28 夜のおつまみとオレンジジュースで夜の団欒を
冷蔵庫から皿を二枚取り出して、リビングのテーブルに並べた。
「これは?」
メセタがソファから首を伸ばして覗き込む。
「ゆで卵を茹でていた時に一緒に茹でておいたやつだよ。キャベツと白菜のおかか和え」
「ああ!あの時のやつですね」
「それと、こっちはプレーンスコーン。ドライイーストは少なめにしたから、食べやすいと思うよ」
もう一枚の皿をテーブルにそっと置いた。焼きたてではないが、冷めてもしっとりした食感が残るのがスコーンのいいところだ。
「どちらも初めて食べるものであります!」
「じゃあまずキャベツのおかか和えからいこうか」
箸でキャベツをひとつまみつまんで、メセタの前へ持っていく。
するとメセタが、箸の方をじっと見つめた。
「我が君、それは?」
「ああ、箸か。食器の一種だよ」
せっかくだから丁寧に教えよう。俺はシンクへ行って菜箸を持ってきた。
「これが料理用の菜箸で、さっき持ってきたのが食事用の箸。形は似てるけど用途が違う。竹や木で作ることが多いけど、金属やプラスチック製もあるよ」
「そういえば我が君がよく料理で使っていたやつですね!同じものだったとは」
「そういうこと。さ、気を取り直して。はい、あーん」
メセタが素直に口を開けた。キャベツのおかか和えをそっと口の中へ。
一瞬の静寂。
メセタがゆっくりと咀嚼する。
そして、ぴたりと動きが止まった。
「…………」
「どうだ?」
「…………美味あ!!」
目がきらきらと輝き、尻尾が派手に揺れる。昆布だしと醤油と鰹節が合わさったシンプルな味わいが、メセタの舌をしっかりと捉えたらしい。茹でて甘みの増したキャベツと、鰹節の風味が絡んで、箸休めとは思えない深みがある。
「もうひとつの白菜のも食べてみる?」
「食べたいです!!……はい、あーん!」
自分から口を開けた。今度は白菜のおかか和えを口に運ぶ。
「あむ……もぐもぐ……っ」
また止まった。今度は少し長い沈黙だった。白菜はキャベツよりも水分が多くて甘みがやさしい。同じおかか和えでも、素材の違いで味の印象がずいぶん変わる。
「……これも美味しいである!でもキャベツとは違う味わいですね」
「気づいたか。同じ調味料でも、野菜が違うと全然変わるんだよ」
「料理というのは奥深いですな」
感心したように呟いて、メセタはまた口を開けた。
「メセタ用の皿に残りを移しておくから、ゆっくり食べて」
「はーい」
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「さて俺も食べようっと」
「待って!スコーンをまだ食べていないであるよ!」
「そうだったな。じゃあひとつ食べてみるか。はい、あーん」
「あむ……もぐもぐ……」
スコーンを噛んだ瞬間、メセタの目がぱっと開いた。
「これは……外はほろほろで、中はモチモチしていて……なんとも素朴なのに後を引く味わいであります!!」
「ドライイーストを抑えたからパンよりも重くなくて食べやすいはずだよ」
「もっと食べたいであります!」
「夜のおつまみだから、ほどほどにね」
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テレビをつけて、チャンネルを確認する。画面の隅に時刻が出ていた。午後8時55分。
『本日夜9時より、ミステリーサスペンスドラマ特別版・湯けむり温泉郷殺人事件を放送いたします』
「おっ、ちょうどいい時間だ」
「我が君、これは何をやるのですか?」
「ミステリーサスペンスドラマだよ。元の世界でも有名な作品だったんだけど、こっちでも見られるとは思わなかったな」
「ミステリーサスペンス……どういうものですか?」
「人間の役者が演じるドラマで、謎と事件を解いていく話だよ。これは元々小説が原作でね」
「小説とは、文字だけで物語を表現するものですよね」
(メセタは本当に察しが良い)
思わず頭を撫でた。
「そうだよ。よく知ってたな」
「嬉しいであるよ……それで、どれくらいの長さのものなのですか?」
「短いと2時間、長いと3〜4時間。特別長いやつだと3日間かけて放送することもあって、1日3時間×3日で合計9時間なんてものもある」
「9時間!?それは大作でありますな」
「今日のはそこまで長くないから安心して」
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冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して、マグカップに注ぐ。こぽこぽと音を立てながら、鮮やかなオレンジ色が注がれていく。
「それ飲みたい!」
「どうぞ」
深めの皿にオレンジジュースを注いで、メセタの傍に置いた。メセタが器用に舌を使ってゆっくりと飲んでいく。
「これは……りんごジュースとは違う!」
「オレンジジュースだよ。どうだ?」
「甘くて少し酸っぱくて……これも美味しいであります!!」
「よかった。さ、もうすぐ始まるよ」
おつまみの皿をテーブルに並べ直して、ふたりでソファに落ち着く。メセタが俺の隣にぴたりとくっついてきた。
画面が切り替わって、ドラマのオープニングが流れ始めた。
おつまみをつまみながら、テレビを見る。ジュースを飲みながら、たまに話す。それだけのことなのに、妙に満ち足りた時間だった。
異世界での夜が、ゆっくりと更けていく。
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