27 メセタはドライヤー初体験です
湯船から上がる頃合いを見て、俺はメセタに声をかけた。
「そろそろ出ようか」
「ですな」
縁に手をかけてゆっくりと立ち上がる。お湯が名残惜しそうに滴り落ちた。
タオルで自分の身体を拭きながら、ふとメセタを見た。濡れた銀色の毛が体に貼り付いて、いつもよりずっとほっそりして見える。
「メセタ、失礼するよ」
「?」
メセタの耳をそっと持ち上げて、息を吹き込んだ。
「ふっ」
次の瞬間、
ぶるんっ、ぶるぶるぶるっ、ぶるんぶるんっ!!
メセタが全身を高速で振り始めた。水飛沫が四方八方に飛び散って、タイルを濡らす音が風呂場に響き渡る。俺は思わず一歩引いて、腕で顔を庇った。
「よく知ってますねえ」
「まあね。耳に息を吹くとそうなるって」
犬系はこれで水気を飛ばすらしいと聞いたことがあった。実際に目の前でやられると、迫力が違う。
「あとはドライヤーで乾かして終わりだよ」
「ドライヤー?それは何ですか?」
「見た方が早いから、ちょっと待ってて」
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先に自分の身体をしっかりタオルで拭いてから、着替えを済ませた。それからメセタ用のドライヤーを念じる。
ぽんっ。
手の中に、少し大ぶりの機器が現れた。本体には『ハイランドウルフ専用ドライヤー・安全装置付き』と書いてある。コンセントに繋いで、電源スイッチをオン。
バフーという音と共に、温かい風が吹き出した。
「おお!これはすごいである!」
「温かい風で毛を乾かす機械だよ。しかも『ハイランドウルフ専用』だって」
メセタが固まった。
(そんな物まであるのであるか!?)
目が点になっている。衝撃を受けているのが全身から伝わってくる。メセタは本当に表情が豊かで、何を考えているかがすぐわかる。それがなんとも憎めない。
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ドライヤーをメセタの毛に向けながら、反対の手でブラシを念じた。
ぽんっ。
もう一方の手に、ブラシが収まった。
「ハイランドウルフ用高級ブラシ、だって」
また固まった。
(ブラシまで……しかも高級ブラシ……)
三度目の衝撃だ。今日だけで何回このリアクションを見ただろう。
ドライヤーの温風を当てながら、ブラシでしゅっしゅっと毛並みを整えていく。根元から毛先へ向けて、丁寧になぞるように。濡れてまとまっていた銀色の毛が、ほぐれるたびにふわりと膨らんでいく。
「これは気持ちいいですね……」
メセタが目を細めた。さっきの湯船とは違う、うっとりとした表情だ。
「ブラッシングって気持ちいいよな」
「ですな……なんか眠くなってくる感じです」
「寝ないでよ。まだ乾いてないから」
「はいである……すぅ」
「寝るな」
軽く頭を小突くと、メセタがはっと目を開けた。
ドライヤーとブラシを交互に使いながら、首、背中、脇腹、尻尾と順番に乾かしていく。毛量がそれなりにあるから時間はかかるが、ブラッシングのたびに毛並みがきれいに整っていくのが面白くて、手を止める気になれなかった。
最後に全体をもう一度ブラシでなぞる。
「完成」
乾き上がったメセタの毛は、シャンプー前よりもふんわりと量が増したように見えた。木々の香りがほのかに残っていて、撫でると指がするすると沈んでいく。
「さっきより毛がふわふわだ」
「そうですか!?」
「うん。触ってみ」
メセタが自分の前足で胸の毛を触った。
「本当だ……これは嬉しいであるぞ!!」
尻尾がまた全力で揺れ始めた。
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リビングに戻ると、メセタはすぐさまソファに飛び乗った。
「ふかふかである」
「さっきより毛がふわふわだから、ソファのふかふか感が増してるんじゃないか」
「確かに!!」
俺は冷蔵庫へ向かいながら、夜のおつまみを取り出し始めた。
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