13 メセタははじめてミートソースを食べる
家の中に戻ると、メセタがソファに飛び乗った。
「我が君!?これめっさふかふかです!!」
「そうなんだよ。迂闊に座ると眠くなるんだよな……あれ?」
「………………すぅ」
寝ていた。
着地して三秒も経っていない。銀色の毛並みがゆっくりと上下している。よほど気持ちいいらしい。
(まあ、いいか)
起こすのも悪い気がして、俺はそっとキッチンへ向かった。昼食の準備をするにはちょうどいい時間だ。
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何を作ろうか。
パスタがいいな、とぼんやり思った瞬間、
ぽんっ。
(ん?)
テーブルの上に、パスタが現れた。袋を手に取ると、見覚えのあるブランドだった。しかも1kg入りだ。
(太っ腹だな、俺の能力)
続けて必要なものを頭の中で並べていく。トマト缶、合い挽き肉、にんにく、玉ねぎ、コンソメ、缶切り。
ぼんっ。
一際大きな音がして、テーブルにずらりと食材が並んだ。にんにくの鱗片が転がっていくのを手で押さえながら、俺は缶切りでトマト缶を開ける。ぷんと酸味のある香りが立ち上った。
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まずは下ごしらえだ。
玉ねぎを包丁でみじん切りにする。目に染みてくるのを堪えながら、細かく、均等に刻んでいく。続いてにんにくの皮を剥いて、同じようにみじん切りにした。まな板の上に、白と白の小さな粒が並んだ。
オリーブオイルを念じると、ボトル瓶が出てきた。ラベルを見ると聞き慣れないブランド名が書いてある。まあ、市販の上質なものだろうと判断して、フライパンに少し回しかけた。
火にかけると、じわじわとオイルが温まり始める。玉ねぎとにんにくをフライパンへ。
じゅうっ。
香りが一気に広がった。にんにくの刺激的な香ばしさと、玉ねぎの甘い匂いが混ざり合って、キッチン全体に漂っていく。木製ヘラで炒めながら、小麦粉を大さじ一杯加えてさらに混ぜる。全体がなじんだところで、トマト缶をどっと流し込んだ。
赤い液体がフライパンに広がって、ぐつぐつと煮え始める。水を加えてコンソメを二包、ソースとケチャップも加えて、ヘラでゆっくりとかき混ぜる。
(いい匂いだ)
胃袋が素直に反応している。トマトの酸味とコンソメの旨みが合わさって、煮詰まるほどに甘みが増していく。これはいけそうだ。
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しばらくして、ソファの方からぱたぱたと足音がした。
「……なんです?この良い匂いは」
メセタが眠そうな目をこすりながらキッチンを覗いている。
「起きた?ミートソース作ってる」
「ミートソース!?なんですかそれ!?」
さっきまでの眠気はどこへやら。尻尾が揺れ始めた。
「あとは煮立てるだけだからもう少し待ってて」
「はーい」
メセタはカウンターの縁に顎を乗せて、フライパンをじっと見つめていた。鼻がひくひく動いている。匂いだけで十分に惹きつけられているらしい。
頃合いを見て火を止めた。
「できた」
小さなスプーンにソースをひとすくいして、少し冷ましてからメセタの前に差し出す。
「これがミートソース?」
「そう。食べてみて」
「……あむっ」
一瞬、時が止まったように静かになった。
メセタが何かを言おうとして、言葉を探しているのがわかった。口の中でゆっくりと味を確かめているのだろう。トマトの酸味、肉の旨み、にんにくの香り、コンソメの深み。それが全部ひとつになって、初めて口にした者を戸惑わせるくらい複雑で、でも間違いなく美味しい味のはずだ。
「……うん!?」
目が開いた。
「美味あ!?なんですかこれ!?酸っぱいのに甘くて、肉の味もして……全部が一緒になってるのに、ちゃんとそれぞれわかる……!!」
尻尾が全力になった。
「気に入ってくれてよかった」
「パスタというものにかけて食べるんですよね!?早くしてください我が君!!」
「せかすな」
俺は苦笑しながら、鍋に湯を沸かし始めた。
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