11 畑を耕す。家でおやつを作ります
朝食を終えて、できたばかりの畑へ向かった。
倉庫の扉を開けて鍬を手に取る。木の柄が手になじむ重さだった。昨日願った瞬間に現れたものとは思えないくらい、使い込まれたような落ち着きがある。
畑の土は柔らかく耕されていたが、作物を植えるにはもう少し手を入れた方がいい。鍬を振り下ろすと、ざくりと気持ちのいい音がした。土をほぐして、盛り上げて、畝を作る。またほぐして、盛り上げて、畝を作る。
単純な作業なのに、不思議と飽きなかった。土に触れている感覚が、どこか落ち着く。異世界に来てからずっと願えば何でも出てくる生活をしていたから、こうして体を動かして何かを作る感触が新鮮だった。
畝がいくつか出来上がったところで、俺は一本ずつ指差しながら声に出した。
「この畝はトマト。この畝はキュウリ。この畝はキャベツ。この畝は白菜。この畝は大根」
言葉にすると、なんとなく決意が固まる気がした。ここで育てる、という気持ちが。
畝を眺めながら、ふと思った。
(このあと1時間くらい雨が降ってくれると、土が締まって助かるんだけどな)
ぽつり。
頬に、冷たいものが当たった。
空を見上げると、いつの間にか雲が広がっていた。ぽつり、ぽつり、と雨粒が増えていく。
「……またか」
苦笑しながら、俺は家の中へ駆け込んだ。
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軒先から畑を眺めると、雨が土をしっとりと濡らしていくのが見えた。願った通りの雨だ。この能力、天気まで動かせるらしい。もはや驚く気力もない。
雨音を聞きながら、ふと思った。
(牛乳はある。小麦粉と卵と砂糖があれば、簡単なおやつが作れるな)
ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ。
テーブルの上に、小麦粉の袋、卵のパック、砂糖の袋が並んだ。続けてボウル、泡立て器、ヘラを念じると、次々と手元に揃っていく。
「よし」
腕まくりをして、作業を始めた。
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まずボウルに小麦粉を入れる。中央にくぼみを作って、卵を割り入れる。黄身が鮮やかな橙色をしていた。砂糖を加えて、牛乳を少しずつ注ぎながらヘラでざっくりと混ぜ合わせる。粉っぽさがなくなってきたら、今度は泡立て器に持ち替えて、底からすくい上げるようにぐるぐると混ぜていく。
生地がなめらかになって、とろりと落ちるくらいの固さになったら頃合いだ。
お菓子用のおたまを念じると出てきた。布巾と油も同様に揃えて、フライパンをコンロに置いて火にかける。
じんわりとフライパンが熱を帯びてきたところで、濡れ布巾の上に移す。しゅーっという音とともに、余分な熱が抜けていった。温度を均一にするためだ。
コンロに戻して油を薄く引き、おたまで生地をすくってフライパンの中央にそっと流す。
じゅうっ。
香ばしい匂いが立ち上った。生地がゆっくりと広がって、丸い形になっていく。しばらくすると表面にぷつぷつと小さな気泡が現れ始めた。一つ、二つ、三つと増えていき、気泡が弾けて小さな穴が残るようになってきた頃、
「フライ返し」
手の中にフライ返しが収まった。タイミングを見計らって、さっとひっくり返す。
ふわりと膨らんだ。裏面が焼けていくにつれて、甘い香りがキッチン全体に広がっていく。バターと卵の混ざったあの匂いは、どこか懐かしい気持ちにさせる。
焼き上がったものから皿に移して、全部で四枚。バターをひとかけらのせると、温かい生地の上でゆっくりと溶けていった。シロップを念じると容器ごと出てきたので、細く線を描くようにかけていく。
「よし。おやつのホットケーキ、完成」
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メセタが台所の入り口からずっと覗いていた。鼻がひくひく動いている。
「美味しそうですね……」
「食べやすく切っておくよ」
メセタの分を一口大に切り分けて皿に乗せ、テーブルに置いた。
「どうぞ」
「いただきます!……あむ」
一口食べて、メセタが動きを止めた。
咀嚼しながら、目がゆっくりと見開かれていく。
「……うーん」
唸るような声だった。
「甘いのに、重くない。モチモチしているのに、ふわっとしている。なんとも言い難い……これは……」
二口目を食べた。また止まる。
「最高でありますぞ!!」
尻尾が全力で揺れた。
(喜んでくれてよかった)
俺も自分の分を口に運んだ。表面はほんのり香ばしく、中はしっとりと柔らかい。シロップの甘さとバターのコクが絡み合って、噛むたびに口の中に広がっていく。生地のふわっとした軽さのせいか、いくらでも食べられそうな気がした。
「旨い」
「旨いですね!」
雨音を背景に、ふたりでホットケーキを食べた。
畑には雨が降り続いている。土の中で、これからトマトやキュウリやキャベツが育っていく。今日蒔いた種が、いつか食卓に並ぶ日が来るのかもしれない。
そう思うと、なんだか少し楽しみになってきた。
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