9 トイレも快適空間で最高に幸せである
これは、俺がこの家を手に入れてすぐの頃の話だ。
まだ自分の能力のことをよくわかっていなかった、あの日のことである。
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急に、もよおしてきた。
家の中を見渡すと、それらしき扉がある。トイレかな、と思いながらドアに手をかける直前、頭の中にぼんやりとした願望が浮かんだ。
(トイレって、快適な空間がいいよな。シャワートイレはほしい。広くて使いやすくて、収納棚もそこそこあって。トイレットペーパーも何ロールかストックできるくらいは欲しいな。あと芳香剤も……俺の好きな香りのやつがあったら最高なんだけど)
扉を開けた。
「……結構広い」
思わず呟いた。シャワートイレが鎮座していて、収納棚もある。棚にはトイレットペーパーがきっちりストックされていた。そして漂ってくる香りが、俺の好きなやつだった。
「芳香剤まで……」
この時の俺はまだ、自分の能力に気づいていなかった。だからただ「なんか思った通りだな」と思いながら、用を足した。
ひとつだけ不安があった。
(これ、ちゃんと水洗トイレだよな。流れるよな、水)
レバーを押す。
じゃーっ。
流れた。
(よかったー)
心底ほっとしながら、トイレを後にした。
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その後、魚料理を作り、刺身を仕上げた。一連の流れはもう板についてきた。
食事を終えてリビングでくつろいでいると、メセタがテレビをじっと見つめていた。
「我が君、これはいったい何という物なのですか?」
「テレビだよ。俺がこの世界に来る前の世界で使っていた物でね、向こうの番組がそのまま映るんだ」
「向こうの世界の……番組」
「チャンネルが10くらいあって、時間帯や曜日ごとに違う番組が見られる。ニュースもあればバラエティもあるし、色々だよ」
「それは素晴らしい技術ですね」
俺はリモコンをいくつか操作して、メセタにチャンネルを見せていった。バラエティ、料理番組、ドキュメンタリー。メセタの目がチャンネルを変えるたびにきらきらと輝いていく。
「貴方様の世界の技術、すごすぎます……!」
「まあ、向こうじゃ当たり前の物なんだけどね。俺はその中でもアニメとゲームが特に好きで」
「アニメ!?ゲーム!?それはどういう物なのですか!?」
目の輝きが、さらに増した。
「アニメはね、この後ちょうど放送されるから一緒に見ようか。『ハニーキャッチ!ウルピア』っていう作品で――」
「見ます!絶対見ます!!」
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並んでソファに座り、アニメを見た。
メセタは最初から最後まで、一切目を離さなかった。エンディングが流れ始めた頃には、前のめりになって画面に顔を近づけていた。
「……続きは来週ですか」
「そう。日曜日の同じ時間に」
「来週の日曜日が楽しみです……!!」
目がまだきらきらしていた。食事の時間より明らかに興奮している。
(こんなに早くハマるとは)
まあ、気持ちはわかる。アニメは面白い。
「ゲームも好きだって言ってたじゃないですか。ゲームはいつ見せてもらえますか?」
「ゲームはゲーム機がいるから……今度願ってみるか」
「お願いします!!」
尻尾が全力で揺れた。
異世界でアニメの続きを楽しみにしている狼と、ゲーム機を願うかどうか考えている俺。
スローライフというより、もはやただの日常だった。それが、悪くなかった。
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