22 メセタにラゴス地区とは何かを確認する
「なあ、メセタ」
「なんですか?」
「ちょっと聞きたいんだけど、『ラゴス地区』ってこの世界のどの辺になるのか教えてくれるか?俺、転移でこっちに来たからその辺の地理がまったくわからなくて」
メセタは少し背筋を正してから、話し始めた。
「まずこの世界は前にも言いましたけど、『ファーミング』です」
(うんうん。DeFiの収穫の意味と覚えておこう)
「続けます。この国の名前は『シャピロ』と言います」
(シャピロ……『あのアニメ』の『あいつ』しか頭に浮かばん)
「我が君?続けてもよろしいでしょうか」
「ああ、ごめん続けて」
「この付近一帯が『ラゴス地区』と呼ばれていて、この森は『オーパスの森』と言います」
(オーパスか……『あのゲーム』の宝石みたいなやつしか思い浮かばん)
「そして、この森の奥の池を越えると国境があって、その先は『ラ・ディアス』という別の国になります」
(文字を変えたらあれだ……)
俺は内心でひとりうなずいた。
なかなかにボキャブラリーが豊かな世界だ。俺のようなオタク気質の人間には、どことなく親しみやすい響きの地名ばかりで、むしろ嬉しいくらいである。こういう世界でスローライフを送れるとは、我ながらずいぶんとラッキーな転移先を引き当てたものだと思う。
「よくわかった。ありがとう。あとはゴミ出しステーションの回収曜日さえわかれば文句なしだな」
「そうですね。それはわたしも把握していないので、今度確認してみます」
「頼む」
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さて、地理の話はひとまずここまでだ。
ホワイトクリームルーもサラダも揚げ物も、すでに出来上がっている。残るはパスタだけだ。
「よし、やるか」
深めのフライパンをコンロに置いて水を張り、火にかける。沸騰してきたところでル・マーを投入して、塩をひとつまみ。これでパスタに適度なコシが生まれる。
茹でている間に、具材の準備をする。
背わた処理済みのむき海老と、ボイルしたあさりを用意する。そして、
「みじん切りのバジル」
ぽんっ。
小瓶に入った、みじん切りバジルが現れた。鮮やかな緑色が、小瓶の中にぎっしりと詰まっている。
(こういう小瓶タイプのやつが出てくるのか……便利すぎる)
バジルはホワイトクリームソースに清涼感を与えてくれる。クリーム系のこってりとした味わいに、バジルの爽やかな香りが加わることで、食べていて重くならない。海老とあさりの旨みとも相性がいい。
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パスタが茹で上がる少し前を見計らって、海老とあさりをフライパンに投入する。一緒にさっと茹で蒸しにすることで、海鮮の旨みがパスタ全体に染み渡っていく。あさりから滲み出るだし汁が、ここでも仕事をしてくれる。
そこへ、ホワイトクリームルーをどっと加える。
白いクリームが熱でゆるみながら、海老とあさりを包み込んでいく。塩と胡椒を加えて味を調え、みじん切りバジルをひとつまみ。青い香りがふわっと立ち上がった。
パスタ用ヘラを入れて、底からすくい上げるように大きく混ぜていく。クリームが麺に絡みつき、全体が一体感のある仕上がりになっていく。最後にヘラでぐるぐると巻き取って、二人分を皿に分けて盛り付けた。
クリームの白、バジルの緑、海老の赤、あさりの黒。色がいくつも混ざって、なかなか見栄えがいい。
「やはり我が君の作るパスタは、大きな頂きの上の山のようであります」
「大袈裟だってば」
「大袈裟ではありません。美しいのであります」
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今夜の夕飯が、すべて揃った。
ホワイトクリーム仕立てのパスタ(海老、あさり、バジル)、海老フライ、海老天ぷら、鯵フライ、蟹天ぷら、付け合わせのサラダ。テーブルの上が、料理でいっぱいになった。
転移してきた日の夜は、やまめの刺身と味噌汁だけだった。それが今や、これだけの料理を並べられるようになった。我ながら、なかなかやるものだと思う。
「楽しみであるぞ!!」
メセタの尻尾が全力で揺れている。
「いただきます」
ふたりの声が、小さく揃った。
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