15 夕飯の献立は何がいいかメセタに聞いてみる
昼食を食べ終えて、ソファでひと息ついた頃、ふと夕飯のことが頭をよぎった。
まだ畑の野菜は使えない。今朝芽が出たばかりだ。となると、いつも通り願って出すことになるが――せっかくなら、メセタの食べたいものを聞いてみよう。
「メセタ、今日の夕飯、何か食べたいものある?」
メセタはしばらく考えてから、少し遠慮がちに言った。
「できれば……野菜が食べたいですね。肉ばかりではいけませんから」
「野菜か。どんな感じのが好き?」
「温かくて、柔らかいやつがいいです」
なるほど。温野菜、スープ、煮物あたりが合いそうだ。
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テーブルにキャベツと白菜を出した。どちらもずっしりと重たい、立派な玉だ。
「これは?」
「キャベツと白菜。どっちも野菜だけど、実は植物学的には同じ仲間なんだよ」
「え、全然似てないのに?」
「見た目は違うけどね。どっちも『アブラナ科』の植物なんだ」
「アブラナ……」
メセタが首を傾けた。興味が出てきた顔をしている。せっかくなので、続けた。
「同じ仲間の野菜は他にもある。レタスとかね」
レタス、サニーレタス、ロメインレタスを念じると、テーブルの上に三つ並んだ。それぞれ色も形もずいぶん違う。
「レタスなのに、全部見た目が違いますね」
「品種改良の結果なんだよ。長い時間をかけて、食べやすくなるように少しずつ変えていった。それがこの三種類になった……まあ、俺の知識が正確かどうかは怪しいけど」
「凄いですね……そんなことを考えた人がいるんですね」
「俺じゃなくて、それを作った人が偉大なんだよ」
謙遜ではなく、本当にそう思う。食べ物ひとつにも、知らないところで誰かの知恵と手間が積み重なっている。
そこで、ふとあるものが頭に浮かんだ。
「……あ」
「どうしました?」
「いいこと思いついた。トマト」
ぽんっ。
テーブルの上に、丸くて赤いトマトが転がり出てきた。
「この赤いやつは?」
「さっき食べたミートソースの材料のひとつだよ」
「これが、あの美味しいソースに!?」
メセタの目が輝いた。生の状態と料理になった後の落差が、よほど意外だったらしい。
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さて、今夜の献立の方向性が見えてきた。温野菜、ゆで卵、そしてトマトをどう使うか。
まず片手鍋を念じてコンロに置き、水を張って卵を三つ入れる。塩をひとつまみ加えて火にかけた。
「卵、茹でてるんですか?」
「ゆで卵にしてから使うんだよ。茹でてからが本番」
「?」
わかったような、わからないような顔をしていた。まあ、出来上がってからのお楽しみだ。
沸騰してきたところで、キッチンタイマーを念じてセットする。ここから10分。その間に、もう一本片手鍋を出してキャベツと白菜をざっくりとぶつ切りにして投入した。茹でる時も塩をひとつまみ。これで野菜の色が鮮やかに仕上がる。
二つの鍋がコンロの上でぐつぐつと音を立て始める。蒸気が上がって、キッチンがじんわりと温かくなってきた。
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次は味付けだ。
「醤油と鰹節、出てこい」
ぽんっ、ぽんっ。
テーブルに醤油の瓶と鰹節のパックが現れた。醤油のラベルには『フンドーキン』とある。九州の甘口醤油だ。鰹節は初鰹のもので、袋越しでも香りが伝わってくる。
「これは?」
「醤油と鰹節。今日の野菜料理に使う」
「醤油……飲めますか?」
「ごくごくはだめだけど、少しだけなら試してみる?」
「試したいです!!」
俺は指先に醤油を一滴垂らして、メセタの前に差し出した。ぺろりと舐めたメセタが、ぱっと目を見開く。
「何これ!?しょっぱいのに甘い!?」
「それがフンドーキンの特徴なんだよ。甘口醤油だから」
「美味しい……もっと――」
「だめ。塩分が強いから少しでいい」
口を尖らせたメセタをなだめながら、俺は鍋に目を戻した。犬や狼の系統に塩分の強いものを大量に与えるのはよくない。少し試す程度なら問題ないが、加減は必要だ。
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ちりりりり。
キッチンタイマーが鳴った。
火を止めて、ゆで卵の鍋をシンクへ移す。水道を出して冷水をかけていく。熱いまま触ると殻が剥きにくいし、黄身の周りが黒ずんでしまう。2~3分ほど冷やせば、ちょうどいい頃合いだ。
ざあっと水の流れる音が、湯気の立つキッチンに響いた。
「なんで水をかけるんですか?」
「冷やして殻を剥きやすくするためだよ。急に冷えると殻と身の間に隙間ができるんだ」
「なるほど……我が君は料理をよく知っていますね」
「家でよく作ってたからな」
元の世界での日常が、ここでこうして役に立っている。それが少し、嬉しかった。
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