっとした感触がある。
裏手に回って畑に向かった。
そして、足が止まった。
「……嘘だろ」
昨日の朝に芽が出たばかりだったはずの畝に、野菜が実っていた。トマトは丸く赤く色づき、キュウリは細長く伸びていて、キャベツと白菜は葉がぎっしりと巻かれている。大根は土から頭を覗かせていた。
一日も経っていない。それなのに、どれも収穫できる状態になっている。
「昨日の朝に芽が出たばかりでは?」
メセタも目を丸くしている。
「そうなんだよ……やっぱり俺の能力が関係してるのかもな。願った作物だから、育つのも俺の意思に合わせて早くなるのかもしれない」
「それはつまり、必要な時に必要な分だけ育つということですか?」
「かもしれない。畑がアイテムボックスみたいな感じになってるのかも」
メセタが感心したように頷いた。
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野菜収穫用の鋏とコンテナを念じると、すぐに手元に揃った。
まずトマトから。赤く熟したものを一つひとつ確認しながら、鋏でへたの上から丁寧に切り取っていく。傷をつけないように、力を入れすぎないのがコツだ。
キュウリはまっすぐ伸びた頃合いのものを選んで収穫する。曲がっていても味は変わらないが、揃えて収穫するとなんとなく気持ちがいい。
キャベツと白菜は、野菜収穫ナイフを念じて取り出し、根元からざっくりと切り落とす。ずっしりとした重さが手に伝わってくる。大根は両手でしっかり掴んで、まっすぐ引き抜いた。土から抜ける音が気持ちよかった。
「大収穫ですね!」
コンテナがいっぱいになるほどの野菜が、あっという間に揃った。メセタが嬉しそうに尻尾を揺らしながら、コンテナを覗き込んでいる。
「これで色々作れるな」
「トマトはあの赤いソースになるんですよね!」
「そうそう。キュウリはサラダに入れてもいいし、大根はおろしにしても、煮物にしても美味しいよ」
「全部食べたいであります!!」
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収穫を終えてから、鍬を手に取って畑を再び耕した。
新しい畝にはじゃがいもを植えることにした。じゃがいもは隣の畝との間隔を少し広めに取る。根が横に広がるから、詰めすぎると育ちが悪くなることがあるのだ。
次の畝には枝豆と大豆。枝豆は緑豆もやしを作るためにも使える。大豆は味噌や豆腐の材料にもなるから、いずれ仕込んでみたい。さらにレタスの畝も作った。昨日の成長の速さからすれば、明日には収穫できるかもしれない。
畑の端に三か所、少し広めのスペースを作った。
(りんごの樹木、梨の樹木、みかんの樹木)
三か所それぞれに念じると、小さな苗木が地面から現れた。まだひょろりとした細い幹だが、昨日の野菜の成長速度を考えると、すぐに立派に育つだろう。
「果物の木ですか!!」
メセタが前のめりになった。
「りんご、梨、みかん。うまく育ったら収穫できるよ」
「りんごジュースのりんご!?実がなるのですか!?」
「なると思うよ」
「楽しみすぎますね!!」
尻尾が最高速になった。
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収穫した野菜は今日使う分だけ手元に残して、残りは倉庫へ運んだ。倉庫の中に入れておくと、不思議と鮮度が保たれているようだった。まるでアイテムボックスのように、入れておくだけで状態が維持される。この世界の不思議のひとつだ。
ひと通り片付けたところで、空を見上げた。
(よし、1時間ほど雨が降ってくれると助かるな)
ぽつり。
頬に冷たい雫が当たった。
ぽつり、ぽつり。
あっという間に雨が降り始めた。
「雨が来ましたね」
「ちょうどよかった。植えたばかりの苗に水が入る」
「我が君が降らせているのですよね?」
俺は一瞬固まった。
「……どうしてわかった?」
「なんとなく……願うと空も動くのかなと思っていました」
メセタが涼しい顔で言った。
(いつから気づいていたんだ、この狼は)
俺は苦笑しながら、メセタと一緒に家の中へ駆け込んだ。
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