33 事件の真相に迫る
「ここからが、由紀かおるによるショーの始まりだよ」
俺は箸で白菜のおかか和えをぱくぱくとつまみながら言った。
「ショー、ですか」
「ミステリードラマの醍醐味のひとつでね。謎を解いた主人公が、全員の前で真相を明かしていく場面があるんだ。これが一番盛り上がる」
「なるほど……もぐもぐ」
メセタはキャベツのおかか和えをゆっくりと食べながら、画面に集中している。尻尾がわずかに揺れていた。
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画面の中では、由紀かおるがヨシオに耳打ちをしていた。ふたりの表情が、それまでとは少し変わっている。謎を追う顔から、答えを持った顔へ。
やがて由紀かおるが、宿泊客と従業員、そして警部を一か所に集めるよう動いた。温泉宿の広間に全員が揃って、緊張した空気が漂い始める。
「これから何が起きるのですか?」
「全員の前で、事件の真相を明かす。犯人が誰で、どうやってやったのかを、一つひとつ説明していく」
「それは……犯人もその場にいるということですよね」
「そう。だから犯人は内心、相当焦っているはずだ」
メセタが息をのんだ。
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由紀かおるが静かに口を開いた。
まず第一の犯行について。被害者と犯人の関係、動機、そして犯行の手口。次に密室トリックの解明。部屋の構造と、犯行後に鍵をかけた方法。そして第三の犯行、偽装遺書の真相。
ひとつひとつが説明されるたびに、広間の空気が変わっていく。宿泊客たちの顔が青ざめたり、息をのんだり。警部でさえ、口を挟めずにいる。
「由紀かおるは……頭の中で全部のピースが繋がっていたんですね」
「ああ。あの顔は伊達じゃなかった」
「密室のトリックはどういうものだったのですか?」
「ドアの蝶番の部分を細工してあったんだよ。外から鍵をかけているように見せながら、実は内側から操作できる仕組みが作ってあった」
「なんとも手の込んだことを……」
「こういうトリックを考えるのも、ミステリー小説の醍醐味のひとつなんだよ。作者がどれだけ手の込んだ仕掛けを用意できるかが、作品の面白さに直結する」
「原作を書いた方は相当な知恵者でいらっしゃるんですね」
「そうだな。こういう作品を生み出せる人を、俺は尊敬するよ」
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場面はクライマックスへ。
由紀かおるが最後のピースを明かした瞬間、それまで黙って聞いていた真犯人が立ち上がった。
「メセタ、ここだよ」
「……はい」
真犯人が、由紀かおるに向かって動いた。その手に、光るものが見える。
しかし次の瞬間、廊下側の扉が勢いよく開いた。待機していた警察官たちが一斉に飛び込んできて、真犯人を取り押さえる。もみ合いの末、床に押さえつけられた真犯人が、ようやく観念したように力を抜いた。
パトカーに乗せられていく後ろ姿。ドアが閉まって、サイレンが遠ざかっていく。
「捕まりましたね」
「ああ。由紀かおるとヨシオが、最初から警察と連携していたんだよ。真相を明かす場面は、同時に犯人を追い詰めるための罠でもあった」
「なんと……周到なことですね」
「こういう締め方が、このシリーズの特徴でもあるんだ」
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静かな音楽が流れ始めた。
エンディングテーマと共に、スタッフロールが流れていく。続いてエピローグ。温泉郷を後にする由紀かおるとヨシオの後ろ姿が、夕暮れの道に溶けていく。ふたりの間に交わされる、短い会話。事件の重さをそれぞれが噛み締めながら、それでも前を向いて歩いていく。
画面が暗くなった。
俺はリモコンを手に取って、音量を少し下げた。
「どうだった?」
「大変に面白く、そして勉強になりました」
「何が一番印象に残った?」
メセタはしばらく考えてから、答えた。
「密室のトリックもそうですが……由紀かおるが最後まで冷静だったことです。真犯人が自分に向かってきても、動じていなかった。それは警察との連携があったからでしょうが、それでも並大抵の胆力ではない」
「鋭いところを見てるな」
「ミステリーというのは、謎解きだけでなく、人の胆力も描いているんですね」
(本当にメセタは賢い)
俺はメセタの頭をぽんと撫でた。
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次のドラマの予告が始まった。
『来週放送予定、検死~女医宮古春江の検死ファイル』
「来週のも面白そうですね!」
メセタの目がきらきらと輝いた。尻尾も元気よく揺れている。
「検死というのは、死因を医学的に調べることだよ。今度は医者が主人公の話らしいな」
「医者が事件を解くのですか!?それはまた違った面白さがありそうですね」
「来週も一緒に見ようか」
「もちろんであります!!」
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テレビを消して、リビングダイニングの電気を落とした。
ふと、今日一日のことを思い返した。畑の芽が出て、揚げ物を作って、メセタと風呂に入って、ドラマを見た。内容だけ聞けばただの日常だが、どの場面にも確かな手応えがあった。
来週のゴミ回収は月曜日だと確認した。燃えるゴミと生ゴミ、明後日に出せばいい。
細かいことだが、こういう日常のリズムが整っていくことが、ここでの暮らしを本物にしていく気がした。
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寝室へ向かうと、メセタがベッドに飛び乗って、ぽよんと沈んだ。
「これもすごーい!」
「毎回同じリアクションだな」
「だって毎回すごいのですから仕方ないであります」
反論できなかった。
「メセタ、こっちにおいで」
「我が君」
ベッドに入って、メセタの頭と背中をゆっくりと撫でた。メセタが目を細めて、深く息をつく。
「気持ちいいである……」
「今日は色々あったな」
「ええ……池から転移してきた我が君が、もうこんなにたくさんのことを……」
「俺だけじゃないよ。メセタがいたから、全部楽しかった」
メセタが少し黙った。
「……我が君」
「なに?」
「これからも、宜しくお願いします」
「こちらこそ。宜しくな、メセタ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
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翌朝、目覚まし時計が6時に鳴った。
目を開けると、メセタはすでに起きていた。ベッドの縁に座って、こちらをじっと見ている。
「メセタ、おはよう。早起きだな」
「我が君より先に起きなくては……我が君の寝顔をお守りできませんから」
俺は少し笑った。
「俺の寝顔を守っても、何の役にも立たないと思うけど」
「役に立つかどうかの問題ではないのです」
メセタが真剣な顔で言い切った。
朝の光が、窓から静かに差し込んでいる。今日もまた、ここでの一日が始まる。
悪くない、と思った。
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