10 物置用倉庫を願ってみる
目が覚めると、窓の外から鳥の鳴き声が聴こえた。
昨日よりも少しだけ遠くの声まで拾える。メセタとの契約で鋭くなった聴覚は、まだ少し慣れない。悪くはないが、朝一番に耳に飛び込んでくると少々びっくりする。
顔を洗い、リビングへ向かいながらぼんやりと考えた。
(朝はパンがいいな。8枚切りの食パンと牛乳、塗るバターがあれば)
ぽんっ、ぽんっ。
テーブルの上に、食パンの袋とパックの牛乳、塗るバターが揃っていた。
「よし」
と思ったところで気づいた。
(トースター、無かった)
ぽんっ。
テーブルの隅に、コンパクトなトースターが現れた。電源コードもきっちりコンセントに刺さっている。
「良きかな良きかな」
独り言を言いながらコンロに向かっていると、廊下からぱたぱたと足音がした。
「おはようございます、我が君。……これはなんですか?」
寝室から出てきたメセタが、テーブルの上をじっと見つめている。食パン、牛乳、バター、トースター。銀色の鼻がくんくんと動いた。
「さっき願ったら出てきた」
「相変わらず凄い能力ですね」
しみじみとした口調でメセタが言う。褒められるのは嬉しいが、毎度のことになってくると俺自身が感覚を失ってくる。
(凄いのかどうかすら、もうよくわからなくなってきたな)
それよりも、ふと気になったことがあった。
(物が増え続けているわけだし、そのうち家の中が手狭になるかもしれない。物置用の倉庫でもあった方がいいかな)
その瞬間だった。
ぼんっ。
家の外から、鈍くて大きな音が響いた。
「我が君、いま凄い音がしませんでしたか?」
メセタが耳をぴんと立てて、窓の方を向いている。
「したな。ちょっと見てくる」
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玄関を出て周囲を確認したが、正面には何もない。首を傾げながら家の裏側へ回ってみると――あった。
この家の半分ほどの大きさの、どっしりとした倉庫が建っていた。木製の外壁に、頑丈そうな扉。さっきの音は、これが現れた音だったらしい。
(でかい)
扉を開けて中に入ると、思ったよりもずっと広かった。天井も高い。棚や仕切りはまだないが、それだけに何でも置けそうな空間が広がっている。
(これだけ広いなら、隣に畑でもあったら楽しいかもな)
ぽんっ。
倉庫のすぐ隣に、整地された畑のスペースが出来上がっていた。土が柔らかく耕されている。
(本当に出来てる……!)
となれば、道具も要る。
(畑仕事の道具一式、倉庫の中に)
ぼんっ。
倉庫の中から音がした。戻って確認すると、鍬や鋤、じょうろ、手袋といった農具が壁際にきれいに並んでいた。
(電気も欲しいな)
ぽんっ。
天井に明かりがともった。倉庫の隅々まで、柔らかい光が届いている。
「へ、へえ」
語彙が消えた。
後ろからついてきていたメセタが、倉庫の中を見渡しながら言った。
「凄すぎますねぇ、我が君」
「……そうだな」
俺も同意するしかなかった。
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家に戻り、トースターに食パンを一枚差し込んでスイッチを押した。
じわじわとパンの焼ける香ばしい匂いが漂い始める。バターの甘い香りも混じって、台所がいっきに朝らしくなった。
しばらくして、チンと小気味よい音がした。取り出した食パンは、表面がきつね色に焼けてほんのり湯気を立てていた。
皿に載せて、バターナイフを念じると手の上に落ちてきた。ナイフでバターをすくい、温かいトーストの上にのせると、じわりと溶けながら広がっていく。表面に薄い光沢ができた。
かじると、外はさくっと、中はふんわり。溶けたバターのコクが口の中に広がって、鼻から抜けていく香りが何とも言えない。シンプルなのに、朝にこれ以上のものが必要か、と思うくらい満足感があった。
「旨い」
「わたしも食べたいです……!」
メセタが隣でそわそわしている。尻尾も揺れている。
「わかった、焼くよ」
もう一枚をトースターに入れてスイッチを押す。待つ間、メセタは焼ける音をじっと聞きながら鼻をひくひくさせていた。
チン。
取り出してバターを塗り、メセタの前に皿を置いた。
「どうぞ」
「では……あむ」
一口かじって、メセタが固まった。
二秒ほど沈黙した後、
「……旨い!!」
目を輝かせながら、丁寧に、でも嬉しそうに食べ進めていく。食べ終わる頃には尻尾が全力で揺れていた。
「毎朝これが食べられるのですか?」
「願えば出てくるからな」
「なんと幸せな朝でしょう」
俺も同感だった。
倉庫ができて、畑もできて、道具も揃った。朝はトーストが食べられる。昨日よりも少しだけ、ここでの暮らしが豊かになった気がした。
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