14 ミートソースを、使ったパスタを食べよう
「じゃあ、そのミートソースをパスタにかけて食べてみるか」
言った瞬間、メセタの目が輝いた。
「ミートソースパスタ!?それは美味しいのですか!?食べたいであります!!」
「さっきのソースがそのままパスタに絡まってくるんだから、美味しいに決まってるだろ」
「早くしてください我が君!!」
尻尾が激しく揺れている。俺は苦笑しながら、コンロに向かった。
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パスタを茹でるには、深さのあるフライパンの方が扱いやすい。念じると、コンロの上にちょうどいい深さのものが現れた。水を張って火にかける。
待つ間、メセタがカウンターに顎を乗せてじっとこちらを見ていた。鼻がひくひく動いている。さっきのミートソースの匂いがまだキッチンに残っているせいだろう。
やがて水面がぼこぼこと揺れ始め、白い湯気が立ち上ってきた。
沸騰したところで塩をひとつまみ入れる。パスタを茹でる時に塩を加えるのは、麺にコシを出すためだ。これをするかしないかで、仕上がりの食感がかなり変わってくる。パスタをそっと鍋に差し入れると、麺がじわじわと湯の中に沈んでいった。
茹で時間は5分を目安に。
その間に、昨日作ったミートソースを温め直す。弱火でゆっくりかき混ぜながら熱を入れていくと、トマトとにんにくの香りがふわりと漂い始めた。
「良い匂いです……」
「もうちょっとだから待って」
「はーい」
返事だけは素直だ。
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麺が茹で上がる頃合いを見て、温め直したミートソースをフライパンに加えた。パスタ用のヘラ――表面にぼつぼつのついた、麺が滑り落ちにくい形のもの――を手に取り、全体をゆっくりと混ぜ合わせていく。
ソースが麺に絡みついていく。赤みがかった色が全体にいきわたって、湯気とともにトマトと肉の甘い香りが一気に広がった。
「ふんふんふーん……よし、いい感じだ」
パスタ用の皿を二枚念じると、テーブルの上に現れた。一枚を手に取って、ヘラで麺をくるくると回しながら巻き取り、山を作るように盛り付ける。ソースが皿の縁まで流れないよう、丁寧に形を整えた。
「おお……!」
メセタが目を丸くした。
「これは芸術では!?まるで山のようで、美しいのである!」
「芸術はよしてくれ。ただの盛り付けだよ」
「いいえ、美しい。断言します」
(……そこまで言うか)
照れくさくて、俺は視線を皿に戻した。
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「さあ、できたよ」
メセタの分を床に置いてやる。
「いただきます!……あむ」
一口食べて、メセタがぴたりと止まった。
咀嚼しながら、何かを整理しようとしているような間があった。トマトの酸味、肉の旨み、にんにくの香り。それがパスタの弾力ある食感と絡み合って、口の中で一つの味になる。単純なようで、食べるほどに奥行きが出てくる。そういう料理だ。
「……んんぅ」
低い声が漏れた。
「なんという……芳醇な香りと、ほのかな酸味が……!麺と絡まって……あむっ、あむっ……美味いのである!!」
もう止まらなかった。夢中になって食べ進めていく。
俺も自分の皿を前にして、箸を手に取った。
「いただきます」
一口、口に運ぶ。
麺がもちっと歯に当たって、噛むとミートソースの旨みがじわりとあふれ出してきた。トマトの酸味は煮込まれた分だけ甘みに変わっていて、肉の脂がコクを加えている。にんにくの香りが鼻から抜けて、後味がすっきりとしていた。
「……美味あ」
思わず声が出た。
ぱくぱくと食べ進めるうちに、幸せな気持ちが胸の中に広がっていく。手間をかけて作ったものを、誰かと一緒に食べる。その単純なことが、こんなに満ち足りた時間をつくってくれるのかと、少し驚いた。
気づけば、二人とも皿が空になっていた。
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食べ終えて、俺は布巾を手に取った。自分の口元を拭いてから、メセタの口の周りについたソースも丁寧に拭いてやる。
「……ありがとうございます、我が君」
メセタが静かな声で言った。さっきまでの興奮が落ち着いて、穏やかな表情になっている。
「我が君と一緒にいると、いつも驚きと美味しいに巡り会えます。……幸せであります」
俺は少し考えてから、答えた。
「こっちこそ。一緒に食べてくれる相手がいると、作る気にもなれるから」
それは本当のことだった。
異世界に来て、一人だったら、きっとここまで丁寧に料理はしていなかった。誰かに食べてもらう、誰かと驚く、誰かと笑う。そういうことが、この場所での暮らしを豊かにしてくれている。
窓の外では、畑の芽が風にそっと揺れていた。
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