30 メセタは夢でラッキースケベな思いをする?
メセタの身体をそっと引き寄せて、頭と背中をゆっくりと撫でた。
テレビの画面では、主人公たちが温泉宿の廊下を歩いている。俺はそれを眺めながら、手を動かし続けた。メセタの毛はドライヤー後のふわふわが残っていて、手のひらに心地よく沈んでいく。
しばらくして、メセタが小さく息をついた。
(我が君……本当に私のことが好きなんですね)
心の中でそう思いながら、メセタはちらりと俺の横顔を盗み見た。テレビに向けられた目は穏やかで、頭を撫でる手は優しい。
(なら……ちょっとだけ)
ぺろり。
メセタが俺の首筋を、舌でそっと舐めた。
「きゃうっ……!」
俺は思わず肩をすくめた。舐められた首筋に反射的に手を当てて、真っ赤な顔でメセタを見る。
心臓が、うるさいくらいに鳴っていた。
「め、メセタ……俺……」
(やりすぎた!?)
メセタが内心で焦る。俺の表情が、普段と全然違う色をしていた。頬が赤くて、目が潤んでいて、でもまっすぐこちらを見ている。
「我が君!?あの、テレビ!テレビを見ましょうテレビ!!」
「そんなのどうでもいい……録画してるから……だから」
俺はゆっくりと、シャツのボタンに手をかけた。
「我が君……我が君!?」
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「どわっ!?……な、なに?どうしたの?」
俺は目を開けた。
メセタが目の前で、前足で俺の肩をぺしぺしと叩いていた。テレビはまだついていて、ドラマが流れている。ソファの上で、俺はいつの間にか体を傾けて、半分うとうとしていたらしい。
「あれ……俺、寝てた?」
「寝ておられましたよ。ぐっすりと」
「そうか……」
頭がまだぼんやりしている。夢を見ていた気がする。なんだかひどく鮮明な夢だったが、内容はもう霞んでいる。
メセタが少し首を傾けて、俺をじっと見た。
「我が君……服のボタン、外してましたよ。しかもわたしの鼻に押し当てようとしながら」
「……はあ?」
「おっぱいはどこですかって言いながら」
「俺の……おっぱい?」
沈黙が落ちた。
「男のおっぱいを鼻に押し当てられても、何も嬉しくないであるぞ」
「そんなことをしようとしてたのか、寝ながら」
(夢だったのか……夢の中では我が君は女の子じゃなかったのか!?)
メセタは内心で盛大に動揺していたが、顔にはなるべく出さないようにした。出てしまっていたかもしれないが。
「まあ……夢の中のことですから」
「そうだな。忘れてくれ」
「忘れましょう」
ふたりで前を向いた。テレビの画面では、ドラマがちょうどいい場面に差し掛かろうとしていた。
「今どこまで進んだ?」
「温泉宿に着いて、主人公たちが部屋に落ち着いたところまでです」
「じゃあまだ事件は起きてないな。ちょうどいい」
「録画もしているのでご安心を」
メセタが少し得意げな顔で言った。昨日教えてもらったことをさっそく活用している。
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ドラマの画面が切り替わった。
夜の温泉宿の廊下。ひっそりとした静けさの中で、誰かがドアをノックする音が響く。映し出されるのはノックする腕だけで、部屋の中は見えない。やがて扉が開いて、中から青年が顔を出した。
「うん?……ああ、お前か。ここじゃなんだから、外に出ようか」
青年はそう言って廊下へ出て、画面から消えていく。
次の場面は翌朝だった。
朝の光の中、温泉郷から少し離れた森の中。草むらの陰に、青年が倒れていた。
サイレンの音が響き、警察が温泉郷へと駆けつける。
「あの者は本当に死んでおるのですか!?」
メセタが身を乗り出した。
「いや。死に役者といって、死んでいる演技をする専門の役者さんだよ。これを自然に演じられる役者は、相当の実力者だ」
「生きているのに死んでいるふりをする……それを演じきるとは確かにすごいですね」
「リアルに見えるだろ?それがこの役者さんの実力だよ」
「さっきの音のなっていたものは?」
「パトカーだよ。警察が使う特別な乗り物で、この世界で言えば魔導式の乗り物に近いかな」
メセタが少し考えてから、教えてくれた。
魔導式とは、魔力を燃料にして動く魔導炉という特別な機関を持つ乗り物のことらしい。錬金術的な学問と機械工学が組み合わさったような技術で、一度作れば永久的に魔力で動き続けるという。機械工学の産物は燃料や動力に限りがあるが、魔導式はそれがない。
(それをいつか作れるようになったら、面白いかもな)
俺は画面を眺めながら、頭の片隅でそんなことを考えていた。
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