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【改稿版】異世界転移した俺は万能スキルでスローライフを謳歌する  作者: みなと劉


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36/49

36 パンケーキを作ろう

 家の中に入ると、雨音が屋根を叩く音が心地よく響いていた。

 外は本降りになってきている。

 畑の苗木たちにはちょうどいい雨だ。

 俺はエプロンをつけながら、台所に向かった。

「何か作るのですか?」

 メセタが後ろからついてくる。

「パンケーキ」

「パンケーキ!?」

「ホットケーキとは少し違うやつだよ」

「どう違うのですか?」

「作りながら説明するよ」


---


 材料を揃えていく。

 小麦粉、牛乳、溶かしバター、ベーキングパウダー、グラニュー糖。

 それぞれを分量通りにボウルへ入れていく。

 ホットケーキとパンケーキは、見た目は似ているが中身が違う。

 ホットケーキは卵と牛乳と小麦粉のシンプルな構成で、素朴でもちっとした食感が特徴だ。

 一方パンケーキはバターを生地に混ぜ込む。

 バターが生地全体に行き渡ることで、焼き上がりにほんのりとしたコクと風味が加わる。

 シロップやバターを後からかけても美味しいが、生地そのものに風味があるから、何もつけなくても十分に美味しい。

「ベーキングパウダーというのは?」

「生地を膨らませるための粉だよ。これを入れると焼いたときにふわっと軽くなる」

「それが入っているかどうかで食感が変わるんですね」

「そう。ベーキングパウダーなしで焼くと、ずっしりした仕上がりになる。入れることで、空気を含んだ柔らかい生地になるんだ」

 ヘラを手に取って、材料をざっくりと混ぜ合わせていく。

 グルグルと混ぜ続けるのではなく、底からすくい上げるようにして合わせる。

 混ぜすぎるとグルテンが出て、焼き上がりが固くなってしまう。

 多少の塊が残っていても、焼けばちゃんと仕上がる。

「少し混ぜるだけでいいんですか?」

「そう。混ぜすぎない方がふんわり仕上がるんだよ。料理って、手をかければいいってわけじゃないんだ」

「ほへえ……奥深い」


---


 フライパンをコンロに置いて火にかける。

 ある程度熱が通ったところで一度火から下ろして、濡れ布巾の上に置いた。

 しゅーっという音が立つ。

 こうして余分な熱を抜いて温度を均一にすることで、焼きムラが出にくくなる。

 コンロに戻して弱めの中火にして、油をさっと引く。

 おたまで生地をすくってフライパンの中央に流し込んだ。

 じゅうっ。

 丸く広がった生地が、ゆっくりと焼けていく。

 しばらくすると表面にぷつぷつと小さな気泡が現れ始めた。

 一つ、二つ、三つと増えていき、弾けた跡が小さな穴になって残る。

 生地の縁が固まってきた。

「そろそろだ」

 フライ返しをすっと差し込んで、ひっくり返す。

 ふわっと膨らんだ。

 裏面が香ばしい焼き色になっている。

 バターの甘い香りがキッチンに広がって、メセタの鼻がひくひくと動いた。

「いい匂いがしますね……!」

「もうすぐだよ」

 しばらくして、裏面も程よく焼けたのを確認して皿に移す。

 次の生地を流し込んで、また同じ工程を繰り返す。

 フライパンの状態を保つために、時々濡れ布巾で温度を整えながら焼き続けた。

 一枚、二枚、三枚。

 焼くたびにキッチンに香りが満ちていく。

 バターと牛乳が熱で変化した、甘くて温かい匂い。

 雨音と混ざって、なんとも居心地のいい空間になっていた。

 全部で八枚焼き上がった。

「よし、完成」

 四枚ずつ皿に盛り付けて、テーブルに並べた。


---


「これは?」

「パンケーキ」

「昨日のホットケーキとは違うのですか?」

 いい着眼点だ。

「違うよ。今回はバターを生地に混ぜ込んでいるから、風味が変わってくる。昨日のホットケーキはバターを上に乗せて溶かして食べたけど、今日のは生地の中にもバターが入ってる」

「そんな細かな違いがあるんですね……勉強になります」

 メセタが真剣な顔で頷いた。

 このドラマへの食いつきと、料理への学習意欲が同じ顔でくるのが面白い。

「まず一口、食べてみて」

 一枚を切り分けて、メセタの前に差し出した。

「あむ……もぐもぐ……」

 少しの間があった。

「……ホットケーキの時とは確かに違います。バターのほのかな風味が……生地の中から感じられます。前の時は上にバターを乗せていたから、外から来る感じだったけど……今回は内側から来る感じ」

「そう、そういうこと。よく分かったな」

「食べ比べてみると分かりますね」

 メセタが感心したように尻尾を揺らした。

 前のホットケーキをちゃんと覚えていて、今回と比較している。

 こういうところが、メセタの賢さだ。

 俺も自分の分を切り分けてフォークで刺して口に運んだ。

 外はほんのりきつね色で、中はふんわりと柔らかい。

 噛んだ瞬間にバターの風味がじんわりと広がって、牛乳の優しい甘みが後から包んでくる。

 シロップをかけなくても、十分に味が完結していた。

「「美味あ!!」」

 また声が揃った。

 雨音を背景に、ふたりでパンケーキを食べた。

 外は灰色の空だったが、テーブルの上は温かかった。


---


 食べ終えて、食器をシンクへ運んだ。

 洗い物を済ませて、布巾でテーブルを軽く拭く。

 ソファに腰を下ろすと、すぐにメセタが隣にやってきた。

「我が君、隣に座っていいですか」

「どうぞ」

 メセタがぴたりと寄り添ってくる。

 俺は自然に手を伸ばして、頭と背中をゆっくりと撫でた。

 メセタが目を細めて、静かに息をついた。

 雨音が続いている。

 畑の苗木たちにはちょうどいい雨だ。

「もう少ししたら外の様子を見に行こうか」

「はい……でも、もう少しだけここにいてもいいですか」

「いいよ」

 ふたりで、雨が上がるのをゆっくりと待った。


---


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