34 朝ごはんの支度をしよう
寝室のドアを開けると、廊下に朝の光が差し込んでいた。
リビングダイニングへ向かい、シンクで手を洗う。タオルで拭きながら、さて何を作ろうかと頭の中で考え始めた。
「たまごが食べたいです」
メセタが後ろからぱたぱたとついてきて、カウンター越しにキッチンを覗き込んだ。
「卵か。目玉焼きか卵焼きか……」
卵焼きは昼か夕飯でいいか。今朝は目玉焼きにしよう。目玉焼きは仕上げの味付けで印象がかなり変わる。醤油でもいい、ソースでもいい。塩だけというのも悪くないし、山椒を少し振るのも面白い。今日はどれにしようか。
まずはメセタの分から作ることにした。
フライパンをコンロに置いて火にかけ、油をさっと引く。熱が回ったところで卵をフライパンの縁に軽くあてて割る。ぱかっと殻が割れて、黄身と白身がするりと落ちた。
じゅうっ。
白身の端からじりじりと焼けていく。計量カップに少量の水を入れて、フライパンの縁に沿って静かに注ぎ込む。
ばちばちゃっという音が立って、すぐにフライパン用の蓋をかぶせる。蓋の中でごうううという蒸気の音が響き始めた。
これが半熟仕上げの目玉焼きを作るコツだ。直接火を当てるだけでは白身が固まる前に黄身が生のままになってしまうことがある。蒸気で上からも熱を加えることで、白身はしっかり、黄身はとろりと、丁度いい仕上がりになる。
音が落ち着いてきたところで蓋を外す。白身は端まできっちり固まって、黄身の表面だけが薄い膜を張ったように仕上がっていた。
「いい感じだ」
フライ返しで皿に移す。
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冷蔵庫から昨夜仕込んでおいたサラダを取り出して、マヨネーズをひと回しかけてテーブルに置く。色とりどりの野菜が朝の光を受けて、鮮やかに見えた。
続いて食パンだ。
「トースター」
ぽんっ。
食パンが2枚入るコンパクトなトースターが現れた。コンセントを差して、食パンを2枚セットしてスイッチを入れる。
その間に自分の目玉焼きを焼いた。さっきと同じ手順で、静かに蒸らして仕上げる。皿に盛り付けたところで、
ちんっ。
トースターが鳴った。取り出した食パンは表面がきつね色に焼けて、ほんのり湯気を立てている。バターナイフを取り出して、手際よく塗っていく。温かいトーストの上でバターがじわりと溶けて、香ばしい香りが立ち上がった。
「よし、完成」
目玉焼き、バタートースト、野菜サラダ。シンプルだが、揃うと朝らしい食卓になる。
「美味しそうです!!」
メセタの尻尾がゆっくりと揺れた。
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それぞれ椅子に腰を落ち着けて、向かい合った。
「「いただきます」」
声が揃った。
まず目玉焼きをひと口。フライ返しで崩すと、黄身がとろりと流れ出した。白身のしっかりとした食感と、黄身のクリーミーな旨みが口の中で混ざり合う。今日は醤油を少し垂らした。ほんのりとした塩気が、卵の甘みを引き立てていた。
「「美味しい!!」」
またも声が揃った。
バタートーストをかじると、外の香ばしさと中のふんわり感が同時に来て、バターのコクが後から追いかけてくる。サラダはみずみずしくて、マヨネーズの酸味が口をさっぱりさせてくれた。
シンプルな洋食モーニングだったが、どれも過不足なく美味しかった。異世界の朝に、こういう食卓があるというのが、まだ少し不思議な気もするし、当たり前になりつつある気もした。
メセタが満足そうに目を細めながら、最後のひとかけを口に入れた。
「我が君の作る朝ごはんは、毎回違うのに、毎回美味しいですね」
「毎回同じだと飽きるだろ」
「確かに……でも、飽きなくても毎日食べたいと思いますよ、これは」
そう言ってメセタが尻尾を揺らした。
俺は少し笑いながら、トーストの最後のひとかけを口に運んだ。
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