29 テレビでミステリーサスペンスドラマをメセタと一緒に観る。
テレビ画面が切り替わって、ドラマが始まった。
冒頭、商店街のくじ引き会場。にぎやかな音楽と人混みの中、主人公がくじを引く手に力を込める。そして、
「特賞!湯けむり温泉郷、3泊4日宿泊券!」
司会者の声が響いて、主人公が目を丸くした。
「商店街というのは初めて見ましたが……次のこの乗り物はなんですか?」
場面が変わって、電車の車内が映し出された瞬間、メセタが身を乗り出す。
「電車だよ。電気の力で動く乗り物で、線路という決まった道を走るんだ。乗った人を座ったまま目的地まで運んでくれる」
「それはすごいですね!こちらの世界の乗り物とは全然違う」
「この世界の乗り物って何が主流なの?」
メセタは少し考えてから答えた。
「基本は馬車ですね。それとは別に、魔導式の蒸気機関というものもあります」
(魔導式の蒸気機関!?なんだそのカッコいい響きは!?)
「蒸気機関、あるんだ」
「ご存知ですか?」
「俺たちの世界では、今から150年くらい前に蒸気機関が開発されて、それが発展して蒸気機関車になり、さらに電車になったんだよ」
「150年前に!?そんな昔にすでに!?」
メセタが目を丸くした。技術の蓄積というのは、異世界の者から見ると相当な驚きらしい。
ふたりでそんな話をしているうちに、ドラマは電車から温泉郷へと場面を移していた。
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主人公とパートナーが温泉宿に着いて、浴衣に着替えて廊下を歩く場面になった。
「この羽衣……なかなかに良いですね!」
「浴衣だよ。温泉宿でよく着られる和服の一種」
「浴衣……いい響きですね」
俺はなんとなく、メセタに顔を近づけた。すんすん。
「我が君!すんすんはわたしの特権だと言ったでしょ!?」
「いいじゃないか……あのリンスインシャンプー、木々の香りが残ってていい匂いだな」
もう一度すんすんする。
「こらあ!やめるのです!テレビに集中ですよ!放送が見られなくなります!」
「大丈夫だよ」
俺はリモコンをくるくると回してみせた。
「ちゃんと録画もしてあるぜ」
ドヤ顔で言うと、メセタの目がぱっと輝いた。
「まさか……これを保存できているってこと?」
「はい、できてマース」
メセタがぱあっと明るくなった。
「我が君!好き!!」
ソファの上で尻尾が最高速になった。
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その後もふたりで他愛のない会話を挟みながら、ドラマを眺めた。
画面の中では主人公の女優が、凛とした表情で謎を追い始めていた。演技がいい。セリフの間の取り方も、目線の動かし方も、ベテランの風格がある。
(やっぱりこの女優の演技はいいな)
そう思っていたら、横からメセタがすっと口を開いた。
「ほほう……我が君はこの女子おなごが好みのようですね」
「なな、何を言っているんだメセタくんや!俺はこの女優の演技がいいと思っているのであって!べ、別に好みとかそういうのでは全くないからね!?」
(ほう……この焦りよう……図星であるな)
メセタは表情ひとつ変えずに、すました顔で言った。
「そういうことにしておきましょう」
「…………」
俺はそれ以上何も言えなかった。
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