23 アイスクリームを作ろう
これは少し時間を巻き戻した話だ。
マヨネーズを仕
卵を割って、白身と黄身に丁寧に分ける。
白身の入ったボウルに電動泡立て器をあてて、スイッチを入れた。ぶわっと白身が泡立ち始める。ある程度泡立ったところで、
「グラニュー糖、容器付きで」
ぽんっ。
容器に入ったグラニュー糖が現れた。大さじ一杯をボウルに加えて、さらに撹拌を続ける。
メレンゲには段階がある。ゆるくて角が折れる状態、しっかり角が立つ状態、そしてそれよりもさらに細かく均一なクリーム状。今日はアイスクリームを作るから、一番最後の状態まで持っていく必要がある。生地の中で氷の結晶が大きくなるのを防ぐためだ。きめが細かいほど、冷凍してもなめらかに仕上がる。
電動泡立て器の音を聞きながら、ボウルの中を観察する。泡がどんどん小さくなって、表面に光沢が出てきた。持ち上げると、ゆっくりとリボン状に落ちる。
(これくらいでいい)
次は黄身だ。別のボウルで同じように撹拌していく。黄身は白身より粘度があるから、少し時間がかかる。でも根気よく続けると、淡いクリーム色のなめらかなペースト状になってくる。ここまで来たら十分だ。
白身と黄身を合わせて、ヘラでさっくりと混ぜ合わせる。泡を潰さないよう、底からすくい上げるように。全体が均一な色になったら、スプーンで少し舐めてみた。
甘い。やさしくて、ふんわりとした甘さだ。卵だけとは思えない。
これを冷凍庫へ。一時間から二時間冷やせば完成だ。
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そして時間は現在へ戻る。
夕飯の配膳を終えて、テーブルに料理が並んだ。
海老フライ、海老天ぷら、鯵フライ、蟹の天ぷら、付け合わせのサラダ。色とりどりの揚げ物が皿を埋め尽くしている。
「よし、食べるぞ」
「はい!すごいご馳走ですね……!」
メセタの目が輝いている。
俺も箸を取って、まず海老フライを一口。衣がサクッと割れると、中からぷりっとした海老の身が現れた。噛むほどに甘みが広がって、後からタルタルソースのまろやかな酸味が追いかけてくる。
鯵フライは青魚らしいしっかりとした旨みがあって、衣の香ばしさと合わさるとどこか懐かしい味がした。蟹の天ぷらは衣が薄くて軽く、蟹の身のほんのりとした甘みがそのまま口に入ってくる。
丁寧に揚げた甲斐があった。
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夕飯を食べ終えてしばらくした頃、メセタがぽつりと言った。
「なんか、口が寂しい感じしますな」
「デザートが欲しい感じか?」
「流石我が君、分かっていらっしゃる」
「じゃあ、ちょうどいい頃合いかもな」
「何がですか?」
俺は答えずに冷凍庫へ向かった。扉を開けて、中を確認する。表面がうっすらと固まっていて、スプーンを入れるとすっと沈む。
(よし、いける)
「特別に甘くて冷たいデザートを出してあげよう」
尻尾が高速で揺れ始めた。
アイスクリーム用の器を念じると、プラスチック製のしゃれた容器が現れた。ガラスにしなかったのは理由がある。万が一落として割れたとき、破片がメセタに刺さると困るからだ。メセタ用には広めの深皿を用意して、金属製のアイスクリームスプーンも念じて出した。
スプーンで丸くすくって器に盛り付けると、白くなめらかな山ができた。
メセタの前に置く。
「これはなんですか?」
「アイスクリームだよ。口を開けて」
素直に口を開けるメセタに、スプーンにすくったアイスクリームをそっと乗せてやる。
一瞬、静寂が落ちた。
「っ……」
目が見開かれた。
「つ、冷たい……!!そして、甘い……!!なんだこれは!!」
「どうだ?」
「牛乳を使っていますよね、これ!?あの甘くてクリーミーな感じは絶対そうです!!」
「実は卵だけだよ」
メセタが固まった。
二秒。三秒。
「……卵だけで」
「白身をクリーム状になるまで丁寧に撹拌するとね、まるで牛乳を使ったみたいにクリーミーになるんだ」
メセタはしばらく何も言わなかった。ただ、目がじわじわと輝きを増していった。
「我が君は……最高の逸材であります」
声が少し震えていた。
「大袈裟だよ」
「大袈裟ではありません。卵だけでこの味が作れるなど、わたし、生まれてから今日が一番驚いた日であります」
メセタは目をキラキラさせながら、大事そうに一口ずつアイスクリームを食べていった。
俺も自分の分をすくって口に運ぶ。冷たさが舌の上でゆっくりと溶けて、やさしい甘さが広がっていく。卵だけとは我ながら思えない、まろやかな仕上がりだ。
「夕飯の後にこれは、反則だな」
「反則でも食べますとも」
メセタが即答した。尻尾はまだ全力で揺れていた。
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