↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】異世界転移した俺は万能スキルでスローライフを謳歌する  作者: みなと劉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/49

33 事件の真相に迫る

「ここからが、由紀かおるによるショーの始まりだよ」

 俺は箸で白菜のおかか和えをぱくぱくとつまみながら言った。

「ショー、ですか」

「ミステリードラマの醍醐味のひとつでね。謎を解いた主人公が、全員の前で真相を明かしていく場面があるんだ。これが一番盛り上がる」

「なるほど……もぐもぐ」

 メセタはキャベツのおかか和えをゆっくりと食べながら、画面に集中している。尻尾がわずかに揺れていた。


---


 画面の中では、由紀かおるがヨシオに耳打ちをしていた。ふたりの表情が、それまでとは少し変わっている。謎を追う顔から、答えを持った顔へ。

 やがて由紀かおるが、宿泊客と従業員、そして警部を一か所に集めるよう動いた。温泉宿の広間に全員が揃って、緊張した空気が漂い始める。

「これから何が起きるのですか?」

「全員の前で、事件の真相を明かす。犯人が誰で、どうやってやったのかを、一つひとつ説明していく」

「それは……犯人もその場にいるということですよね」

「そう。だから犯人は内心、相当焦っているはずだ」

 メセタが息をのんだ。


---


 由紀かおるが静かに口を開いた。

 まず第一の犯行について。被害者と犯人の関係、動機、そして犯行の手口。次に密室トリックの解明。部屋の構造と、犯行後に鍵をかけた方法。そして第三の犯行、偽装遺書の真相。

 ひとつひとつが説明されるたびに、広間の空気が変わっていく。宿泊客たちの顔が青ざめたり、息をのんだり。警部でさえ、口を挟めずにいる。

「由紀かおるは……頭の中で全部のピースが繋がっていたんですね」

「ああ。あの顔は伊達じゃなかった」

「密室のトリックはどういうものだったのですか?」

「ドアの蝶番の部分を細工してあったんだよ。外から鍵をかけているように見せながら、実は内側から操作できる仕組みが作ってあった」

「なんとも手の込んだことを……」

「こういうトリックを考えるのも、ミステリー小説の醍醐味のひとつなんだよ。作者がどれだけ手の込んだ仕掛けを用意できるかが、作品の面白さに直結する」

「原作を書いた方は相当な知恵者でいらっしゃるんですね」

「そうだな。こういう作品を生み出せる人を、俺は尊敬するよ」


---


 場面はクライマックスへ。

 由紀かおるが最後のピースを明かした瞬間、それまで黙って聞いていた真犯人が立ち上がった。

「メセタ、ここだよ」

「……はい」

 真犯人が、由紀かおるに向かって動いた。その手に、光るものが見える。

 しかし次の瞬間、廊下側の扉が勢いよく開いた。待機していた警察官たちが一斉に飛び込んできて、真犯人を取り押さえる。もみ合いの末、床に押さえつけられた真犯人が、ようやく観念したように力を抜いた。

 パトカーに乗せられていく後ろ姿。ドアが閉まって、サイレンが遠ざかっていく。

「捕まりましたね」

「ああ。由紀かおるとヨシオが、最初から警察と連携していたんだよ。真相を明かす場面は、同時に犯人を追い詰めるための罠でもあった」

「なんと……周到なことですね」

「こういう締め方が、このシリーズの特徴でもあるんだ」


---


 静かな音楽が流れ始めた。

 エンディングテーマと共に、スタッフロールが流れていく。続いてエピローグ。温泉郷を後にする由紀かおるとヨシオの後ろ姿が、夕暮れの道に溶けていく。ふたりの間に交わされる、短い会話。事件の重さをそれぞれが噛み締めながら、それでも前を向いて歩いていく。

 画面が暗くなった。

 俺はリモコンを手に取って、音量を少し下げた。

「どうだった?」

「大変に面白く、そして勉強になりました」

「何が一番印象に残った?」

 メセタはしばらく考えてから、答えた。

「密室のトリックもそうですが……由紀かおるが最後まで冷静だったことです。真犯人が自分に向かってきても、動じていなかった。それは警察との連携があったからでしょうが、それでも並大抵の胆力ではない」

「鋭いところを見てるな」

「ミステリーというのは、謎解きだけでなく、人の胆力も描いているんですね」

(本当にメセタは賢い)

 俺はメセタの頭をぽんと撫でた。


---


 次のドラマの予告が始まった。

『来週放送予定、検死~女医宮古春江の検死ファイル』

「来週のも面白そうですね!」

 メセタの目がきらきらと輝いた。尻尾も元気よく揺れている。

「検死というのは、死因を医学的に調べることだよ。今度は医者が主人公の話らしいな」

「医者が事件を解くのですか!?それはまた違った面白さがありそうですね」

「来週も一緒に見ようか」

「もちろんであります!!」


---


 テレビを消して、リビングダイニングの電気を落とした。

 ふと、今日一日のことを思い返した。畑の芽が出て、揚げ物を作って、メセタと風呂に入って、ドラマを見た。内容だけ聞けばただの日常だが、どの場面にも確かな手応えがあった。

 来週のゴミ回収は月曜日だと確認した。燃えるゴミと生ゴミ、明後日に出せばいい。

 細かいことだが、こういう日常のリズムが整っていくことが、ここでの暮らしを本物にしていく気がした。


---


 寝室へ向かうと、メセタがベッドに飛び乗って、ぽよんと沈んだ。

「これもすごーい!」

「毎回同じリアクションだな」

「だって毎回すごいのですから仕方ないであります」

 反論できなかった。

「メセタ、こっちにおいで」

「我が君」

 ベッドに入って、メセタの頭と背中をゆっくりと撫でた。メセタが目を細めて、深く息をつく。

「気持ちいいである……」

「今日は色々あったな」

「ええ……池から転移してきた我が君が、もうこんなにたくさんのことを……」

「俺だけじゃないよ。メセタがいたから、全部楽しかった」

 メセタが少し黙った。

「……我が君」

「なに?」

「これからも、宜しくお願いします」

「こちらこそ。宜しくな、メセタ」

「おやすみなさい」

「おやすみ」


---


 翌朝、目覚まし時計が6時に鳴った。

 目を開けると、メセタはすでに起きていた。ベッドの縁に座って、こちらをじっと見ている。

「メセタ、おはよう。早起きだな」

「我が君より先に起きなくては……我が君の寝顔をお守りできませんから」

 俺は少し笑った。

「俺の寝顔を守っても、何の役にも立たないと思うけど」

「役に立つかどうかの問題ではないのです」

 メセタが真剣な顔で言い切った。

 朝の光が、窓から静かに差し込んでいる。今日もまた、ここでの一日が始まる。

 悪くない、と思った。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。